テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
バス停で最終バスを待っているとき、七星が涼真にぼそっと言った。
「うーっ、飲みすぎたかも……。涼兄、頭痛薬持ってる?」
その声を聞いて、涼真が眉をひそめる。
「またか? 最近、頭痛多くないか?」
「煙草吸うから、血がどろどろなのかも……」
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、涼真はリュックの中をがさごそと探った。
「あったあった」
涼真も気象病で頭痛持ちだ。薬を常備していることは七星も知っていた。
「ほら。水は?」
「持ってる」
七星はリュックからドリンクボトルの水を取り出し、錠剤を二錠飲み込んだ。
「ふぅーっ」
「煙草やめろよ」
「は? 何? 説教? 自分だって吸ってるくせに」
「俺はお前の体が心配なんだよ。去年の夏も、熱中症だかで倒れただろ?」
「熱中症は煙草関係ないし」
「いや、熱中症で脱水になると血がどろどろになるって聞いたぞ。そうなると、脳梗塞のリスクが上がるって、うちのばあちゃんが医者に言われたってさ」
「じゃあ涼兄もやめなよ。そうしたら私もやめる!」
「俺はやめない」
「ほら、やっぱりやめられないじゃん」
七星は不満げに口を尖らせた。
すると、涼真は急に真剣な顔になる。
「……俺は心配なんだよ」
「心配? 何が?」
「その、ほっそい体でデカいバイク乗り回してさ。あいつみたいに事故ったらって、心配してんの」
「あれ? 血がどろどろを心配してるんじゃないんだ」
七星は茶化すように笑った。
それを見た涼真は、たしなめるように言う。
「あのさ……。俺がお前のこと、どう思ってるか分かってんの?」
「どう思ってるって……涼兄の妹たちと同じ感じでしょ?」
「いや……そうじゃなくて……」
そのとき、真っ暗な道の向こうから、最終バスがクラクションを鳴らして近づいてきた。
会話はそこで途切れる。
「来た来た! 定刻通り! 優秀だね~、ここのバス会社は」
バスが停まると、七星はご機嫌な様子で一番に乗り込む。
その後ろを、涼真が少し切ない表情で続いた。
(……やっぱ、言えねーよな)
七星は涼真の思いにまったく気づかないまま席に座る。
涼真はため息をつきながら、その隣に腰を下ろした。
翌日の昼休み。
七星がいつものように浜辺に寝そべっていると、階段を下りてくる足音がした。
思った通り、優人が顔を覗かせる。
「お、いた」
「どーも」
優人は七星の隣に腰を下ろし、初めてここで会ったときのように大きく伸びをした。
「ん? 今日は煙草吸ってないんだ……」
そう聞かれた七星は、無表情のまま答える。
「吸わない日もあるんです」
「へぇ……どういう風の吹きまわし?」
「二日酔い気味のときは吸わないんでーす」
少しムッとしながら七星が言うと、優人が思い出したように言った。
「そっか。昨日は飲み会だったよね」
「え? 先生なんで知ってるの?」
七星は驚いて起き上がり、優人を見る。
「院長から聞いたよ。大慌てで帰ったって」
「……あれは、遅れそうだったから……」
「バイク事故で亡くなったんだって? 友達、残念だったね」
「うん。すごくいい奴だったんだ……」
「遠坂さんの友達って、バイク乗りが多いよね」
「え?」
「いや、前にもバイクの轟音響かせた友達が迎えに来てただろ?」
「先生、よく知ってるね」
「たまたま……ね。あの人、恋人?」
突然の質問に七星は驚き、しばらく黙り込んだ。
すると、優人が続ける。
「やっぱり彼氏か」
「違います。ただの先輩です」
「ただの先輩が毎日迎えに来る? ずいぶん親切だね」
その言い方が嫌味に聞こえたのか、七星はムッとして言い返す。
「何が言いたいんですか?」
「いや、本当のことを知りたいだけだよ」
「変なの。そんなの先生に関係ないじゃん」
「そうだね。でも、ちょっと知りたかったんだ」
なぜ優人がそんなことを知りたがるのか、七星には分からなかった。
しかし、諦める気配のない優人に根負けし、仕方なく口を開く。
「先輩は、私にとって兄みたいな存在なんです。私、兄弟いないから」
その言葉を聞いた瞬間、優人はなぜか胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。
「そっか……」
「うん。先生は? 兄弟いる?」
「いるよ。三つ上の兄貴と、三つ下の妹がね」
「へぇ、先生って真ん中なんだ」
「そう」
「真ん中の子って、ひねくれてるよね」
思いがけない言葉に、今度は優人が目を丸くする。
「ひねくれてる? そんなことないと思うけどな……」
「ううん、私が知ってる真ん中の子は、みーんなひねくれてるよ。おばあちゃんも言ってた。上の子は初めての子だから愛情たっぷりで、一番下の子は最後の子だから大事にされて……真ん中の子だけ構ってもらえなくて、ひねくれちゃうんだって」
七星が大真面目に語るのを見て、優人は思わず吹き出した。
「あはは……キミは本当に面白いこと言うね」
「だってほんとだもん。急に変な質問してくるし、名医なのにこんな田舎の病院に来たりして……ひねくれてるじゃん!」
“名医なのにこんな田舎の病院に来たり”
七星の言葉は、優人の心の奥に眠っていた何かをそっと刺激した。
だが、彼はその感情を悟られまいと、すぐに言葉を返す。
「いや、悪かった。変なこと聞いて」
「もう、意味分かんない……」
七星はうんざりしたように立ち上がった。
「じゃあまたね、ひねくれっ子ちゃん!」
茶目っ気たっぷりにそう言い残すと、七星は軽やかに階段を駆け上がっていった。
その後ろ姿を見送りながら、優人は胸の奥が静かに落ち着いていくのを感じた。
「……まるで、今日の凪いだ海みたいだ」
そう呟き、眩しそうに目を細めながら、海面すれすれを飛ぶ海鳥をじっと見つめ続けた。
コメント
10件
優人先生、七星ちゃんの遠慮のないひとことに背中を押された…!?🍀✨️ 七星ちゃん、頭痛は大丈夫かなぁ…😔
優人先生院長の忠告にもめげずに気になる七星ちゃんの彼氏の事聞きましたね これで心置きなく七星ちゃんに、アタックするのかな?やはり話していて心が穏やかになっていくのは良いよね 優人先生頑張って❣️そして七星ちゃんも優人先生の気持ちに早くきがつくといいね
涼兄、気持ち伝えれず…💔 そして七星ちゃんの頭痛🤕が心配😟 病気もだけど運転中の急な頭痛での事故なんかも危険だよ⚠️☢️ 優人先生が気づいてくれるといいんだけどーー😥 七星ちゃんの「ひねくれ」発言や裏表のない物言いがオンナオンナ👩💋してる奴らとは一線を画すんだろうね✨ 優人先生の心の中が凪いで恋心が芽生えたかな🌱
#幼なじみ