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街を抜けると、夜風が冷たく頬を打つ。群れは消えたはずなのに、身体はまだ硬直したままだ。足は前に出るけれど、震えが止まらない。暗闇に包まれた路地に入ると、視界は狭まり、逃げ場はますますなくなる。
「ちょっと待てよ、こっちだ」
後ろから声がする。数人の笑い声とともに、群れが追いつく。手には小さな棒や缶、何でも利用できる物が握られている。俺は思わず小さく喘ぎを漏らす。それだけで彼らは嗤い、追い込む速度を上げる。
「おい、歩くの遅えな、もっと見せろよ」
棒で肩を軽く突かれる。痛みというより、存在を突き出される屈辱。足を止めると、蹴られ、押される。どれも大げさではないけれど、身体の奥にじわじわと刺さる。
「ん……やめ……」
声はかすれ、震える。身体が勝手に反応するたびに、嗤いが増幅される。足元に置かれたゴミ箱や段差を押し付けられ、踏みつけるように歩かされる。自分の身体が道具にされている感覚。
街灯の下、彼らはスマホを構え、俺のかすかな声や動きを撮影する。通りすがりの人々は避けるでもなく、ただちらりと視線を送る。誰も助けてくれない。存在そのものが晒され、羞恥が増幅される。
「もっと前に出ろよ、メス犬」
押され、蹴られ、棒で突かれ、俺の小さな声は夜の静けさに溶け込む。身体が震え、手足が思うように動かない。それでも必死に前へ進む。立ち止まれば、蹴られ、蹴られた先で転べば、笑いの的になる。
「あ……ん……」
ほんのかすかな声が出てしまう。嗤い声が追い打ちをかける。街中での羞恥と、夜道での孤立が交錯し、身体の震えと羞恥の熱が重なる。
「おい、もうちょっと笑わせろよ」
棒で軽く叩かれ、転びそうになる。立ち上がるたびに、嗤われ、押され、蹴られる。痛みよりも、存在そのものを踏みにじられる屈辱が重い。
暗闇の中、俺は逃げ場のない地獄を歩き続ける。声を出さぬよう必死に堪え、息を整えようとするたび、嗤いと蹴りで叩き潰される。必死に耐えても、誰も褒めず、救ってはくれない。存在そのものが、ただの遊び道具でしかないことを突きつけられる夜道だった。
部屋の扉を閉めた瞬間、音もなく涙が落ちる。誰もいないはずの部屋なのに、胸の奥がざわつき、さっきの嗤い声や蹴られる感覚が消えない。身体は硬直し、手足の震えも止まらない。
「……また、俺……馬鹿みたいに……」
声に出すと、胸の奥の小さな自己嫌悪が膨らむ。努力して必死に応えようとしたのに、踏みにじられ、利用され、晒されたことの痛みが、まだ全身を覆っている。存在そのものが否定された感覚。
手を握りしめ、ベッドに沈み込む。布団に潜ろうとするけれど、身体の震えは止まらず、心も安まらない。あの通りでの屈辱、夜道での孤立、嗤い声や蹴りの感覚が、何度も繰り返し蘇る。
「……なんで……なんで俺ばっか……」
頭の中で何度も問いかける。答えはない。ただ、自己否定と自己卑下が渦を巻き、存在の価値すら疑わしくなる。心の奥底で、「俺はここにいていいのか」と小さく囁く自分を、強がり風の口調で否定してしまう。
壁に背を預け、膝を抱える。身体の痛みよりも、心の痛みが深い。幼少期からずっと受けてきた虐待やいじめが、今も脳裏で鮮明に蘇る。善意や努力はいつも踏みにじられ、必死さは笑いのネタになり、存在そのものが道具のように扱われる。
「……弱い、俺……」
呟きはかすれ、ただ自分を打ちのめすだけ。誰にも理解されず、誰も助けてくれない孤独の中で、自己否定は止まらない。涙が枕を濡らし、胸の奥の痛みが引かないまま夜は深まっていく。
存在を踏みにじられ続け、利用され、晒され、蹴られ、嗤われ、誰も救わず――それでも生き延びなければならない。身体も心もボロボロで、声すら出せないまま、遥は一人、自己嫌悪の底で夜を越えるのだった。