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#王子
すっこ
173
#主人公最強
杯雪乃
1,309
三枚目の死亡通知。
氏名。
水城雅彦。
生年月日。
父のものと一致している。
死亡年月日。
九月六日。
死亡時刻。
午後十一時四十分。
私は最後の欄を見た。
死亡場所。
水城千佳旧居。
ここだった。
今、
私たちが立っている、
母の家。
死因。
刺殺。
「……父さん」
父は何も言わなかった。
死亡通知を見ても、
驚いていない。
怖がってもいない。
ただ、
やっぱり来たか、
という顔をしていた。
「知ってたの?」
「何を」
「三枚目が父さんだって」
「可能性は考えてた」
「どうして」
父は答えない。
真壁刑事が通知を透明袋へ入れる。
「水城雅彦さん。これはあなた宛てです」
「ああ」
「三日後、この家で刺されて死亡すると書かれている」
「読めば分かる」
「ずいぶん落ち着いていますね」
父は小さく笑った。
「一度死にかけたばかりだからな」
私は腹が立った。
「笑いごとじゃない」
「笑ってない」
「だったらちゃんと答えて」
私は父の前に立つ。
「二枚目では、榊原さんの通知に父さんの名前が出た」
「そうだな」
「今度は父さん自身に通知が来た」
「ああ」
「これはどういう意味?」
父は三枚目を見る。
「順番が回ってきた」
「何の順番?」
「罪を話す順番だ」
真壁が反応する。
「死亡通知は、殺すためのものではないと?」
「最初はな」
「最初?」
父が口を閉じる。
まただ。
私は父の袖を掴んだ。
「お願いだから、もう隠さないで」
十二年ぶりに触った父の腕は、
記憶よりずっと細かった。
「高瀬さんは死んだ」
私は言った。
「久我さんも死んだ」
「……」
「榊原さんにも通知が届いてる。柿崎先生も襲われた」
「分かってる」
「じゃあ話して」
父が私を見る。
「何を聞きたい」
「全部」
「全部は無理だ」
「どうして!」
「全部知ったら、お前は千佳を許せなくなる」
私は一瞬、言葉を失った。
「もう母を綺麗な人だなんて思ってない」
佐伯を選んだ。
奈緒を告発しようとした。
七人から金を受け取った。
奈緒の娘を隠した。
それでも、
まだ何かある。
「母が何をしたの」
父は答えなかった。
代わりに、
通知へ手を伸ばした。
真壁が止める。
「触らないでください」
「俺宛てだ」
「証拠品です」
「裏を見ろ」
真壁が通知を裏返した。
何もない。
「何を?」
父が言う。
「待て」
数秒。
十秒。
何も起きない。
私は父を見る。
「何も――」
赤い文字が、
じわりと浮かんだ。
三人目へ。
全員が黙る。
続いて、
あなたは一人を選択できます。
その下。
選択した場合、あなたの死亡は取り消されます。
私は息を呑んだ。
まただ。
自分が助かるために、
別の誰かを選ばせる。
父は通知を見つめる。
「十五年前と同じだ」
「誰を選ぶの」
私は訊いた。
父は即答した。
「選ばない」
「でも死ぬかもしれない」
「だから何だ」
「父さん!」
「俺が選んだら、誰かが代わりに死ぬ」
父の声は静かだった。
「それを十五年前にやった」
私は動きを止めた。
「父さんも……誰かを選んだの?」
「選んだ」
「誰を?」
父が私を見る。
「奈緒だ」
部屋の空気が変わった。
「父さんが、奈緒さんを?」
「そうだ」
父の恋人だった女性。
その人を、
父自身が選んだ。
「どうして……」
「澪を守るためだ」
また。
「私?」
「お前の名前が出た」
父が言う。
「千佳の次に、俺にも通知が来た」
「十五年前?」
「ああ」
「父さんも選ばなければ私が死ぬって?」
「そう書いてあった」
「だから奈緒さんを選んだ?」
父は頷いた。
頭がおかしくなりそうだった。
奈緒を愛していたはずなのに。
その奈緒を選んだ。
「どうして奈緒さんだったの」
「奈緒なら死なないと思った」
「何それ」
「俺たちはルールを試してた」
「人の命で?」
「そうだ」
父は逃げなかった。
「最低だった」
私は何も言えなくなった。
父自身が認めた。
「でも奈緒は死んだ」
「通知のすぐあと?」
「違う」
「じゃあ」
「七日後だ」
前に父が話していた。
奈緒は病院に隠されたあと、
七日目に消え、
川で死んだ。
「だから分からなくなった」
父が言う。
「通知が殺したのか、誰かが殺したのか」
真壁が訊く。
「十五年前のあなたの通知は残っていますか」
「ない」
「処分した?」
「千佳が燃やした」
「なぜ」
「選択を書き換えようとしたから」
私は父を見る。
「書き換え?」
「あの紙は、ただ名前を書くためのものじゃなかった」
「どういうこと」
父は現在の三枚目を指す。
「条件が増える」
まるで聞いていたように、
さらに赤い文字が浮かんだ。
選択期限 九月四日午前零時。
あと二十時間ほど。
さらに。
選択候補者は、以下の七名。
一。
高瀬隆志。
死亡。
二。
榊原美佐子。
生存。
三。
水城雅彦。
本人。
四。
柿崎修一。
生存。
五。
佐伯孝之。
生存。
六。
久我健司。
死亡。
そして、
七。
私は名前を見た瞬間、
声が出なくなった。
水城澪。
「私……?」
七人。
母が残した紙には、
私は、この七人に殺されました。
そう書かれていた。
でも私は、
母を殺していない。
母が死んだとき、
何もしていない。
電話に出なかっただけだ。
「どうして私が七人に入ってるの」
父が顔を伏せた。
「やっぱり」
「何が」
「千佳は、お前を外せなかった」
「意味が分からない!」
父はしばらく黙っていた。
そして私を見る。
「澪」
「何」
「千佳を殺した七人っていうのはな」
言葉を切った。
「千佳を直接殺した人間じゃない」
「じゃあ何」
「千佳が死ぬことを選んだ原因になった七人だ」
私の名前がある。
「私も?」
「ああ」
胸の奥が痛んだ。
母から最後にかかってきた電話。
私は出なかった。
もし、
あの電話に出ていたら。
「母は自殺したの?」
父は首を振った。
「違う」
「なら何で」
父が答えようとしたとき、
通知の文字がまた変わった。
候補者七名のうち、
二人の名前に赤い線が引かれた。
高瀬隆志。
久我健司。
死亡した二人。
その下に、
新しい文章。
死亡者は選択できません。
残る五人。
榊原。
父。
柿崎。
佐伯。
私。
父が小さく呟いた。
「減らしてる」
「何を?」
「候補者を」
私は通知を見る。
「最後に一人残すため?」
父は答えなかった。
でも、
その顔が答えていた。
私は三枚目を見つめる。
あと二十時間で、
父は誰か一人を選べる。
選べば、
父は助かる。
選ばれた人がどうなるのかは、
書いていない。
「絶対に選ばないで」
私は言った。
「ああ」
父はすぐ答えた。
その瞬間だった。
玄関の外から、
コツン。
小さな音。
真壁が振り返る。
また封筒かと思った。
でも違った。
玄関ドアに、
何かが突き刺さっている。
包丁だった。
刃が、
ドアを貫いている。
全員が動きを止める。
三枚目に書かれた死因。
刺殺。
真壁が外へ飛び出す。
私も続こうとした。
父が腕を掴んだ。
「行くな!」
「犯人がいる!」
「違う」
父の顔が青ざめていた。
「何が?」
「これは警告だ」
「誰からの?」
父は包丁を見つめる。
「千佳を殺した人間からじゃない」
「じゃあ誰」
十二年ぶりに会った父は、
初めて本気で怯えていた。
「この死亡通知を始めた人間だ」
「誰なの」
父は私を見る。
そして、
静かに言った。
「澪」
「何?」
「俺が十二年前に家を出たのは――」
一度、目を閉じた。
「そいつから、お前を逃がすためだった」
コメント
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第21話、読み終わりました……重すぎてちょっと息が詰まったよ。 父さんが三人目だったんだね。しかも十五年前に澪ちゃんを守るために奈緒さんを選んでたって……その選択の重みが胸に刺さる。最後の「お前を逃がすためだった」って台詞、全部ひっくり返された気持ちになった。この物語、まだまだ終わらないね。続きが気になる……