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「ガイア……」
アレンの声が、冷えた地下室で微かに震えた。
この国を統べる絶対者。逆らう者すべてを『理』の力で粉砕してきた、生きる神の名前だ。
「……ガイアか。案外、普通な名前だね」
アレンは絶望に顔を歪めているけれど、僕の視界は逆にクリアになっていた。目的はシンプルだ。弱者が生きやすい国を作る。そのためには、今この国を支配している
「不自由なルール」をすべて書き換えればいい。つまり、僕が王に座り、戦争も、この狂った計画も、すべて上書きして消去してしまえばいいんだ。
「ねぇNo.1、そんなに怯えないでよ。倒すべき相手の名前が分かったんだ。これほど効率的なことはないよ」
「正気か、レイ……! 相手は女王だぞ。この国のすべてを握る女だ」
「だからこそだよ。一番上のシステムをハックすれば、下のバグは全部一瞬で直るでしょ?」
僕は、トオルから開示された『適合者』の情報を整理しながら歩き出す。
「まずは、あの『ナンバーズ計画』を止めなきゃね。これ以上、犠牲者を増やすのは可哀想だ」
「計画を止める……。ああ、そうだな。あんな死刑囚の化け物たちがこれ以上増えるのは、この世の終わりだ」
アレンの言葉に、僕はふと足を止めた。不思議そうに首をかしげ、彼を見つめる。
「……No.1、死刑囚だけだと思ってるの?」
「……え?」
「最近は、ちょっとした万引き犯や、身寄りのない浮浪者……果てはただの一般人まで『ナンバーズ』の材料に使われてるんだよ。普通の人間が、無理やり数字に変えられちゃうなんて、本当に不自由な国だ」
アレンの顔から、一瞬で血の気が引いていくのが分かった。
「……なんだって……? 一般人がナンバーズに……!?」
「え? 知らなかったの?」
僕は、至極当然のことを指摘するように言葉を継ぐ。
「デッドQから聞いたんだ。No.1、これが現実なんだよ。死刑囚の在庫が切れたから、次は『代わりのきく弱者』が選ばれた。効率的だけど、最高に胸糞悪いロジックだよね」
「ふざけるな! そんな……そんなのが許されるわけがない!」
アレンが叫ぶ。その声は怒りで震え、壁に反響して地下室を揺らした。僕は、そんな彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ね、許されないよね? ……それで、No.1、君はどうしたい?」
僕の問いかけに、アレンの顔つきが変わった。絶望に染まっていた瞳に、青白い炎のような意志が宿る。
「女王がなんだ……!」
アレンは拳を血が滲むほど固く握りしめ、低く、けれど地を這うような猛々しい声で吐き捨てた。
「ガイア……。必ずぶっ飛ばす。……俺がお前ら『覚醒者』たちを倒し、スーパースターに戻ったとしても、こんなクソみたいな国じゃ満足できない!」
かつて喝采を浴びていた男の、意地とプライド。
それが絶望を食らい、最強の「反逆心」へと昇華された。
「いいね、No.1。これで利害一致だ。ガイアを倒し、この国の『災厄』を防ぐまで、僕たちは一時休戦だね」
僕はアレンに右手を差し出した。アレンは一瞬、忌々しそうに僕の手を見つめた後、乱暴にその手を叩くように握り返してきた。
「……仕方ねぇ。ただ、勘違いするな。ガイアを引きずり下ろし災厄を防いだら、俺はお前もぶっ飛ばして、最高のスーパースターに返り咲く。それが俺の未来だ!」
不敵に笑う僕たちの後ろで、トオルが静かに佇んでいた。その瞳は、いつもの冷徹な「導き手」のものとは違う。何か、取り返しのつかない過去を悼むような、深い哀愁に沈んでいるように見えた。
(いいですね……。もし、二人の決着がつく時が来れば……)
トオルの独り言は、僕たちの足音にかき消されるほど小さかった。けれど、その声には「祈り」と、それ以上に深い「諦念」が混じっていた。
「……何か言った?」
僕が振り返ると、トオルはいつもの、どこか胡散臭いほど穏やかな微笑を浮かべていた。
「いえ……。よし! お二人とも、共に戦ってくれるのですね?」
「もちろん。」
「……ありがとう」
トオルは深く、感謝を込めるように頷いた。けれど、その隣でアレンが怪訝そうに眉をひそめ、辺りを見回す。
「ところでよ、トオル。お前がここに連れてきたっていう、あの五十人の『覚醒者』たちはどうするんだ? まさか、このまま放置じゃねぇだろうな」
アレンの問いに、トオルは事も無げに、まるで天気の話でもするかのような軽さで答えた。
「あぁ、彼らですか。――彼らは、僕たちの未来には必要ありません。勝手に殺してあげてください」
「てめぇ……! 仲間を、勝手に殺してくださいだと!? 何を考えてやがる!」
アレンがトオルの胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄る。けれど、トオルの瞳には微塵の揺らぎもなかった。
「生き残るための『選別』です。残酷ですが、今のワタシには全員を救うだけの余裕はないのですよ」
それが、トオルという男の出した「正解」なのだ。
一を救うために九十九を捨てる。その冷徹な天秤。
「……それで、シオリさんも救出するんですよね?」
僕が割って入ると、トオルは少しだけ表情を和らげた。
「もちろんです。彼女も必要ですから。ガイアについての詳細は、彼女を救出した後で、詳しくお話ししましょう」
トオルはそう言って歩き出そうとして、ふと思い出したようにアレンを振り返った。
「ああ、それとアレンさん。研究者たちをあまりいじめちゃダメですよ?」
「あん!? あんなエグい秘密を隠してた奴らだぞ。一発殴らねぇと気が済まねぇ!」
「ダメですって。あなたの体をメンテナンスしてくれる人たちがいなくなったら、困るのはあなた自身ですよ?」
トオルの正論に、アレンはぐうの音も出ないといった様子で、忌々しそうに口を噤んだ。僕はその横顔を見ながら、ずっと気になっていた王の正体を問いかける。
「ねぇ、トオル。……ちなみにさ、ガイアの能力を教えてよ」
トオルは足を止め、一瞬だけ沈黙した。
「……簡単に言えば、この世界のすべてを支配し、操る力です。」
トオルはそこで言葉を切り、酷く冷ややかで、けれどどこか悲しげな瞳で僕を見つめた。
「因みにレイさん。ガイアとは、最終的にあなた一人で対峙することになります。――ワタシが見た予知では、あなたはガイアを前にして、無残に膝をついている姿が見えます」
静寂が、地下室の空気を凍らせた。全知のトオルが見た、確定した敗北のビジョン。
「……僕が、膝をつく?」
僕は自分の手のひらを見つめ、ゆっくりと口角を吊り上げた。
「大丈夫、未来に絶対はないでしょ」
コメント
1件
いやー、今回もめっちゃよかったです🥀 レイの「一番上のシステムをハックすれば下のバグは全部直る」って台詞、彼のクールな思考回路が滲み出てて好きです。アレンとの利害一致で一時休戦、熱いけど切ない関係性…💔 そして最後のトオルの予知。「あなたは無残に膝をつく」って言われて笑うレイ、怖いけどかっこよすぎる。絶対に未来を変えてくれそうな予感だけが希望ですね…続きが気になる!!🔥