その後若手エンジニア二人は39階でエレベーターを降りた。
奈緒と杉田は41階まで行く。
41階でエレベーターを降りた奈緒は、その廊下を見て少し驚く。
その階の廊下はフカフカの絨毯で覆われ、さながら高級ホテルのようだ。
そして騒めいていた他の階とは違い、物音一つせず静まり返っている。
廊下を右手に進んで行くと役員室が見えてきた。
左手の一番手前がCTOの部屋、その隣りがCFOの部屋、そしてCOOの部屋へと続いている。
更にその奥が秘書室だった。ここが奈緒の新しい職場だ。
そして秘書室の向こうの突き当たりの部屋がCEO室だ。そこが深山省吾の部屋だ。
奈緒の前の会社の最上階は、やはりここと同じように役員室が集まっていたが、奈緒のような一般社員がその階に行く事はなかった。
しかし今後奈緒はほとんどの時間をこの階で過ごすのだ。そう思うと緊張する。
秘書室の前まで行くと、杉田がノックをして中に入ったので奈緒も続く。
部屋に入ると、低い仕切りのついたお洒落なデスクが三つあった。一つは新品のようだ。
入口を入ってすぐ右手には、カウンターで仕切られたミニキッチンコーナーがある。
こじんまりとしたキッチンには、冷蔵庫や電子レンジ、コーヒーメーカーや電気ケトル等なんでも揃っている。
そして部屋の中心には丸テーブルが置いてある。テーブルの周りにはお洒落なスツールもあった。
(え? まるでカフェみたい?)
想像していた秘書室とはあまりにも違うので奈緒は驚く。
その部屋には更に座り心地の良さそうなソファー、その前には大きなテレビも置いてあった。
思わず奈緒は感嘆のため息を漏らす。
(なんか素敵な部屋……それにわざわざ給湯室に行かなくていいのは便利ね)
奈緒は持って来た弁当をこの丸テーブルで食べられるかもしれないと思うと、嬉しくなる。
その時、左奥にあるドアから二人の女性が出て来た。そこは小さな小部屋になっていて、ロッカールームになっているようだ。
「ああ、いたいた。お二人さんおはよう! ちょっとこっちに来てもらってもいいかな?」
「「はい」」
返事をした二人は、すぐに奈緒の前まで来た。
女性のうち一人は50歳前後、そしてもう一人は奈緒と同年代のようだ。
どちらもニコニコと笑顔を浮かべている。
「こちらが今日から秘書室に配属になった麻生奈緒さんです。彼女は深山さんについてもらう事になったからよろしく! 麻生さんは前職でサポート業務は経験されていますが、秘書として勤務するのは今回が初めてなので、二人とも色々と教えてあげて下さいね。よろしく!」
「麻生奈緒です。秘書として勤務するのは初めてなので色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
奈緒は深々とお辞儀をした。
すると、女性二人は笑顔で拍手をしてくれた。
「初めまして、秘書室長の後藤さおり(ごとうさおり)です。秘書歴はなんだかんだともう30年近く…あっ、歳がバレちゃう! フフッ、まあ経験だけは無駄にあるので、これからは何でも遠慮なく聞いて下さいね。よろしく!」
「中森恵子(なかもりけいこ)です。秘書室へようこそ~! 多分、私は麻生さんよりも2歳上かな? えっと、私も転職組で秘書の仕事はここへ来てからなんです。でも大丈夫よ、ここにはさおりさんがいるから。だから安心して楽しく一緒に頑張りましょう! どうぞよろしくお願いします」
(優しそうな人達……)
優しい先輩達を見て、奈緒は思わず胸がいっぱいになる。
そしてもう一度ペコリとお辞儀をした。
そこでさおりが杉田に聞いた。
「深山さんの戻りは明日ですよね?」
「そう。会社に出て来るのは明後日からだから、それまでのんびりしてちょーだい」
「ありがとうございまーす」
「じゃ、後の事よろしくね! 麻生さん、今日一日はさおりさんについて、なんとなーく雰囲気だけ掴んで下さい。仕事は徐々にゆっくり覚えていけばいいからね」
「ありがとうございます」
「じゃあお二人さん、よろしく頼んだよ」
杉田は笑顔で秘書室を後にした。
「それじゃあ麻生さんのデスクはここね。で、ロッカーはこっちよ、来て!」
さおりは先ほど二人が出て来た小部屋のドアを開け、奈緒を中に入れた。
やはり奈緒が思った通り、中は秘書専用のロッカールームになっていた。
「ここは秘書三人専用のロッカールームなの。鍵もかかるから着替える時は必ず鍵をかけてね。でないと、秘書室には結構役員達が出入りするから」
「わかりました」
「じゃあここが麻生さんのロッカーね。荷物を入れたら戻って来てね」
さおりは先にデスクに戻った。
(秘書専用のロッカールームがあるんだ……デスクから近くて凄く便利……)
奈緒はまた感嘆のため息を漏らす。
前の会社のロッカーは、狭くて暗くていつも混雑していた。
しかしこの会社ではエレベーターからロッカーに至るまで何もかもが快適だ。
奈緒はそんな環境で働ける事に感謝した。
(よしっ、頑張るぞっ!)
奈緒は素早く荷物をしまうと、さおりが待っているデスクへと戻って行った。
コメント
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秘書の先輩方、奈緒ちゃんを宜しくお願いします🥰 暖かい先輩方に素敵なオフィスと期待しかない💕 省吾さんの登場を今か今かと待つのみですね🫶
居心地の良さそうなオフィスと優しい先輩たちで一安心だね😊 やっぱり人と環境は大事(๑•̀ㅂ•́)و✧
気さく且つ きっと美魔女の 後藤さん シゴデキで ちょっとパイセン 恵子さん 場違いに 気付かぬ珍獣 名取美沙 あら、今話も深山っち不在。