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その後瑠璃子は早見の事はなるべく思い出さないようにして仕事に集中した。

しかし気分は憂鬱なままで段々と身体まで怠くなってきた。

あれくらいの事では落ち込む瑠璃子じゃないのに今日は一体どうしたのだろう? そう思いながらなんとか仕事を続けた。


幸いこの日は朝までトラブルもなく平穏に過ぎていった。

そしてあと少しで夜勤が終わるという頃、瑠璃子の身体の怠さは本格的な体調不良へと変わっていた。


顔色の悪い瑠璃子に気付いた玉木がびっくりして聞く。


「瑠璃ちゃん、体調悪いんじゃないの?」

「玉木さん…なんだか寒気が……」


瑠璃子が気弱な声で言ったので玉木はすぐに体温を計らせる。すると39度を超えていたので玉木はびっくりした。


「瑠璃ちゃん、ちょっとここに座って待ってて」


玉木は瑠璃子を椅子に座らせるとすぐに大輔のいる医局へ向かった。

その時大輔は窓辺で朝のコーヒーを淹れているところだった。


「すみません岸本先生、瑠璃ちゃんが発熱したみたいなんです。看てもらえますか?」


大輔は驚いた顔をする。


「すぐに行きます」


机の上にあった聴診器を手にすると大輔は玉木と共にナースステーションへ向かった。


そこにはぐったりした瑠璃子がいた。


「大丈夫か?」


大輔はすぐに瑠璃子の脈をとる。瑠璃子の手のひらは熱を帯びている。

大輔は首のリンパを触診してから瑠璃子の胸に聴診器を当てる。肺は特に異常はないようだ。

次に大輔は瑠璃子の喉を見て腫れ具合を確かめた。


「少し腫れているかな。玉木さん、内科からインフルエンザの検査薬を貰ってきて下さい」

「わかりました」


その後の検査でインフルエンザは陰性だった。


そろそろ大輔の病棟回診が始まる時間が近付いていたので、大輔は瑠璃子を家に帰すよう玉木に指示を出してから一旦医局へ戻った。


「瑠璃ちゃん、あとは引継ぎだけだから心配いらないわ。今日はもう帰りなさい」

「申し訳ありません、じゃあ先に帰らせてもらいます」

「明日は無理しないで休みなさいよ。こっちの事は心配しなくていいから」

「すみません……」


瑠璃子はしんどそうな声で返事をするとロッカーへ向かった。


寒気でブルブル震えながらなんとか着替えを済ませると瑠璃子は出口へ向かった。

バスを待つ気力がなかったので今日はタクシーで帰る事にする。しかしタクシーはまだ一台も来ていなかった。

瑠璃子はタクシーを直接呼ぼうと震える手でバッグから携帯を取り出す。その時一台の車が近付き中から声がした。

瑠璃子が顔を上げるとそこには大輔がいた。


「送るから乗って」

「先生、回診は?」

「いつもより早めに回って来たから大丈夫だよ」


大輔が運転席から手を伸ばし助手席のドアを開けてくれたので瑠璃子は助手席へ座った。


瑠璃子のマンションへ着くと、大輔は運転席を降りて助手席側に回りドアを開けてくれる。

そして震えている瑠璃子を支えるようにして車から降ろしてくれた。


瑠璃子の部屋に入ると大輔はすぐにテーブルの上にあったエアコンのリモコンを押す。そして締まっていたカーテンを開けて太陽光を部屋に入れた。その瞬間冷え切った部屋の空気が徐々に温まってくる。


「寝室はあっち?」


ゆっくりと歩いて来た瑠璃子が頷くと大輔は瑠璃子を寝室へ連れて行った。

瑠璃子をベッドへ寝かせるとキッチンへ行き冷蔵庫の中を覗く。ちょうど水が入った500ミリリットルのペットボトルがあったので、それを瑠璃子の枕元へ持って来てくれた。


「吐き気は大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃあ薬は後で持って来るから暖かくして少し寝なさい」

「はい先生……ありがとうございます」


瑠璃子は震える声で言うと、少しホッとした様子で眠りに落ちていった。



大輔はすぐに病院へ戻ると、自分で書いた処方箋を持って薬剤部へ行った。

カウンターには研修医時代からの知り合いである薬剤師の山本(やまもと)がいた。山本は私服姿の大輔を見て驚く。


「あら先生。直接来るなんて珍しいですね」

「うん。ここの職員のなんだけどすぐに出来るかな? 急いでるんだ」

「今手が空いているからすぐに作りますよ」


山本は笑顔で言うと調剤室へ入って行った。

5分もしないうちに薬は出来上がった。


「ありがとう」


大輔は薬を受け取ると再び駐車場へ戻って行く。


その時病棟から早見陽子が戻ってきた。陽子は大輔の後ろ姿に気付き山本に聞いた。


「岸本先生どうかされたのですか?」

「なんか職員用の薬を急ぎでって言われたの。珍しいでしょう?」


そう答えると山本は調剤室へ戻って行った。


陽子は慌てて机の上にある処理済みの処方箋をパラパラとめくった。

そしてその中の一枚に目を留める。陽子の表情はみるみるこわばっていった。



それから4時間後、瑠璃子は漸く目覚めた。一度も起きずにぐっすりと眠っていたようだ。

窓から差し込む雪に反射した真昼の太陽光が眩しい。身体はまだ熱を持っていたが寒気は消えていた。

少し頭を動かすとズキンと痛む。思わず顔をしかめた瑠璃子が再び頭を持ち上げると隣のリビングに大輔がいるのが見えた。

大輔はノートパソコンに向かって仕事をしているようだ。

瑠璃子はびっくりして叫ぶ。


「先生っ」

「起きたね、具合はどう? ぐっすり眠っていたから薬を飲ませられなかったよ」


大輔は穏やかに言うと瑠璃子の傍へ来て脈をとる。それからおでこに手を当てた。


「まだ少しあるな……コンビニでお粥を買って来たけど食べられる?」

「はい」


大輔は頷くとキッチンへ行きレトルトの粥をレンジで温めた。

そしてプリンと薬と共にトレーに載せてベッドまで持ってきた。

それを見た瑠璃子は思わず微笑む。


「先生、いい奥さんになれますね」

「冗談を言えるくらいなら心配ないな」


大輔は起き上がった瑠璃子の膝にトレーを置いた。


瑠璃子はおかゆとプリンを全部平らげると大輔が処方した薬を飲む。


「まだ寝ていた方がいい」


食べ終えた食器は大輔が片付けてくれた。


「先生も夜勤でお疲れなのに…すみません」

「僕は医局で仮眠を取ったから大丈夫だよ」


片付けを終えた大輔が傍に来て言った。


「僕は一旦家に帰るけど何かあればすぐに連絡して。明日は玉木さんが休みにしてくれたからゆっくり休む事。一日休めばきっと治るよ。それと食べ物を冷蔵庫に入れてあるから食欲が出たらちゃんと食べて薬を飲むように」


そして大輔は玄関へ向かう。

瑠璃子はベッドから起きると玄関まで行き大輔を見送る。


「じゃあお大事に」

「先生、色々とありがとうございました」


大輔が帰った後瑠璃子はベッドへ戻り再びぐっすりと眠りに落ちた。

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