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「……で、さっそくやるわけ?」
蓮司は制服のシャツのボタンを外しながら、ふっと笑った。
「“恋人ごっこ”ってやつ。……信じさせるんだろ? あの優等生くんに」
遥は黙っていた。
言葉にすれば、何かが崩れそうで。
視線を逸らせば、弱さが露呈しそうで。
だから、ただそこに立ち尽くした。
蓮司が一歩、近づく。
いつもと変わらぬ、気だるげで軽い足取り。
けれどその目だけが、爛々と光っていた。
「……おまえ、ほんと馬鹿だよな」
「壊されるってわかってて、自分から近づいてくるなんて」
遥は、ぎゅっと指先を握った。
だけど否定はしなかった。
(俺がほしいのは……信じさせることだけ。あいつに、ちゃんと“突き放される”くらいには)
(それだけ……それだけのはずなのに──)
「じゃ、ちゃんと“それっぽく”してやるよ。……おまえの全部で、演じな」
蓮司の指が、顎を持ち上げる。
唇が重なった瞬間、遥は一瞬だけ呼吸を止めた。
舌が、容赦なく侵入してくる。
まるで愛撫というより“支配の合図”のように。
「……もっと、ちゃんと感じた顔しろよ?」
耳元で囁かれる声。
演技の指導のようでいて、実際は“命令”だった。
そのまま、制服の下へと手が滑り込む。
肌に触れるたび、遥の表情がひくつく。
「やめる?」と蓮司が問う。
「……信じさせたいんだろ?」
遥は、ほんのわずか、頷いた。
それが肯定か否か、自分でも分からないままに。
蓮司の手が腰を抱き、後ろの壁に押しつけられる。
身体を預けるたび、遥の膝が震えた。
──「……そんな顔、あの優等生に見せてやれば?」
「“誰のものか”って、はっきり刻んでやろうぜ?」
遥はその言葉に、一瞬だけ目を見開いた。
(──あぁ、そうか。俺は今、利用されてる)
(けど、それでいい。……どうせ俺なんか、元から空っぽだ)
蓮司のキスが深くなる。
手が服の内側を這い、ひどく冷たいのに熱を奪っていく。
声が漏れるのを、噛み殺した。
感じてなんかいない。
ただ、壊れてるだけ。
壊されて、傷つけられて──それを“恋人らしさ”として演じるしかない。
蓮司はふっと笑う。
「いいねぇ。……その顔、今度日下部にも見せてやろうか」
遥は笑った。壊れたように。
口元は笑っているのに、目だけが泣いている。