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#幼なじみ
翌週。
なぜかここ最近、看護師たちの看護助手への態度が、以前にも増してきつくなっていた。
その中でも、誰が見ても一番強く当たられているのは七星だった。
そのとばっちりは百花や他の新人助手たちにも及び、ほとんど巻き添えと言っていいほどだった。
この日も七星は百花とともに、退院した患者の病室でベッドメイキングをしていた。
この部屋にいるのは静かな女性患者ばかりで、二人のおしゃべりもいつもほど賑やかではない。
それでも、同室の患者たちの気分を和ませようと、先日テレビで紹介されていたグルメ情報の話題で盛り上がっていた。
スイーツ好きの患者たちは次第に会話に加わり、病室は穏やかな笑いに包まれていった。
そこへ、由希が後輩看護師二人を連れて入ってきた。
「遠坂さん、おしゃべりはいい加減にして、さっさと次の病室へ行ってちょうだい。入院患者さんが待ってるのよ」
いつも以上にきつい口調に、百花が驚いた顔を見せる。
七星も驚いていたが、表情には出さず無表情を保った。
「すみません。もう終わりますので、すぐ次に行きます」
その言葉に、由希は顎をくいと上げ、鋭い目つきで七星を睨んだ。
すると後ろの後輩看護師が口を開いた。
「本当に、看護助手って気楽でいいわよねえ。直接命に関わる仕事をしなくていいんだもの」
さらにもう一人が続けた。
「雑用をやってればいいんだから、そりゃあお喋りもはかどるわよね。え? もしかして、お喋りが本業だったりして?」
嫌味な言葉に、由希ともう一人の看護師が声を上げて笑った。
「とにかく、私たちは常に緊張感を持って患者さんに接してるの。あなたたちみたいに浮ついた気持ちで適当に仕事をしていいわけじゃないのよ。だから、私たちの足を引っ張らないよう、真面目に向き合ってほしいわ」
「そうそう。ただでさえ人手不足で忙しいんだから、これ以上足を引っ張らないで!」
後輩二人の言葉ににやりと笑いながら、腕を組み仁王立ちになっていた由希が最後に言い放つ。
「頼んだわよ」
勝ち誇ったようにそう言い捨てると、三人は病室をあとにした。
三人の姿が見えなくなると、患者の一人がぽつりと言った。
「おおーっ、こわっ」
すると別の患者が続ける。
「ストレスたまってるのかしらね~、あのお姉さま方」
「ほんと、感じ悪いったらありゃしない」
そのとき、この病院に長く入退院を繰り返している60代の野坂が口を開いた。
「ふふっ……せっかくイケメン医師が赴任してきたってのに、誰もゲットできないんだからねえ。だから苛立って、七星ちゃんたちに当たってるんだよ」
その言葉に、百花がほっとした様子で言った。
「やっぱり、そうですよね?」
「そうそう。行き遅れた女ってのは、若い子に当たりがちだからね」
“行き遅れ”という言葉に、思わず百花が「ぷっ」と吹き出す。
「やだ~、そんなこと聞かれたら、野坂さんただじゃすまないですよ~」
「ははっ、どうってことないよ。嫌がらせならしょっちゅう受けてるしね」
野坂は他の患者と違いはっきりものを言うタイプなので、由希たちベテラン看護師からは少し疎まれていた。
「でも、前に事件がありましたよね。患者が看護師に嫌がらせを受けていたとか、殺されちゃった例とか……」
「そうなったら、お化けになって“恨めしや~”って出てやるから問題ないよ。こっちは何度も死にかけてるんだ。もう怖いもんなんてないさ」
「野坂さん最強! 私、一生ついて行きますっ!」
百花が鼻息を荒くしながら言うと、野坂は笑いながら言った。
「まかせときな。あいつら、いつもあんたたちをいじめてるからね。だから、いつかガツンとやり返してやるよ」
「キャーッ、野坂さん、ありがとうございまーす」
百花は嬉しそうにはしゃぎ、つられて七星も笑みを浮かべた。
その表情に気づいた野坂が声をかける。
「七星ちゃんは笑顔が可愛いんだから、いつも笑ってた方がいいよ」
「わ、野坂さんに褒められちゃった」
七星がおどけると、百花が羨ましそうに言った。
「野坂さーん、私の笑顔は?」
「ああ、百花ちゃんの笑顔ももちろん可愛いよ。あんたが笑うとひまわりみたいで、周りがぱっと明るくなる」
「えーっ、ひまわり? もっと高級な花がいいんだけど~」
「高級な花ってなんだ? バラとかか?」
「バラ? 私、バラがいいです! 品があって色気もあって、凛としてるし」
百花の言葉に、野坂は腹を抱えて笑った。
「百花ちゃんにバラは百年早いよ。もうちょっと大人の女になってからだねえ」
「えー、マジで? 私、もう十分大人なんですけどぉ~」
二人のやり取りで、病室はすっかり和やかな空気に戻った。
作業を終えた七星が患者たちに声をかける。
「お騒がせしました。じゃあ、何かあれば遠慮なく呼んでくださいね。百花、行こっか」
「うん。じゃあ、皆さま、ごきげんよう~」
「「お疲れ様!」」
百花は笑顔で手をひらひらと振りながら、七星の後に続いて病室を出た。
廊下に出ると、二人は優人の科に新しく入った新人医師・斉藤とすれ違う。
斉藤は、さきほどの一部始終をすべて見ていた。
医局へ戻ると、斉藤はさっそく院長の野中に報告する。
それを聞いた野中は、少し声を荒げた。
「看護師たちが看護助手を? またか……」
斉藤は驚いて尋ねる。
「またって、前にもあったんですか?」
「しょっちゅうだよ。うちの看護師は有能だが、少し気が強くてね。気に入らないことがあると、すぐ助手に当たるんだ」
「やっぱり……そうでしたか」
「ん? やっぱりって?」
「いえ……よく陰口言ってますよね。ナースステーションで」
斉藤の言葉に、野中は思わず「はーっ」と大きなため息をついた。
「来たばかりの君が気づくほどか……困ったもんだな。また注意しないとな」
野中はうんざりしたようにため息をつき、斉藤の肩を軽く叩いた。
「教えてくれて助かったよ。なんとか手を打ってみるから」
「はい」
斉藤は頷き、自席へ戻っていった。
そこへ優人が戻ってくる。
「優人。順調か?」
「はい。今度手術をする患者の検査がすべて終わりました」
「今度はかなり難易度が高いぞ。大丈夫か?」
「僕もこのままで終わるわけにはいきませんからね。頑張ってみます」
「頼もしいな。でも無理はするなよ。ダメだったらいつでも俺が代わるから……」
「いえ。やらせてください」
「そうか。じゃあ頼んだよ」
「はい」
優人は穏やかに微笑むと、資料をデスクに置き、コーヒーを淹れに向かった。
その背中を見つめながら、野中は穏やかに微笑み、医局を後にした。
歩きながら、野中は考える。
あれほど避けていた難易度の高い手術を、優人は自ら受けると言った。
明らかに、以前の弱腰だった優人とは違っている。
「誰が彼を変えたのか……」
野中はそう呟くと、再び穏やかな笑みを浮かべた。
コメント
8件
般若平子とその一味… いくら自分が相手にされないからってねぇ〜醜いわぁ…😱😱😱 そんな性格だからモテないのよ😁 患者さんにも、医師にも、皆にバレているから、いつかガツンとやられますよ!👊 優人先生の背中を押したのは七星ちゃん、只一人!!🍀 七星ちゃん本人は、きっと無自覚でしょうけれど…🤭
由希とその仲間達ムカつくーー( ・᷅-・᷄ )💢 自分達がさも偉いみたいな態度で見下してーー! 野坂さん、行き遅れって( ,,>з<)ププッ 思わず笑ってしまいましたー🤭 周りの患者さんは、七星ちゃん達の仕事ぶりと人柄をちゃんと見てくれてる✨️ムカつく女豹に負けないで!! 優人先生に心の変化が✨️きっと七星ちゃんの影響だよね( ˶'ᵕ'˶)
集団で助手さんに嫌みを言うなんて人達は幸せにはなれませんよね… 患者さんのためにもならないし。