テラーノベル
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その日、美空(みく)は目を輝かせながら、母の宝石箱を覗き込んでいた。
アンティーク調の木製ジュエリーボックスは、重厚感があり、まるでおとぎ話に出てくるような雰囲気だ。
化粧をする母親の傍で、美空はこうして宝石箱を眺めるのが日課だった。
数あるジュエリーの中で、美空のお気に入りは、オレンジ色の宝石がついた指輪だった。
「美空は、その指輪がお気に入りなのね?」
「うん! 美空はこれが一番好き! オレンジ色がとっても綺麗なんだもん」
窓から差し込む太陽光に照らされると、指輪はさらに美しい輝きを放つ。
美空は何度も光にかざし、そのキラキラと輝く指輪を飽きることなく眺め続けた。
夢中で指輪を見つめる美空に、母は穏やかな声でこう言った。
「それはね、トパーズって言うのよ」
「トパーズ?」
「そう、トパーズ。トパーズには、昔あるお姫様が流した涙が瓶に集められ、それが結晶となって宝石に生まれ変わったという伝説があるのよ」
「『けっしょう』ってなぁに?」
「結晶っていうのはね……美空にはちょっとまだ難しいかな? うーん、そうね…涙が固まったものって言ったら分かるかしら?」
「うんっ! でも、どうして涙なの?」
「どうしてかしらね」
「じゃあ、私の涙も瓶に集めたら、この宝石になるの?」
「フフッ、それはどうかしら? お姫様の涙じゃないと駄目かもしれないわ」
「そうなの?」
少しがっかりした様子の美空に、母は続けた。
「それとね、トパーズを作る時の涙は『悲しみの涙』じゃないと駄目なの。『喜びの涙』では駄目なんですって」
美空は、その言葉の意味を完全には理解できなかったが、なんとなく分かったふりをした。
(指輪にするなら『喜びの涙』の方がいいのに、何でだろう?)
不思議に思った美空は、その疑問を母にぶつけてみた。
「なぜ『喜びの涙』じゃ駄目なの?」
「それはね、より美しい宝石を作るためなの。だから『悲しみの涙』じゃないと駄目なんですって」
母はそう答えると、穏やかに微笑みを浮かべた。
コメント
48件
ありがとうございます。思い出しながら読ませていただきます。
瑠璃マリ先生、長きにわたる転載作業お疲れ様です🙇 漸く終わりに近づいてきましたね…😌💓 久しぶりに読めるのが嬉しいですが、どうか無理をなさらず 先生のペースで更新していただければ.…と思います🧡✨ 楽しみにしております🥰🎶
お久しぶりです二作品で連鎖されてますね。なかなか読みどころがあります。私敵わないわ。(/。\)