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350
82
#王子
すっこ
173
#主人公最強
杯雪乃
1,309
残り時間。
00:00:03
誰も、
答えを入力しなかった。
00:00:02
真壁刑事が言う。
「端末に触らないでください」
00:00:01
そして。
00:00:00
画面が消えた。
何も起きない。
私は、
息を吐きかけた。
そのとき。
机の上で、
紙が鳴った。
カサ。
七枚目の死亡通知。
さっきまで空白だった氏名欄に、
赤い線が浮かんでいる。
「待って」
私は近づいた。
一本。
二本。
線が増えていく。
文字になる。
水
次。
城
そして。
澪
誰も、
ペンには触れていない。
七枚目に、
私の名前が書かれていた。
「水城さん、離れて」
真壁が私の前へ出る。
私は動けなかった。
氏名。
水城澪
生年月日。
私の誕生日。
五月十七日。
住所。
現在の住所。
全部、
正しい。
そして。
死亡日時。
九月十二日 午後十一時四十分。
三日後。
「三日……」
声が出た。
一枚目と同じ。
高瀬にも、
最初は三日後の死亡日時が書かれていた。
そして、
死んだ。
父が七枚目を見た。
「やっぱり澪だった」
「やっぱりって何」
「十五年前と同じだ」
「違う」
私は言った。
「十五年前の私は十四歳だった」
今は二十九歳。
でも。
同じ場所。
同じ名前。
同じ役。
十五年前に欠けた、
七人目。
「これで七人が揃った?」
私は訊いた。
佐伯課長が、
現在の通知を数える。
高瀬。
榊原。
父。
由紀子。
そして五枚目と六枚目は、
まだ正式には開いていない。
「待って」
私は言った。
「順番がおかしい」
「何が?」
「七人目が確定したなら」
残り二枚も、
もう隠す意味がない。
「五枚目と六枚目を開けてください」
真壁が頷く。
まず、
五枚目。
封を切る。
氏名。
柿崎修一
予想どおりだった。
死亡日時。
九月十日 午後十一時四十分。
死亡場所。
岸本総合病院旧産科病棟
死因。
そこだけ。
自死
柿崎先生の顔が変わる。
「自死?」
私は見る。
「先生、自殺するつもりなんて」
「ありません」
即答だった。
母と同じ。
自殺とされる予定。
自分では、
死ぬつもりがない。
「また、死因まで作るつもりなんだ」
真壁が通知を証拠袋へ入れる。
次。
六枚目。
私は、
三田村だと思っていた。
母の死亡届を出した男。
火葬場で、
七人を集めると言った男。
しかし。
封を開いた瞬間。
真壁の手が止まった。
「どうしました」
答えない。
「誰ですか」
私は紙を見る。
氏名。
そこには、
三田村彰とは書かれていなかった。
相原奈緒
私は息を止めた。
「奈緒さん?」
十五年前に死んだ女性。
車ごと川へ落ち、
死亡したことになっている。
「死んでる人じゃないですか」
誰も答えない。
死亡日時。
九月十一日 午後十一時四十分。
死亡場所。
岸本総合病院。
死因。
二度目の死亡
「二度目?」
背中が冷える。
父の顔を見る。
「奈緒さん、生きてるの?」
「……」
「父さん」
「俺は知らない」
声が弱い。
嘘かもしれない。
「三田村さんが六人目じゃなかった」
私は呟く。
母の死亡届を出した。
母に人生を壊された。
十五年前の七人にも関わっていた。
それなのに、
現在の七枚には入っていない。
「じゃあ三田村さんは」
佐伯が言った。
「通知を受け取る側じゃない」
真壁が続ける。
「配る側の可能性があります」
六人目。
相原奈緒。
死んだはずの女。
七人目。
私。
これで、
現在の七枚が揃った。
一人目。
高瀬隆志。
二人目。
榊原美佐子。
三人目。
水城雅彦。
四人目。
早川由紀子。
五人目。
柿崎修一。
六人目。
相原奈緒。
七人目。
水城澪。
私は並んだ名前を見る。
一つ、
気づいた。
「佐伯課長がいない」
十五年前の七人には、
佐伯がいた。
でも、
現在の通知にはいない。
「それに」
由紀子の代わりに死んだ篠宮恵美。
久我。
あの人たちも、
七枚の正式な名前ではない。
「死亡通知を受け取った人と」
私は言う。
「母を殺した七人は、同じじゃない」
真壁が頷く。
「最初から、その可能性はありました」
なら。
母の紙。
私は、この七人に殺されました。
あの「七人」と、
現在の死亡通知の「七人」。
別の集団かもしれない。
「三田村さんは」
私は言った。
「誰を集めたいんだろう」
二十九年前の病院にいた七人?
十五年前に母が呼んだ七人?
母に人生を壊された七人?
それとも。
現在、
生き残っている七人?
そのとき。
七枚目の裏側に、
新しい文字が浮かんだ。
赤い字。
七人目確定。
続いて。
全員の招集を開始します。
真壁がすぐに写真を撮る。
次の行。
集合日時
九月十二日 午後十時四十分。
私は眉を寄せた。
「十時四十分?」
死亡日時は、
午後十一時四十分。
一時間前。
母と同じだった。
母は、
午後十時四十分に死亡したことにされ、
そのあと一時間生きていた。
今度は私。
午後十時四十分に集合。
午後十一時四十分に死亡予定。
「一時間」
私は呟いた。
母に与えられた、
死者としての一時間。
それと同じ時間が、
私にも用意されている。
さらに文字。
七人目は、開始時刻に死亡扱いとなります。
胸が冷えた。
「死亡扱い?」
真壁が読む。
午後十時四十分以降、水城澪は死亡したものとして処理します。
「処理って何」
誰も答えない。
でも、
私は知っている。
死亡届。
戸籍。
職員システム。
社会の記録から、
人を消す。
母がされたこと。
生きているのに、
死者にされる。
「私も」
声が震えた。
「母と同じことをされる?」
午後十時四十分。
私を死者として登録する。
そこから、
一時間。
そして十一時四十分。
本当に死なせる。
そんな筋書き。
「行かせません」
真壁が言った。
「旧病棟には捜査員を入れます」
「でも行かなかったら」
私は七枚目を見る。
高瀬は死んだ。
父は生き残った。
代わりに恵美が死んだ。
通知は、
欠席した人間の代わりを選ぶ。
「誰かが代わりに死ぬ」
真壁は黙る。
そこへ、
私のスマートフォンが鳴った。
三田村。
また非通知。
「出ます」
『名前、出たか』
私は歯を食いしばった。
「最初から私にするつもりだったでしょう」
『俺は名前を書いてない』
「嘘」
『七枚目に書いたのは、空欄までだ』
私は七枚目を見る。
「じゃあ誰が私の名前を」
『六人だ』
「誰も答えてない」
『答えてる』
「いつ」
『十五年前』
胸が冷たくなる。
『十四歳のお前を、六人が選んだ』
「三田村さんだけ書かなかったって聞きました」
電話の向こうで、
小さな笑い。
『それも嘘だ』
私は父を見る。
父の顔が変わった。
「何が嘘なんです」
『十五年前』
三田村が言う。
『最後に水城澪と書いたのは、俺だ』
私は息を止めた。
六人全員。
私を選んだ。
『千佳は、お前を七人目にしたくなかった』
「でも母が誘導したって」
『逆だ』
「何が」
『千佳は最後まで止めた』
父を見る。
「父さん?」
目を逸らした。
『俺たち六人が』
三田村の声が低くなる。
『澪を七人目にしろって迫った』
「どうして」
『お前だけが』
少し間。
『二十九年前の答えを持ってたからだ』
「私は赤ん坊ですよ」
『赤ん坊の記憶じゃない』
「じゃあ何」
『十四歳のとき、お前は見つけた』
また、
消えている記憶。
『千佳が二十九年間隠していたものを』
「何を?」
『写真だ』
「何の」
『病院から連れて帰った赤ん坊の写真』
私は動けなくなった。
父が以前言った。
出生届に添えられていた写真。
足に特徴的な痣。
それは、
私ではなく、
ひかりにあった。
「その写真なら」
『違う』
三田村が遮る。
『もう一枚ある』
「もう一枚?」
『千佳が病院から連れて帰った翌朝に撮った写真だ』
「そこに誰が?」
三田村は答えた。
『赤ん坊が二人写ってる』
私は息を止めた。
「二人?」
『千佳は』
声が遠くなる。
『一人だけ連れて帰ったんじゃない』
二十九年前。
母が病院を出た翌朝。
家には、
赤ん坊が二人いた。
「じゃあ」
私は声を失いかけた。
「もう一人は誰?」
『それを知っているのが、お前だ』
「知らない」
『知ってた』
過去形。
『十四歳のお前は、その写真を見つけた』
「それで?」
『千佳に問い詰めた』
頭の奥が痛む。
階段。
母の怒鳴り声。
私の手。
写真。
――この子、誰?
何かが、
戻りかける。
『その夜』
三田村が言った。
『お前は千佳を殺した』
私は呼吸を止めた。
「……何?」
電話は切れた。
画面には、
一通の画像が届いた。
古い写真。
若い母。
自宅のソファ。
その腕に、
二人の赤ん坊。
一人は、
足を出している。
痣がある。
もう一人は、
母の胸に抱かれ、
顔だけが見えている。
写真の裏。
十四歳の私の字。
どっちが私?
その下。
母の字。
どちらでもない。
私は写真から、
目を離せなかった。
七枚目に、
私の名前が書かれていた。
それは、
私が母の娘だからではない。
二十九年前の秘密を、
知らされる側だからでもない。
十五年前。
私は一度、
その秘密にたどり着いていた。
そしてその夜、
母を――
一度、
殺していた。
コメント
1件
うわあ、この展開…一気に核心に迫ってきたね。七枚目に澪の名前が書かれた時点でゾッとしたけど、それ以上に「二度目の死亡」とか「どっちが私?」の写真の裏書きが重すぎる。十五年前に澪が一度母を♡♡♡たって三田村の台詞で、ここまでの伏線が全部つながる感じがした。この世界観の整合性、本当にすごい。続きが気になって仕方ないよ。