「やっぱり火事ですか?」
「そうみたいだな」
「うちの近くだったらどうしよう…家に入れるかな…?」
花純は不安気に呟く。
「アパートまで一緒について行くから安心しなさい」
花純は申し訳ない気持ちになりながらも、一人で帰るのが不安だったのでホッとする。
それから壮馬は近くにコインパーキングがないか探し始めた。
50メートルほど進んだ角に、コインパーキングを見つけたので車をそこに停める。
二人は車を降りると、すぐにアパートへ向かった。
さらに寒気が増した花純の顔色はあまり良くない。
「大丈夫か?」
「あ、はい…大丈夫です」
本当はかなりしんどかったが、壮馬を心配させないようにそう答えた。
先程の規制線の所まで行くと、壮馬が警察官に事情を話す。
「彼女がこの先のアパートに住んでいるんですけれど、入れますか?」
すると警察官が驚いた顔をする。
「なんというアパートですか?」
「『白鳥荘』です」
すぐに花純が答えた。
「『白鳥荘』? 火事はそのアパートで発生したんですよ」
警察官の言葉に二人は驚いた顔をする。
(どうしよう……うちも燃えちゃたの? 植物達は? あの子達は大丈夫なの?)
熱で朦朧とする頭で花純は咄嗟にそう考える。
その時壮馬が再び警察官に聞いた。
「火事はまだ鎮火していないのですか?」
「先程ようやく鎮火しましたよ。202号室から出火したみたいです」
それを聞いた花純が一瞬よろめく。
そんな花純の身体を壮馬の逞しい腕ががっちりと支えた。
「確か君は205号室だよな?」
「そうです」
花純は寒気と精神的ショックのせいで身体が震え出した。
そんな花純を支えたまま壮馬が警察官に言った。
「中の様子を見に行っても大丈夫でしょうか?」
「ああ、じゃあ今ご案内します」
警察官はその場をもう一人の警察官に任せてから二人を誘導してくれた。
壮馬は花純を支えながら警察官についていく。
規制線の中へ入ると、警察官は辺りで活動している人達に声を張り上げて言った。
「すみません、住人の方が通ります」
その後ろを二人がついていく。
道路の脇では警察官と消防署職員が片付けをしている最中だった。
壮馬の手から伝わってくる花純の体温はとても熱い。
熱が上がってきている証拠だ。
「大丈夫か?」
「はい……」
花純は気弱な声で返事をする。
50メートル程歩くと、無残な姿の『白鳥荘』が見えてきた。
「えっ、嘘っ…」
花純は泣きそうな声で呟く。
二人の目の前にあるのは、
アパートは二階の左半分がほぼ消失していた。
一番右にある花純の部屋も水浸しのようだ。
「君の部屋は一番右?」
「そうです」
震える声でなんとか答えると、壮馬はうんと頷いてから言った。
「ちょっとここで待ってて」
壮馬はアパートの前に立っている警察官の傍へ行き話し始める。
その時、花純を呼ぶ声が聞こえた。
「花純ちゃんっ! 良かったー無事で!」
花純が振り返ると、大家の瀬川だった。
「大家さん! ご無事でしたか!」
花純は思わず泣き笑いのような顔になる。
大家の瀬川は60代の女性で、このアパートの一階に一人で住んでいる。
今回の火災で瀬川も巻き込まれたようだ。
「もうーびっくりでしょう? 出火原因はどうも202号室の土屋さんの煙草の不始末みたい。参ったわー」
瀬川は泣きそうな声で花純に言う。
「土屋さんは?」
「煙を吸って病院に運ばれたけど意識はあったから大丈夫よ」
それを聞いて花純はほっとする。
土屋は80歳くらいの男性で、すれ違う時にはいつも笑顔で挨拶をしてくれる優しい老人だった。
「ごめんねぇ、こんな事になっちゃって」
瀬川は涙を浮かべながら申し訳なさそうに言った。
「ううん、仕方ないです…」
「困ったわー、これから大変よ。ちょっと今はパニックでなんにも考えられないけれど、とにかくこの状態ではここにはもう住
めないから、今日は一旦ホテルか知り合いの家にでも行ってもらっていい? 詳細は追って連絡するから」
「分かりました。必要な荷物は運び出せますか?」
花純は最低限の荷物だけでも持ち出したかったので瀬川に聞いた。
その時壮馬が戻って来た。
花純は壮馬に大家の瀬川を紹介する。
すると壮馬は名刺を取り出し瀬川に挨拶をした。
「初めまして、今藤野さんとお仕事をさせていただいている高城と申します」
瀬川は名刺を受け取ると目を大きく見開いた。
名刺には瀬川でも知っている超大手不動産会社の名が記されてあったからだ。
そして『副社長』という肩書を見て更に驚く。
「まあご丁寧にありがとうございます。でも花純ちゃんのお勤め先は確か青山花壇だったわよね? 転職したの?」
「あ、違うんです。今副業でこちらの会社にもお世話になっていて」
「ああ、そういうこと…」
花純の説明で瀬川は納得したようだ。
そこで再び壮馬が言う。
「今警察の方に聞いたところ、必要な荷物は運び出しても構わないと言われたので取りに行ってもよろしいでしょうか?」
「ええもちろん! 本当にすみません、ご迷惑をおかけします。今後の事については追って連絡しますので」
そこで壮馬が言った。
「この件に関しては全て私が代理で引き受けますので、恐れ入りますが名刺の電話番号へご連絡いただけますでしょうか?」
壮馬の言葉に女性二人が「えっ?」という顔をする。
「副社長……」
「君は具合が悪くてそれどころじゃないだろう? 私に任せなさい」
「あら花純ちゃん、そう言えば顔が赤いわ…熱があるの?」
「あ、いえ…大したことはないですから…」
その時瀬川は花純を支えている壮馬を見て何かピンときたようだ。
「分かりました。では今後の事については高城さんにお電話するようにしますね」
「よろしくお願いします。では荷物を取って来ます」
壮馬は瀬川に会釈すると、花純の腕を支えながらアパートの階段へ向かった。
コメント
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花純ちゃん…😭せめて大切な植物🪴たちは無事でありますように‼️ 壮馬さんに送ってもらってて花純ちゃんも体調不良の中、少し安心できてるかな?
花純ンの左遷に体調不良😷に追い打ちをかけてアパートの火事⁉️🧯🔥 不幸中の幸いは隣に壮馬さんがいたこと🥺 壮馬さんが窓口になって花純ンを助けてくれて、大家さんも機転を効かせて壮馬さんのことを察知してくれて良かった❣️
アパートの火事🔥⁉️😱 花純ちゃんには何の罪も無いのに 会社から左遷されたばかり、さらに 体調不良の彼女に追い討ちをかけるように 今度は火災....辛すぎます😭 壮馬さんが側にいてくれて、本当に良かった😌 どうか彼女を守り、力になってあげてください🙏