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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
1,309
七枚の死亡通知を並べると、
一本の線が現れた。
岸本総合病院。
旧産科病棟。
地下資料室。
二十九年前、
私が生まれた場所。
十五年前、
母が七人を集めようとした場所。
そして今、
もう一度、
七人を呼び戻そうとしている場所。
「これが目的だった」
私は言った。
「最初から」
真壁刑事は、
七枚の封筒を写真に収めた。
「まだ断定はできません」
「でも偶然じゃないでしょう」
「ええ」
佐伯課長が地図を見つめる。
「千佳さんは十五年前にも同じことをした」
「七人を地下へ?」
「そうだ」
「何時に?」
その瞬間、
全員が黙った。
私は分かってしまった。
「十一時四十分?」
佐伯が頷く。
「集合時間が?」
「ああ」
また。
午後十一時四十分。
死亡時刻ではなかった。
最初は、
集合時間だった。
「じゃあ、十五年前の死亡通知には」
私は言う。
「死ぬ時間なんて書いてなかった?」
父が答えた。
「少なくとも、俺が受け取ったものにはな」
「じゃあ誰かが」
現在の通知へ、
死亡日時
として十一時四十分を書き足した。
母の「集合時間」を、
「死ぬ時間」に変えた。
それだけで、
紙の意味が全部変わる。
「なんで十一時四十分だったの?」
私は柿崎先生を見る。
二十九年前。
岸本総合病院で停電が起きた夜。
午後十一時三十二分から十一時四十六分。
その中心。
「十一時四十分に」
先生は言った。
「最初の記録が書き換えられています」
「新生児台帳?」
「はい」
「誰が?」
「分からない」
「先生じゃない?」
「私が書き換えたのは、そのあとです」
「その前に誰かが?」
柿崎は頷く。
最初の改ざん。
十一時四十分。
二十九年前から、
この時間がすべての起点だった。
「だから母は」
私は言った。
「その時間に七人を集めた」
「おそらく」
真壁が答えた。
「全員に同じ瞬間を思い出させるためでしょう」
午後十一時四十分。
誰がどこにいたのか。
誰が何を見たのか。
誰が何をしたのか。
七人の証言を、
一か所で突き合わせる。
「母は裁判官みたいなことをしようとした?」
「もっと悪い」
父が言った。
「千佳は、逃げ道をなくそうとした」
「どういう意味」
「一人で聞けば、みんな嘘をつく」
父は七枚の紙を見る。
「でも、七人を同じ場所へ集めれば」
「誰かが嘘をついたら」
「別の誰かが否定する」
母らしい。
人を信じない。
だから、
一人ずつ証言を取るのではなく、
逃げられない場所へ全員を集める。
「それが死亡通知」
私は言った。
父が頷いた。
「怖がらせるための召集状だ」
*
旧産科病棟は、
現在使われていなかった。
岸本総合病院の裏手。
建て替えから取り残された、
四階建ての古い建物。
立入禁止。
窓には板。
外壁には亀裂。
地下資料室も、
十五年前に封鎖されている。
「今から行くんですか」
私は訊いた。
真壁が首を振る。
「先に捜査員を入れます」
「でも犯人が待ってるかもしれない」
「だからです」
「七人が揃わないと何も起きないんじゃ?」
真壁は私を見る。
「水城さん」
「はい」
「七人が誰なのか、まだ確定していません」
私は黙った。
現在の七枚。
一枚目。
高瀬。
二枚目。
榊原。
三枚目。
父。
四枚目。
由紀子。
五枚目。
おそらく柿崎。
六枚目。
三田村。
そして、
七枚目。
まだ開けていない。
「開けましょう」
私は言った。
「今?」
「場所まで分かったなら、最後を隠す意味ないでしょう」
真壁は少し考え、
頷いた。
証拠撮影。
手袋。
七枚目の封筒。
裏には、
母ではない字。
最後に開けること。
三田村が書いた可能性がある。
真壁が封を切る。
中から、
一枚の死亡通知。
ゆっくり開く。
私は最初に、
氏名欄を見た。
空白。
「名前がない」
佐伯が言った。
生年月日。
空白。
住所。
空白。
死亡日時。
そこだけ、
記載されている。
九月十二日 午後十一時四十分。
「誰の通知なんですか」
私は訊いた。
真壁が紙を裏返す。
裏面。
短い文章。
七人目は、六人が決める。
胸が冷たくなる。
「どういう意味?」
さらに下。
六人が同じ名前を書いたとき、七人目が確定する。
榊原が顔を青くした。
「十五年前と同じ……」
私は振り返る。
「知ってるんですか」
「千佳もやった」
「何を?」
「七人目を」
榊原の声が震える。
「最後まで空欄にしてた」
「なぜ」
「六人に選ばせるため」
誰を、
七人目として呼ぶのか。
「十五年前、選ばれたのが私?」
父が答える。
「ああ」
十四歳の私。
六人が、
私の名前を書いた?
「全員?」
「全員じゃない」
「でも同じ名前じゃないと確定しないって」
父は苦い顔をした。
「千佳がそうなるよう誘導した」
「どうやって」
答えたのは佐伯だった。
「質問だ」
「質問?」
「一人ずつ違う質問をされた」
佐伯は記憶を辿る。
「俺には」
――この秘密を知るべき人間は誰ですか。
「俺は澪ちゃんと書いた」
榊原も言う。
「私は」
――千佳が一番謝るべき相手は誰ですか。
「澪ちゃんって書いた」
柿崎先生。
「私は」
――二十九年前の記録で最も傷ついた人は誰ですか。
先生は私を見た。
「あなたと書きました」
父は目を伏せる。
「俺には」
――本当の家族を選ぶ権利があるのは誰ですか。
「澪と書いた」
質問が違う。
でも、
答えが同じになるようにできていた。
母は、
六人に私を選ばせた。
七人目として。
「由紀子さんは?」
「同じだった」
「高瀬は?」
父が言った。
「澪と書いた」
「三田村は?」
沈黙。
「書かなかった」
「だから全員一致じゃなかった?」
「ああ」
それなのに母は、
私へ死亡通知を送った。
「ルール破ってるじゃない」
「千佳が決めたルールだからな」
父が言った。
「千佳自身が破った」
私は笑いそうになった。
いかにも母だ。
人には選ばせる。
でも最後は、
自分で決める。
「じゃあ今回も」
私は七枚目を見る。
「六人が誰かの名前を書く?」
その瞬間。
スマートフォンが、
一斉に鳴った。
私。
父。
佐伯。
榊原。
柿崎。
真壁。
それぞれの端末。
同じメッセージ。
七人目の選定を開始します。
その下。
質問。
私の画面には、
こう書かれていた。
水城千佳が最後まで守ろうとした人は誰ですか。
私は息を止めた。
答えが、
一人しか思い浮かばない。
私。
でも。
父の画面は違った。
見せてもらう。
二十九年前の真実を最も知るべき人は誰ですか。
佐伯。
水城千佳によって最も人生を奪われた人は誰ですか。
榊原。
最後まで嘘の名前で生きている人は誰ですか。
柿崎。
死亡通知を終わらせる資格がある人は誰ですか。
全部、
違う質問。
でも。
答えが同じになるように、
作られている。
十五年前と同じ。
「入力するな」
真壁が言った。
誰も触らない。
その直後。
表示が変わった。
残り時間 00:10:00
十分钟。
「答えなかったら?」
私は訊いた。
画面に、
次の文章。
無回答の場合、過去の回答を使用します。
過去の回答。
十五年前。
六人が書いた名前。
水城澪。
「最初から」
私は呟いた。
「選ばせる気なんてない」
十年前だろうが、
十五年前だろうが、
答えは準備されている。
「七人目は私にするつもりだった」
誰も否定しなかった。
カウントダウン。
九分四十二秒。
九分四十一秒。
そのとき。
三田村から、
私のスマートフォンへ電話が入った。
画面。
非通知。
でも、
なぜか分かった。
出る。
「三田村さん?」
沈黙。
そして。
『久しぶりだな、澪ちゃん』
葬儀で聞いた声。
子どもの頃、
何度も聞いた声。
「どこにいるんですか」
『待ってる』
「どこで」
笑う。
『地図を見ただろ』
旧産科病棟。
地下資料室。
「死亡通知を作ったのはあなた?」
『全部じゃない』
「七枚目は?」
沈黙。
『それは俺だ』
やっぱり。
「何のために」
『七人を揃えるためだ』
「誰を殺すために?」
三田村は、
しばらく何も言わなかった。
そして。
『だから、お前たちはまだ分かってない』
「何を」
『誰も殺すためじゃない』
私は息を止める。
『二十九年前』
声が低くなる。
『七人が同じ場所にいた』
母。
奈緒。
恵美。
柿崎。
三田村。
ほかにも。
『でも七人全員が、それぞれ違う嘘をついた』
「だから?」
『今度は』
三田村が言った。
『同じ場所で、同じ質問に答えてもらう』
「何の質問」
電話の向こうで、
金属音。
重い扉が開く音。
『誰が』
一拍。
『水城澪を連れて帰ったのか』
私は声を失った。
誰が、
私を産んだのかではない。
誰が、
出生届を書いたのかでもない。
誰が私を連れて帰ったのか。
二十九年前。
病院から。
「母じゃないんですか」
私は訊いた。
三田村は答えた。
『千佳が連れて帰った赤ん坊は』
胸が強く打つ。
『お前じゃない』
通話が切れた。
画面のカウントダウン。
残り。
00:07:13
私は七枚目を見る。
七人を、
一か所に集める。
その理由が、
ようやく見えた。
母は、
犯人を裁きたかったのではない。
復讐したかったのでもない。
二十九年前。
同じ夜にいた七人へ、
たった一つのことを聞きたかった。
あの夜、本当に水城澪を連れて帰ったのは誰なのか。
コメント
1件
いやあ、今回もすごかったですね…!「死亡時刻」が実は「集合時間」だったっていう真相、ぞっとしました。七枚目の死亡通知、空白のまま「六人が決める」っていう仕掛けも、母・千佳さんの不気味な計算を感じさせてぞわぞわします。そして最後の三田村からの電話――「連れて帰った赤ん坊はお前じゃない」の一言で、一気に視点がひっくり返りましたね。澪ちゃんの存在そのものが揺らぐ展開、続きが気になって仕方ないです…!