テスト前夜。部屋の空気はやや静か。各自リモート通話中です。
🎧 22:47・グループ通話中
蓮司(PC越しにアイス食べながら)
「さてと……で? おまえら、どこまで進んだの。地理」
遥(座椅子にもたれて、髪がちょっと乱れてる)
「……もう、ムリ。山脈と川の名前、見た瞬間に寝落ちする呪いがかかってる」
「てか、なんで“チチカカ湖”は覚えられるのに、他が全部ダメなんだよ」
日下部(淡々と、ノートに書き込みながら)
「それ、“語感で笑って覚えた単語だけが残る”やつ」
蓮司
「遥、“チチカカ病”って名付けとこうか、それ」
「俺も似たようなもんだけどね。暗記って、脳が拒否するんだよなあ」
遥
「てか蓮司、なんでそんな余裕なんだよ。
おまえ、テスト勉強してんの?」
蓮司
「うん? “してない”よ?」
「ただ、過去問はざっと読んだ。あと、出そうなページは赤線引いた」
日下部
「……“それだけ”で60点台出す人の気持ち、分からない」
「こっちは、一問ずつ、ノートまとめ直してるのに」
遥
「……は? 今からノートまとめ!? え、日下部、明日受験なの?」
「オレなんか、問題集の1ページ目すら空白なんだが……」
蓮司
「いいよ遥、それで。“オレやべぇ”って言ってる間が一番楽だから」
日下部
「でも、焦ってるってことは、ちゃんとやりたいってこと。
それ、全然悪くないと思う」
遥(沈黙)
蓮司(静かに笑って)
「ほらほら、黙った。図星だった?」
遥
「……うっせ。
オレだって、ちょっとは、変わりてぇよ」
「どうせ毎回ギリギリなら、せめて一回ぐらい……“自分でやった”って言いたい」
日下部
「じゃあ……このあと30分だけでも、一緒に見る?」
蓮司
「そしたら俺、赤線引いたプリント、今から画像送るわ。
“これ出るかも祭り”開催中」
遥
「……なにそれ、祭りって」
「……まあ、いいけど。オレ、ラストチャンスって気持ちで見るわ」
「……今日だけは、さすがに寝たらやばい」
日下部
「じゃあ……30分、集中しよう。終わったら、またバカ話してもいいから」
テスト前夜、静かな団結。
勉強が得意じゃなくても、諦めないやつらの、小さな前進でした。