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#都市伝説
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マキオくんの戦闘シーン、めっちゃ重くて刺さった…!😭💔 六歳の子があんなに激昂して暴れる姿、見てるこっちも苦しくなるし、ミサキさんの「見守るしかない」って台詞がもうね…。でも最後の「ぼくは栗原マキオ。六歳です。ママの名前は栗原ミサキです!」って自己紹介、めちゃくちゃエモくて泣きそうになったよ…! マキオくんの優しさと強さ、どっちも本物なんだなって伝わってきた⋆♡
マキオが翼の先端で虚空を叩き、急降下をしかける。乱杭歯を砕き折られ、苦痛に悶え顔を抑えている浮足坊主を目がけて。
相手もマキオの接近に気がつき、狂ったように両腕をブンブンと振り回し迎え撃とうとする。
私は血の気が引くのを覚えた。あんな丸太のような腕がまともに当たれば、いや、かすっただけでもマキオの小さな身体は吹き飛ばされてしまうだろう。
だけど、ひやひやしている私をよそに――。
マキオは敵の攻撃を寸前のところまで引き寄せ、躱し続けていた。ひらり、ひらりと翼をはためかせて。まるで蝶のように。
神前に奉じられる舞のごとく、マキオの動きは優美だった。
……いや。見惚れている場合じゃない。早くここから――、例え自分一人だけでも逃げるようああの子に伝えなくては。
マキオは優しい。だから、私の危機を察知し、叔父通り飛んで来てくれたのだと思う。
だけど、今は神様と一体化していると言ってもマキオはマキオ。
普通の小さな男の子。そんな子供を浮足坊主みたいなバケモノと対峙させていいわけがない。ましてや戦うなんて言語道断だ。
「――マキオ! やめて! もうやめて!」
私はマキオが外法で作り出したであろう球体の中から、両手をメガホン代わりにして大声で呼びかけていた。
「あんたまでそんな危ないことしないで! お願いだからはやく」
逃げなさい、と最後まで私は告げることができなかった。
それよりも素早くマキオは羽ばたいて、ピタリと浮足坊主の右の肩に飛び乗っていたから。
それから素早く両手を伸ばして黒い毛だらけの腕をつかみ、力み声をあげて引っぱる。同時に両足を押し当てて突っ張りながら。
メリメリ、メリメリと裂けるような嫌な音がして――。
マキオは浮足坊主の腕を引き千切っていた。
無残に肉がもげ、刺激臭のする廃液みたいな色合いの体液がドバドバと大量に噴き出しこぼれ落ち、降りそそぐ血の雨に川面がどす黒く染まる。
「キサマが! キサマごときが! ぼくのママをまろの愛しい里の子らを! 殺してやる! 殺してやるぞ雑鬼め!」
雷鳴のような大音声でマキオは絶叫していた。
自分の背丈の倍以上の長さはある腕を軽々と振り回し、腕の主である浮足坊主を滅多打ちにしていた。
棍棒の要領で一撃、また一撃と殴りつけられるたび、浮足坊主の身体はへしゃげ潰れてゆく.マキオは浮足坊主を文字通りボコボコにしていた。
それは私にとってどんな地獄よりも酷い光景だった。込み上げる恐怖とストレスに脳が委縮するのがわかった。膝から力が抜け、へなへなと球体のなかで私は座り込んでしまう。
マキオは神経質だが決して暴力的な子じゃない。
同じ幼稚園の子がオモチャを粗雑に扱うと顔をしかめて嫌がるぐらい乱暴なのは苦手なタイプだ。それなのにあんなに粗ぶっているのは、明らかに私の、私達を思ってのことだ。
そのマキオにあんなことをさせてしまうなんて……。
あまりに痛ましくて目をそらしたくなるが――、しっかりと気を保ち、私はあの子を真っ直ぐに見すえた。
これが今のマキオだ、私の息子なんだ。手出しのしようがないなら、せめて見守るしかない。私にできることはただこの現実を受け入れることだけだった。
と、マキオの攻撃の手がとまった。
見れば肩が激しく上下、息が上がっている。当然だろう。
今、超常的な存在と一体化しているとは言え、まだほんの子供で体力もない。あれだけ激しく動けば須玖に疲れてしまうのも当たり前だ。
しかし、浮足坊主はと言うと――、一方的に殴られ痛めつけられ、足元をふらつかせながらも倒れなかった。
や、それどころか。
「い、いやはや……、参りましたねこれは。と、突然現れた訳の分からない子供にここまで叩きのめされようとは.……ただぁし!」
鼓膜をつんざくような大声を浮足坊主が張りあげる。
先ほどマキオに腕を引き千切られ、無残な断面を晒していた傷口に悍ましい変化が発生。ぶくぶくと泡立ちながら皮膚が、肉が不気味な蠢動を見せる。
それから、シュルシュルと音を立てて毛細血管を思わせる、どんなに少なく見積もっても数百本はあるだろう、細いチューブのようなものが生え伸びてくる。
それらは不気味に、そして複雑に絡みあい縒りあって、元の腕の形を取り戻そうとしていた。つまり再生しているのだ。
時間にして、ほんの数秒後――。
「はぁああい! これで元通りでぇーすっ!」
嬉々として叫ぶ浮足坊主の言葉通りだった。いや、元通りどころか再生したその腕を包む剛毛は、先程よりも艶やかに見える。
こんなバケモノに新陳代謝があるのかわからないけど、ひょっとしたら段々強化されていく能力があるのかも知れない。
「ど、どうです、驚いたでしょう! つ、続けてやり合ってもいいけれど、キリがないということぐらい子供のあなたでもわかりますよねぇ?」
だったら、と言って浮足坊主が私を指さす。
「そ、その女を、ワタクシに引き渡しなさい! そうすればあなたは、あなただけはワタクシのこの異界から出て行くことを許してあげましょう!」
その言葉を聞き、危うく私は浮足坊主に感謝するところだった。
しかも、本気で。
いや、分かっている。私はどうかしている。冷静に考えれば、いやどう考えてもバケモノの言うことなど、何一つ信用できる要素がない。
せいぜいマキオが背中を向けた時、騙し打ちを狙う程度の浅知恵だろう。
それにマキオは助かったとにしても、柴崎さんや塚森さん、それに生首……じゃなくて鳥羽さんはどうなる?
彼らは見ず知らずである私達親子のために命を懸けてくれたというのに、まだ例の一つもできていない。
キャパシティーの少ない私の頭が義理と人情がせめぎ合い、パンクしかけた、その時だった。
ガブリ、とマキオが噛みついた。手にした浮足坊主の腕を。
そして、そのまま肉を食い千切り、口もとを血に濡らしながらグチャグチャ音を立てて咀嚼を始める。
……うそでしょ。
私はあんぐり口を開いていたと思う。頭のなか真っ白だった。
でも、しょうがない。マキオが――私の子供が、浮足坊主の、バケモノの肉を食べているんだから。
愕然としたのは、私だけじゃなかった。
「お、おい!? お前、それは何のつもりなのですかぁあああああ!?」
声を裏返す浮足坊主を無視して、マキオはペッと肉片を吐き捨てていた。
そして、顔をしかめ呻く。
「……まっず。……ゲェーってなりそう」
(本当に良いのか、マキオ。これ以上、お前の肉体に負担を掛ければ……)
「いいよ。こうしないと、あいつはズーッとママをいじめるもん。最初からわかってたし」
(そうだな。そなたは強い子だマキオ。まろなど比べ物にならぬ)
【――解析終了。怪異の創出した仮想領域・異界は怪異の属性である水のエレメントを強く反映。異界内では創出者である怪異は際限なく再生すると推測できます】
(……あいわかった。……後はまろに任せよ)
そう言い終わるやいなや――、マキオは両手を組み合わせ複雑な印を作り出す。儀式が始まった時、塚森さんが組んでいたのと同じハンドサインだ。
それに危険なものを感じたのか、浮足坊主が色めき立ちわめく。
「ちょ、待ちなさいいいいいいッ……! 何をやって……!」
オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ。
オン ヒラヒラ ケン ヒラケンノウ ソワカ。
特徴的な節回しで瞑目したマキオが呪文のようなものを唱える。
これも聞き覚えがある。確かキミカちゃんが教えてくれたという、童ノ宮の神様に救を求めるための詞だ。
その瞬間、周囲の様子が一変した。フリーの編集ソフトでエフェクトを施したかのようにドブ川の光景がひび割れ砕け散る。
その下から現れたのは、見渡す限りの赤、赤、赤……。そこは、汚らしい川に落ちずぶ濡れになった服が一瞬で乾くほどの高熱で満ちた空間だった。
そこらじゅうから空気の燃え爆ぜる,轟々という重低音が響く。それに紛れてたくさんの人が激しい痛みに耐えかねて、呻きすすり泣く声も。
だけど、一際目を引いたのは――。
「ガアッ!? ガガガッ、ガガガガガガガッ……!?」
火の海と化した世界の真ん中で、断末魔の叫び声をあげ続ける浮足坊主だった。
目と鼻の穴、そして口のなかから白煙の混じった火焔を噴き出しながら、浮足坊主は火だるまと化していた。炎はその熱を次第に高めているらしく、赤から黄色、そして青へと変色して行く。
その時、ふと気配を感じた。
それを追って視線を向けてみると――、
「あっ、いた……!」
地面に横たわる男女の姿を認めて、私は小さく声をあげていた。
肩を寄せ合うようにぐったりとしている柴崎さんと塚森さん、二人の足元にはあの生首――鳥羽さんも転がっている。
私と同じように外法の球体に取り囲まれた彼らは、意識を失っているらしく身動きしなかったが息はあるようだ。
よかった。みんな、生きてる……。
思わず私が目頭を熱くしている間も――
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああ……!」
青い炎による責め苦は続いていた。
叫び声をあげ続ける浮足坊主の体を覆っていた剛毛は全て焼き尽くされ、露出した皮膚をクロキ焼き焦がしている。
浮足坊主の巨体は火勢に推され、目に見えて縮んでゆく。
『な、なんて、こんな……久しぶりにご馳走が喰えると思ったのに……。あ、アナタは一体、何者……?」
「うん。まろのことを訊いておるのか?」
自らが生み出した炎に明るく照らし出されているマキオが小さく首を傾げる。
「知りたくば答えよう。……まろこそは地獄道に自らを鎮め、百万の魔軍を睨む神、カガヒコノミコトが化身。都に千の死と祟りをもたらし、童ノ宮に祀られた稚児天狗。そして、そして……」
そこで言葉を切り、マキオが私の方を見た。私もマキオを見た。しばらくの間、私とマキオは無言で見つめ合っていた。
それから、マキオがにっこりと微笑んで。私が二度と忘れないくらい、胸が苦しくなるぐらいかわいい顔で言った。
「――ぼくは栗原マキオ。六歳です。ママ……お母さんの名前は栗原ミサキです!」
直後、世にもきたない断末魔があがりかけたが、猛る炎の轟音がそれをかき消した。