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コメント
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初出勤、ドキドキですね.... でも 人事部にいたあの人以外は 素敵で優秀な社員さんばかりだから、大丈夫‼️😊👍️💕 一緒にエレベーターに乗った井上くん....🥰 彼のお話も楽しみです💕💕
初出勤は緊張しちゃうよね。思った以上に暖かい印象の社員さんにホッとするね🥰 美沙の印象は会社のイメージ下げてたなんて😨 省吾さんの登場が待ち遠しい😘
初出勤 会わんで良かった 名取美沙 爺ちゃんの ごり押し、残るか 名取美沙 やってること、ほぼ犯罪やからなぁ。 そらきっと もうすぐ解雇 名取美沙 さようなら 行くとこないよ 名取美沙 秘書検定 持ってて損な ことはない。得したこともないけどな。
そしていよいよ奈緒の初出勤の日がきた。
初日なので、奈緒は無難にグレーのスーツを着る事にする。
シンプルで控えめなスーツだが、スカートの裾が少し広がっていてエレガントだ。
秘書室には他に二人の秘書がいるそうなので、明日以降の服装は彼女達の服装を見て決めようと思う。
身支度が終わると、奈緒は「よしっ!」と気合を入れてからマンションを出た。
電車はかなり混雑していたが、二駅だけなのでなんとか我慢出来る。
やはり職場から近いのは楽だ。奈緒は会社の近くに引越して正解だったと心から思う。
CyberSpace.inc の本社ビル前に着くと、奈緒は足を止めて一度大きく深呼吸をする。
そして少し緊張した面持ちでビルの中へ入った。
奈緒はすぐにエレベーター乗り場へ向かう。
このビルは、30階以上のフロアに行くには専用のエレベーターが用意されていた。
30階よりも上には、今勢いのある有名企業ばかりが軒を連ねている。
つまり上層階専用の乗り場にいると、誰もが憧れる企業の社員だとすぐにわかってしまう。
奈緒が専用の乗り場へ行くと、一般のエレベーターに並んでいる人達が羨望の眼差しで見つめた。
その鋭い視線は身体に刺さりそうなくらい強い。
(あ……なんか思いっきり見られてる?)
痛いほどの視線を浴びていると、つい自分が特別な存在になったような錯覚を覚えた。
その時エレベーターが来たので、奈緒は慌てて逃げるように乗った。
混雑した一般のエレベーターとは違い、こちらのエレベーターには数名しか乗っていない。
30階まで一気に通過した後、ボタンが押された階に各駅停車のように止まり始める。
止まる度に一人また一人と姿を消し、最後は奈緒一人だけになった。
CyberSpace.inc は、フレックスタイム制やリモートワークを積極的に取り入れているので、朝早いこの時間に出勤する社員は少ないようだ。
その時奈緒は、前の会社のぎゅうぎゅう詰めのエレベーターを思い出して思わずフフッと笑った。
新しい職場は、エレベーターまでもが快適なようだ。
その時 ポーン という音と共に受付のある37階へ到着した。
奈緒は受付に立ち寄った後、指示された通りにすぐに人事部へ向かった。
長い廊下を進んで行くと『人事部・経理部』という表示が見える。部屋のドアは開いたままだ。
奈緒は一度深呼吸をすると、ノックをしてから中にいる社員に声を掛けた。
「おはようございます。失礼いたします」
すると早出の社員が数名、奈緒に向かって挨拶を返してくれた。
「「「おはようございます」」」
皆笑顔で感じが良い。
(あれ? 面接の時の人とは違ってみんなすごく感じがいいわ……)
奈緒は少し拍子抜けする。
挨拶を返してくれた人の中に、面接の時の女性はいなかった。
(……という事は、あの人だけがクールだったって事?)
奈緒は急にホッとすると、軽い足取りで人事部のデスクへ向かった。
すると奈緒に気付いた人事部長の杉田が、ニッコリと微笑みながら立ち上がる。
「やぁ麻生さん、お待ちしていましたよ! 今日からよろしくお願いしますね」
「おはようございます。本日からよろしくお願いいたします」
奈緒は深く一礼する。
すると杉田が笑顔で言った。
「麻生さんは今日から我々の仲間なんですから、そんな堅苦しい挨拶はしなくて大丈夫ですよ。気楽に肩の力を抜いて…ね! では早速秘書課にご案内いたしましょう」
杉田はそう言って歩き始める。
出口へ向かう途中、杉田は奈緒にフロアにいる社員達を紹介してくれた。挨拶を交わした人達は、皆感じの良い人ばかりだった。
「じゃ、ちょっと上に行って来るよ」
杉田は部下にそう告げると出口へ向かった。
奈緒が皆にペコリとお辞儀をして後に続くと、「いってらっしゃーい」と声が掛かる。
(なんかみんな優しい……)
奈緒はもっと冷たい感じの職場だと思っていたので、予想が外れた事が嬉しかった。
エレベーターの前に立つと杉田が言った。
「秘書室は41階にあります」
(うわ……結構上の階なのね……)
エレベーターが到着すると二人は乗り込む。すると中には二人の若者がいた。
二人とも歳は20代半ばくらい、どちらもジーンズにパーカースタイルのカジュアルな服装でリュックを背負っている。今時の若者といった感じだ。
ヘアスタイルも一人は茶髪、そしてもう一人は金髪だ。茶髪の男性は片耳にピアスを着けている。
ピアスを着けている社員が井上賢人(いのうえけんと)、金髪の社員が岡田浩之(おかだひろゆき)。
彼らはこの会社の有能な若手プログラマーだ。
二人は人事部長の杉田に気付くと、すぐに挨拶した。
「「杉田部長、おはようございまっす!」」
「おうっ、おはよう。二人とも今から? 今日は早いじゃん」
「今日は帰りに合コンに行くんで早出っす」
「えーっ? 岡田君はわかるけど井上君も合コンなんて行くんだぁ? え? でも井上君の例の彼女はどうしたの?」
「先月別れました」
「なんだよぉ~もう別れたのか~、もったいねぇなぁ~」
「ブランド好き束縛系女子はもう勘弁っす」
「ハハッ、何言ってんだ? 君達は我が社の敏腕プログラマーなんだから同年代の中ではかなりの高給取りだろう? だったらブランド物の一つや二つ買えるだろう?」
すると岡田が口を挟む。
「賢人は金遣い荒いチャラい女は駄目みたいっすよ」
「うるせぇなぁ……」
「じゃあどんなのがいいんだ?」
「俺が思うに、賢人はオタク系腐女子じゃないと話が合わないんじゃないかなぁ?」
「お前が決めるなっ!!!」
そう言って井上が岡田の頭をパシッと叩いた。
「おいおい朝から喧嘩するなー! まぁオタク系腐女子がご希望ならグッドタイミングだな。たまたま今そういう系を絶賛採用中だからなー」
「マジっすか? 採用の予定あるんっすか?」
「今もれなく面接中だ。バッキバキのリケジョ腐女子を期待しろよ」
「マジかぁ~楽しみだなぁ~」
「お前馬鹿じゃないの? それって結局お前の好みじゃん」
井上が呆れたように言ったので、エレベーターの中に笑いが溢れる。
つい釣られて奈緒も笑ってしまった。
その時奈緒は自分の見識が全く違っていた事に気付く。
この会社の社員達は、部署を超えて円滑なコミュニケ―ションが取れていた。
上に立つ者が当たり前のように若い社員のステージまで降りて来て、積極的なコミュニケーションを図っている。
だから若い彼らも臆することなく上の人間と対等に話しが出来るのだ。
こんな環境なら、おそらく若者達の離職率も低いだろう……奈緒はそんな風に思う。
常に競い合い重い空気の中で仕事をするよりも、コミュニケーションを深め協力し合いながら仕事をする方が奈緒は好きだった。
だからそんな理想的な環境の中で今日から働けるのだと思うと嬉しくなる。
(よしっ、頑張らなくちゃ!)
奈緒は俄然やる気がみなぎってきた。
そしてこれから始まる新しい生活に、少しだけ胸を躍らせていた。