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「なあ、“壊れる”ってさ──本人が“もう壊れてる”って思ってるなら、それは壊れてんの?」
蓮司の言葉に、誰かが喉を鳴らした。
笑ったわけじゃない。怖気づいたわけでもない。ただ、息を飲んだ。
日下部の表情が、ほんのわずかに歪んだ。
けれど感情は見せないまま、ゆっくりと蓮司の方へ顔を向けた。
「……遊びで踏み込んでるなら、引き際は考えたほうがいい」
その言葉には、珍しく怒気があった。
低くて、静かで、それでも刃のように鋭い音。
蓮司は、しばらく黙ったまま日下部を見返した。
その目は笑っていた。けれど、底が見えなかった。
「へえ、意外。おまえ、そういうこと言うタイプなんだ。
──どの立場から?」
「立場なんかいらない。見てりゃわかる。……おまえがやってること、ただの破壊衝動だ」
「ははっ、それ、そっくりそのまま返すわ。
おまえがしてるのは何? 同情? 保護? それとも、後ろめたさの埋め合わせ?」
蓮司の声は柔らかかった。
けれどその言葉の端々に、毒が滲んでいた。
教室の空気が張りつめていく。
誰も言葉を差し挟めない。
けれど、誰も目を逸らさない。
遥は、2人の間に立ったまま、視線を落とした。
呼吸が浅くなる。心臓の音が、耳の奥で不規則に跳ねている。
──日下部の言葉に、蓮司の嘲笑。
どっちも正しくないのに、どっちも外れていない。
だからこそ、逃げ道がない。
「こいつ、俺の彼氏だよ」
声が、勝手に喉から漏れた。
誰よりも先に、蓮司が動きを止めた。
目を見開くでも、笑うでもなく、ただほんの一瞬だけ、静かになった。
「……へぇ」
そのあと、口元にいつもの薄笑いが戻った。
「俺、そうだったんだ?」
遥は蓮司の顔を見なかった。
見たら、もう立っていられなくなる気がして。
日下部も、言葉を失ったまま、遥を見ていた。
教室全体が凍りついたような沈黙の中、
遥の指先が、ほんのわずかに震えていた。