テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,444
「合格? ……どういう意味?」
僕の脳の熱が引いていく。目の前のトオルは、戦いの跡などなかったかのように、優雅に衣服を整えている。
「ええ、まぁ……端的に言えば『ワタシが参った』ということですよ」
トオルは静かに、けれど明確な敗北を認めるように微笑んだ。その表情に悔しさはない。むしろ、期待通りの結果を目の当たりにした子供のような、純粋な歓喜が見える。
「なら……約束通り、情報を教えてちょうだい」
僕は、汗で張り付いた前髪をかき上げた。トオルという男が、僕らを選別していたのは分かっている。なら、その「試験」の向こう側にある答えを、今ここでハックしなければならない。
「もちろんです。隠す必要もありません。……さて、まず何から知りたいですか?」
トオルが、透明な壁でも操るように指先を動かした。そこには、僕たちが生きてきた日常が、薄氷のように脆く、歪んだものに見える「影」が落ちていた。
「覚醒者……能力を使える者たちについて。そして、なぜ急にこの世界に怪物たちが現れたか。知っていること、すべて、詳しくお願い」
僕の問いに、トオルは細い目をさらに細めた。
「いいでしょう。では……『100分の7』という数字からお話ししましょうか」
トオルの声が、一段と低くなる。
「いいでしょう。……この世界に怪物たちが現れたのは、バグでも天災でもありません」
トオルは一拍置き、僕の目を覗き込んだ。
「それは、世界というシステム……まぁ分かりやすく言えば神様が、これから来る災厄に対しての防衛のために、覚醒の適応者を選んだということです」
「……防衛? 適応者?」
「ええ。しかし、君のように能力を使える者は極めて少ない。今この世界に100人の覚醒者がいるとして、その中の『7人』だけが、真の意味で能力に目覚めている……ということです」
横でボロボロになりながら聞いていたアレンが、声を絞り出した。
「7人……!? たったそれだけかよ」
「ええ。ワタシ、レイさん、シオリさん、デッドQ。これで4人」
トオルはそこで言葉を切り、唇の両端を吊り上げた。
「じゃあ……その災厄って何が起こるの? それを防ぐために僕たちが選ばれたっていうなら、教えるべきじゃないか?」
僕の問いに、トオルは困ったような、けれど楽しそうな溜息をついた。
「まだ言えません……。パズルのピースは、適切なタイミングで埋められてこそ意味がある。しかし、今の段階で教えられる情報もあります」
トオルは一歩、僕との距離を詰めた。
低く甘い声が、耳元で冷たく響く。
「ワタシは予知の能力を持つ覚醒者。つまり、これまで起きたこと、そしてこれから起きることを、ワタシは既に『知っている』のです」
静かな沈黙が流れた。これまでの怪物の襲撃も、デッドQとの死闘も、すべてはこの男の掌の上だったというのか。
「だから研究所に来ました。シオリさんの奪還……それに、アレンさん、カケルさん。そしてレイさん。あなたたちに『会う』ために」
「会うって……僕がここに来ることも、予知通りだって言うの?」
僕は喉の奥が乾くのを感じた。自分の意思で動いてきたつもりが、誰かの書いた台本をなぞっていただけだとしたら。
「もちろん。レイさんがデッドQを倒し、研究所のことを聞いてここへ来る……。それは未来において、既に『決まっていたこと』ですから」
トオルの不敵な笑みが、暗い部屋の中で白く光った。
「……まぁ、ですが。先ほどのあなたの攻撃だけは、ワタシの予知には映りませんでした。だから『合格』を出したのですよ」
トオルは満足そうに、自分の胸元――レイの指先が触れた場所――に手を当てた。
「現在の座標を消す。……素晴らしいロジックだ。知ることができて、本当によかった」
「なるほどね……」
僕は短く応えたが、奥歯を噛み締めた。ハックしてやったつもりだった。けれど、その「イレギュラー」すらも、この男は今、自分の知識として飲み込んでしまった。
――くそ、なんか、猛烈に悔しい。
「おい……ッ!」
沈黙を破ったのは、アレンの怒声だった。膝をつき、肩で息をしながらも、その眼光は死んでいない。
「……なぜだ。なぜ、そこまで知っているお前が、俺たちなんかに会う必要がある!? お前一人でどうにかすればいいだろ!」
「それはもちろん……ワタシ一人で救えるならそうしてます。しかしワタシが見た未来には貴方たちが命をかけて戦っていました。その中にワタシはいない。きっと戦力にはなれないのでしょう」
トオルはゆっくりと、僕たちを見渡した。トオルの声が、まるで聖書の一節を読み上げるように、厳かに響く。
「あなたたちが……この先の『不自由な未来』を救うんです。」
トオルの言葉に、アレンが呆然と呟いた。
「……まじかよ。俺たちが、未来を……」
「ふふ、それともうひとつ。あなたたちには来る災厄の前に、やるべき事があります」
「やるべき事?」
僕はトオルを真っ向から見据えた。
「……僕は、この世界を変えたい。何もできない弱者でも、理不尽に怯えず生きやすい国に。それが覚醒した僕のやるべき未来なんだ……」
「ええ、知っていますよ。あなたがかつて、死刑台で『理不尽な殺人』を経験し、その不自由に抗おうとしていることもね」
トオルの言葉に、背筋が凍った。誰にも話したことのない、僕の原罪。あの冷たい鉄の感触と、消えない血の匂い。
「……っ、なぜそれを」
「予知だと言ったでしょう? ですが、レイさん。あなたのその目的も……。『災厄』という名の壁を乗り越えない限り、決して手に入ることはありません」
トオルは残酷なまでに優しく、僕に現実を突きつけた。
「災厄の前にやるべき事……。それは『国家転覆』。この国の女王を引き摺り落とすこと。まずはこれが、あなたの目的を達するための第一ステップです」
「女王……!?」
心臓が跳ね上がった。僕の掲げた「弱者が生きやすい国」への道が、この国の頂点に立つ者への反逆から始まると言うのか。
「ええ。女王の名は――ガイア。ワタシたちが今話していた、『選ばれし七人』の中の一人です」
コメント
1件
第17話読了。めちゃくちゃ熱い展開だったな…。まずトオルの「予知できない行動をレイが取ったから合格」ってロジック、結構好き。予知能力者ってどうしても全能感出ちゃうんだけど、ここではあえて「予知にない動きを評価する」って独自のスタンス取ってて、キャラの奥行きが出てたわ。 それと「100分の7」っていう覚醒者の割合設定も現実味があっていい。女王ガイアが7人の一人でラスボス候補ってのも納得感ある。ただこの展開、国家転覆が目的になるってことは結構ヘビーな話になるんだろうな…レイの過去の「死刑台」の伏線も気になるし。次話、ガチで楽しみにしてる🔥