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西原衣都
676
瑠璃マリコ
990
管野アリオ
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#大人の恋愛
Jasmine
634
その夜、二人は初めて結ばれた。
それはまるで、波打ち際で波と砂が戯れ合うように――
二人は互いの温もりに導かれるようにして、ひとつになっていった。
一回り以上年の離れた優人は、初めての七星を優しく導く。
そっと不安をほどくように寄り添う優人。
七星はその優しさに身を委ねながら、自分の中に新たに芽生える感覚を初めて知った。
優人に触れられるたびに、女である歓びに満たされる。
七星の表情は次第に緊張から歓びの表情へと変わっていった。
その変化を目の当たりにした優人の胸には、熱い情熱がほとばしり、忘れかけていた本能が息を吹き返す。
七星の細い肩が震えるたび、優人は彼女を包み込むように抱き締め、耳元で愛の言葉を囁く。
「七星……素敵だ……」
「愛してる」
「もう二度と離さない……」
夜の静けさの中、二人の呼吸はいつしか同じリズムになり、まるで長い時間をかけてようやく辿り着いた答えを確かめ合うように、激しい熱をぶつけ合う。
その夜、二人の間に流れていたのは、“これからともに歩む”という静かな確信だった。
「はぁっ……」
優人が馴染むよう何度も動きを繰り返したあと、とうとう七星が小さな吐息を漏らして果てた。
彼女は小さく痙攣したあと、体中の力を抜いてぐったりとベッドに沈み込んだ。
それは、彼女の満足の証でもあった。
「イケたね」
「う……ん……」
息を荒げたまま、七星は額に汗をにじませ小さくうなずいた。
度重なる愛の行為により、室内は熱気を帯びている。
優人はまだまだ愛し続けたい気持ちでいっぱいだったが、七星の体を気遣い、そっと腕を緩めた。
「そろそろ、寝ようか」
「……うん」
呼吸が落ち着くと、七星は優人の胸に身を預け、ほっと息を吐く。
その穏やかな空気の中で、ふと顔を上げ優人に尋ねた。
「先生……慣れてるでしょ」
「慣れてる? 何が?」
「こういうの」
七星は少し恥ずかしそうに視線を落とす。
優人はくすっと笑い、肩をすくめた。
「どうしてそう思ったの?」
「だって……すごく安心できたから。想像してたのと全然違ったし……」
「まぁ、だてに結婚してたわけじゃないしね」
「そっか。結婚してる人はみんな上手なんだ」
「どうだろうね」
優人は照れ隠しのように笑った。
七星は布団に潜り込みながら、ふと真剣な表情になる。
「ねえ、先生」
「ん?」
「本当に……こっちに来て大丈夫? 大学病院を辞めてよかったの?」
その問いに、優人は七星をそっと抱き寄せ、落ち着いた声で答える。
「いいんだよ。僕が決めたことだ。誰にも何も言わせない」
「……ってことは、やっぱり反対されたの?」
「最初はね。でも、最後はみんな応援してくれたよ」
「そっか……」
七星は胸を撫で下ろすように息をつく。
「それに、新しい病院の重責を任されてるからね」
「あ、たしか“脳神経外科部長”だっけ?」
「そう。責任は重いけど、その分やりがいもある。救命も受け入れるから、これまで助けられなかった人を救えるかもしれないしね」
「そっか……」
「だから七星は何も心配しなくてもいいんだよ。僕は僕で、ちゃんとやりがいのあることを見つけられたんだ。七星のおかげでね」
「私の……?」
「そう。七星と出会ってから、何もかもがすべてうまく流れ始めた……不思議だよな……」
七星は照れくさそうに微笑む。
「先生が満足してるなら、よかった」
「うん。だから七星は、ただ僕のそばにいればいい。好きなことをして、そばにいてくれるだけでいいいんだ」
「……分かった」
安心したようにうなずくと、七星は小さなあくびをして目を閉じた。
ほどなくして、静かな寝息が聞こえ始める。
優人はその寝顔を、いつまでも愛おしそうに見つめ続けた。
翌朝、少し遅めに目を覚ました二人は、ブランチを済ませると庭へ出て、七星が手入れしている畑の前に立った。
「ここにはズッキーニでしょう? で、そっちにはナスとトマト。こっちにはレタスを植える予定なの」
「そんなに種類があるなら、もう八百屋さんに行かなくてもいいね」
「うん。もともと野菜は、おばあちゃんがいた頃からあんまり買ってないし……」
「それはすごいな」
「でね、向こう側にはハーブやベリー類。あっちにある木は、レモンなんかの柑橘類だから、夏になるとアゲハ蝶がたくさん来るんだよ」
「へぇ。それは楽しみだな……」
優人は、幼いころ昆虫採集に夢中だった夏休みをふと思い出した。
ここにいると、なぜか素の自分に戻れる気がして心地よい。
ひとしきり庭で話し込んだあと、二人はリビングに戻り、昨日七星が作ったケーキとコーヒーを楽しむ。
「僕も、病院が休みの日にはカフェの手伝いしようかなぁ。なんか楽しそうだし」
「新しい病院がオープンしてすぐは、忙しくて無理だよ」
「そうかな。でも、カフェの営業は週二日くらいから始めるんだろ?」
「うん。徐々に増やしていこうかなって」
「最初は無理なくやるのが一番だね」
「うん」
七星は嬉しそうにコーヒーを一口飲む。
「七星」
「ん? なあに?」
「手術のあとにした約束って覚えてる?」
「約束……? えっと……なんだっけ?」
「海辺のレストラン」
「ああ……」
術後、“パジャマ姿じゃない七星に会いたかった”と言った優人に、七星が“病院じゃないところで会いたかった”と返した――あのときのことだ。
その言葉を受けて、優人は七星を海辺の洒落たレストランへ連れて行くと約束した。
「さっき予約したから、今夜行こうか」
「えっ? いつの間に?」
「僕は仕事が早いからね」
「そんなので自慢してどうするの?」
七星は思わずクスクスと笑い、優人もその笑顔を嬉しそうに見つめた。
夕方、二人は少しおしゃれをして車に乗り込み、海辺のレストランへ向かった。
レストランは海に突き出すように建ち、窓のすぐそばには夜の海がどこまでも広がっている。
「ここは初めて?」
「うん。こんな洒落たお店、ほとんど来ないから」
「そういえば、初めて一緒に行ったのはあのラーメン屋だったね」
「ふふっ、そうだね」
ついこの間のことなのに、遠い昔のように思える。
その懐かしい記憶は、これからも二人の胸に静かに残り続けるのだ。
優人が注文してくれた料理を一口食べた瞬間、七星の目がぱっと大きく開いた。
「ハーブがたっぷりで、すごく美味しい」
「うん。魚も新鮮で美味いな」
シチリア風白身魚のソテーは、口に入れた途端レモンとハーブの香りがふわりと広がり、絶品だった。
夜の海を眺めながらゆっくりと食事を楽しんだ二人は、デザートを終え、コーヒーを飲んでいた。
「なんだか夢みたい……。一度は死にかけたのに、今はこうして穏やかな時間を過ごしてるんだもん」
「たしかに……。生死をさまよったキミが、今こうして笑っているのは、奇跡みたいだね」
「それも全部、先生のおかげだけど」
「お! 今日はやけに素直だな。だったらご褒美をあげないと……」
優人はそう言って、ポケットから小さな箱を取り出し、七星の前にそっと置いた。
「受け取ってくれるかい?」
目の前の箱を見て、七星は思わず息をのむ。
「先生……これって……」
「開けてごらん」
優人は優しく微笑みながら促した。
七星は震える指でそっとリボンを解き、箱の蓋を開けた。
中にはリングケースが収まっている。
さらにその蓋を開くと、ダイヤモンドのリングが星のようにきらりと輝いた。
そのあまりの美しさに、七星はしばらく目を奪われ、息をするのも忘れてしまう。
「先生……これ、いつ買ったの?」
「キミの手術が終わって、東京に帰ってすぐだよ」
「そんな前に……?」
「うん。あのときから決めてた。キミと結婚しようって」
「……」
七星が優人に会えず悶々としていた間、優人は二人の未来のために静かに準備を進めていた。
その事実を思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ごめんなさい……」
「ん?」
「私、先生に会えなくてずっと悶々としてて……。でも、その間、先生はこんなふうに準備してくれてたんだね」
「そうだよ。七星と一日でも早く一緒に暮らせるよう頑張ってた」
「それなのに、私ったら……」
「いいんだよ。放っておいた僕のせいでもあるんだから。さあ、手を出して」
優人はリングケースから指輪を取り出した。
七星がおずおずと左手を差し出すと、優人はその薬指にそっと指輪をはめる。
「わ……ぴったり! どうして?」
「それは内緒!」
「えーっ、なんで? なんでこんなにぴったりなの?」
「ははっ、そんなのはどうでもいいから。ほら、見てごらん。すごく似合ってる」
言われた通り、七星は左手の薬指に光る指輪を見つめた。
それは、冬の夜空に輝く一等星のように、澄んだ光を放っていた。
「綺麗……。先生、ありがとう」
「どういたしまして。これで、僕たちはずっと一緒だ」
「うん……」
二人はそっと手を握り合い、静かに見つめ合った。
その瞬間、窓ガラスの向こうの冬の夜空に、スーッと一筋の光跡がきらりと流れていった。
<了>
ラストまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
毎日たくさんの❤やコメントをいただき、心から感謝です。
また次作でお目に掛けるのを楽しみにしております(^^)/✨瑠璃マリコ🌌
コメント
94件
マリコさま完結お疲れ様でした😆 終わってしまうのは寂しいけど素敵な結末だったので大満足です🎵🎵 ひどい看護師ばかりが出てきて心が痛かったですがその分他のスタッフが良い人だったのでほっこりしました。また素敵なお話を読ませてくださいね😆
マリコ様 完結おめでとうございます 素敵な二人のお話をありがとうございました まだまだ続きが読みたいなと思える最後でしたので いつかまた二人のその後も読ませていただきたいなと思ってます よろしくお願い致します🙇
マリコ先生、完結おめでとうございます🎉そしてお疲れ様でした☕️🧁🌷 仕事の早い優人先生にしてやられた七星ちゃんだったけど2人の空気感がとても透き通ってて和やかでソフトな感じで情景が瞼に浮かびました✨🌌 途中ジレジレでしたがラストは2人とも素直でお互いを思い遣ってるのが最高⤴️😆💖でしたね🎶 しっかり疲れを癒した後に新作を楽しみにしています☆☆☆