テラーノベル
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目を開いて、生まれて初めて目にしたモノは、驚いた様子で尻もちをつくご主人様の顔だった。
私は、生まれ落ちたその瞬間から、自分の存在理由を知っていた。
「はじめまして、ご主人様。私はあなたのドッペルゲンガーです!!」
まだ名前のなかった私は、生まれたままの姿で、産声をあげるようにそう自己紹介した。
私はドッペルゲンガー。
人に成り代わり人を殺す、悍ましい化け物。
私はドッペルゲンガーとしての役割を果たすため、ご主人様の代わりに職場に向かう。
ご主人様の職場はとある家電量販店にある携帯ショップ。
タイトなレディーススーツに身を包み、お店の制服とインカムを身につける。
私は、ご主人様の代わりに携帯販売員として卒なく仕事をこなす。
私の働きぶりを見て、職場の人達が面食らう。
「どしたんへるちん?まるで人が変わったみたいじゃん……。」
ギャルメイクが印象的な先輩が、私の顔を見て目をぱちぱちさせる。
「先輩達のご指導のおかげでバージョンアップしました!!これからは心機一転がんばります!!」
ハキハキした声で私がそう言うと、
「……いーじゃん。うぇーい。」
とギャルメイク先輩が頬を綻ばせた。
午前中に二件の新規契約を取り、スマホのデモ機を拭いていた私の元に、楓子さんは現れた。
黒檀のように黒い長髪、憂いを帯びた表情。
胸元がシースルーの黒いドレスを着た彼女はまるで魔女みたい。
「いらっしゃいませー」
私がお辞儀すると楓子さんはすらっとした身体を折り曲げるようにお辞儀を返す。
「スマホってどれも同じに見えるな……」
顎に手を当ててじっと店内のスマホとにらめっこする彼女のことが、なんとなく気になる。
「お客様、何かお困りごとですか?」
模範的店員スマイルで楓子さんに近づく。
楓子さんが私をじーっと見つめる。
吸い込まれるような黒い瞳に見つめられどぎまぎした。
「………君、名前は?」
「え?えっと、宍戸地獄子です。地獄の子って書いて、へるこです。両親がすごいデスメタル好きで……」
私がご主人様の記憶を元に名前を口にする。
「へぇ、地獄子ちゃんか。いい名前だね」
と楓子さんがはにかむ。
「良ければ、スマホのことについて教えてくれないかい?長いこと愛用していたガラケーが、変なメールを開いた途端熱くなって死んじゃってさ」
彼女が悩まし気に目を伏せる。
「……はい」
私が顔を赤らめながら頷く。
これが私の初恋の相手である楓子さんとの出会い。
楓子さんと話すのは本当に楽しくて、初めて会ったのに他人とは思えなくて。
気づけば私は職場で楓子さんに告白し楓子さんと恋人同士になっていた。
後に私は楓子さんにドッペルゲンガーであることを見破られ、
彼女が黒魔術師であることを打ち明けられ、
更に先の未来で彼女と殺し合うことになるのだけれど、
当時の私はそんなことは露知らず。
浮かれた足取りで帰路についた。
楓子さんが初恋なら、ご主人様は初めて出来た私の家族だ。
はじめての仕事から帰った時、アパートの404号室の扉を開けると、ふわりと甘い匂いが漂った。
あの時のケーキは本当においしかったなぁ。
ご主人様は使い魔の私を当然のように労い、私の言葉にツッコミを入れ、私の我が儘をため息をつきながら聞き入れてくれる。
ぶっきらぼうで面倒見のいいおねえちゃんみたい。
毎日ご主人様の作るごはんを食べる。
毎日一緒にシャワーを浴びる。
毎日一緒の布団で寝る。
仏調面のご主人様の横顔を見ながら、化け物の私は不相応にご主人様にくっついて眠りにつく。
「これは《死の刻印》だね。このままだと君は49日後に死ぬ」
楓子さんがご主人様にそう宣告する。
突き付けられた事実に、頭が真っ白になる。
なんで私は震えているんだ?
生まれた時から分かっていたじゃないか。
私はドッペルゲンガー。
人を殺す化け物だって。
私を殺せばご主人様は助かるのに、ご主人様は私を庇うかのように簡単に生をあきらめようとする。
胸が苦しい。鼻の奥がツンとする。
いなくなってほしくない。
私はドッペルゲンガー失格だ。
「決めた。あんたは今日から天国美。天国に美しいって書いてへぶみ」
「え…..ださ、もっと可愛い名前がいいです」
与えてもらった名前に文句を言うフリをして、ご主人様とケンカする。
天国美。
地獄子と対の名前。
まるで本物の姉妹になったみたい。
散々言い争った後、静かになった六畳一間で私は決意する。
何がなんでもおねえちゃんを助ける。
そのために、私は何を犠牲にすればいいのだろう?
きょうふ
115
comi
778
#可愛い
トド村
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コメント
1件
うわああ第8話めっちゃエモかった…!!😭💕 ドッペルゲンガーとして生まれながら、ご主人様に名前もらって姉妹みたいに過ごす日々が尊すぎる…「ださ、もっと可愛い名前がいいです」って言いながら本当は嬉しいのがにじみ出てるの最高だよ…!! 楓子さんとの初恋エピもキュンとするけど、死の刻印の宣告で一気に切なくなった…天国美(へぶみ)って名前、地獄子と対になってるの芸術点高いし、最後の決意の一文で続きが気になりすぎる!!絶対お姉ちゃん助けてほしい…次話も読むね🌸