コメント
42件
たった今、こちらのアプリ、インストールしました!やったー!続きが読めるー٩(❤ε♡❤ )۶ 傘☂
瑠璃マリ先生、優弥さんの登場もあって大いに盛り上がってるのはよくわかりますが、こちらの2話はコメ8件に対し、最新話は5倍の40件✨✨ 瑠璃マリ先生がおっしゃってた民族大移動でたくさんの方のコメが読めるのはとてもとても楽しくて、ワクワク持続中⤴️😉🎶です❣️❣️
礼儀に厳しい食堂の朝子さんにも気に入られてて、美奈子さんと共にエース的存在✨内面◎仕事◎べっぴんさんの杏樹チャン✨🍀✨アッチの相性も◎👍❤️🔥🤭そりゃ惚れちゃうよねー優弥さん(*´艸`*)💕💕💕
その日の午後、杏樹は嫌な緊張感に包まれたまま業務をこなした。
途中優弥は支店長と共に挨拶回りに出かけたのでホッとする。
(あー、しんど……まさかのあの人が上司だったなんて地獄だわ……)
杏樹は心の中で呟く。
その時隣の美奈子が言った。
「杏樹、お昼の時間だから先行ってきて」
「あ、はい。じゃあ後をよろしくお願いします」
ちょうど来店客が途切れたので杏樹は先に休憩を取らせてもらう事にした。
この支店の行員の昼食は2階にある小さな食堂で食べる。
食堂には専任の調理係が毎日来て行員達に食事を用意してくれる。もちろんメニューは皆同じものだ。
杏樹は食堂の入口で手を洗ってから調理係の豊田朝子(とよだあさこ)がいるカウンターへ行った。
朝子は60代のかなり一癖ある女性だ。
この食堂で働き始めて20年の朝子は今ではすっかり食堂の主だ。そんな朝子は礼儀にとても厳しい。
行員が挨拶もせずに無言でトレーを持って行こうものならすぐに大声で怒られる。
例えそれが支店長だったとしてもだ。
朝子に気に入られないと食堂での居心地は最悪になる。
それだけはなんとしても避けたい行員達はたとえ仕事でイライラする事があっても食堂では常に笑顔でいた。
杏樹は元々礼儀正しかったので新人の頃から朝子に可愛がられている。
そして今では朝子とざっくばらんに会話を交わす間柄だ。
「朝子さんこんにちは、お願いしまーす」
「杏樹ちゃんお疲れ様、ちょっと待ってねー」
朝子はトレーに食事の準備を始めた。
今日は朝子特製カレーライスだ。カレーにはゆで卵がトッピングされている。
朝子のカレーは家庭的な味で行員達の間では大人気のメニューだ。
準備が出来ると朝子はトレーを杏樹に渡した。
「やった! 今日はカレーだ」
「杏樹ちゃんはカレー好きだもんねー。福神漬けはそこにあるからね」
「ありがとうございます」
杏樹はトレーを受け取ると福神漬けをカレーに添えてからグラスに水を入れる。
そしてテーブル席へ向かった。
少し早い時間だったので食堂にはまだ数人の行員しかいない。
その時杏樹を呼ぶ声が聞こえた。
「杏樹ちゃんこっちこっち」
杏樹を呼んだのは後方事務をしている一年先輩の小林涼子(こばやしりょうこ)だった。
涼子がいる窓際の席に杏樹が行くとすぐに涼子が言った。
「ねえねえ今度の副支店長ってさ、超イケメンじゃない?」
興奮した様子の涼子に向かい杏樹はそっけなく答える。
「そうですか?」
「なにー? そのどうでもいいような反応は。もしかしてタイプじゃない?」
「はい、特には」
「えーっ、珍しい、そんな反応杏樹くらいよ。他の女子行員はみーんな新しい副支店長にのぼせ上がっているのに…」
「そうなんですか?」
「当然じゃない! ハイスぺのエリート男子だよぉ。興味ないのは杏樹くらいだよー」
涼子の言葉を聞いて杏樹はカレーをもぐもぐしながら言った。
「確かにイケメンですけど副支店長ですからねー」
「あらー役職なんて関係ないわ、若くて独身なんだもの。前田副支店長よりも10歳も若いのよ! それなのにもう副支店長なのよ! スーパーエリートだわ」
「まあ確かに……」
杏樹は適当に話を合わせる。
「杏樹は全く興味なしかー。だったらライバルが一人減ったわ」
「もしかして狙ってるんですか? 副支店長を?」
「そりゃあそうよ、しがない支店勤務はこういうチャンスを大いに活用しないと一生エリートには出会えないもの」
「ハァ……」
「あ、ちなみに私以外の独身女子行員は全員狙ってるからね。あ、美奈子は婚約中だから違うけどー」
「皆さん逞しい……」
「当たり前よ。一昔前は窓口に来る男性客と恋に堕ちて結婚する先輩方もいたけどさ、ここ最近は来る客と言えばおじーちゃんかおばーちゃんばっかりで出会いなんてないんだもの。だったら社内恋愛を目指すしかないじゃない」
涼子が嘆くように言うのを聞いて杏樹はハッとする。
「あれ? でも涼子先輩って彼氏いましたよね?」
「フフッ、あれは予備ね、あっ、保険とも言うか」
「…………」
思わず杏樹は絶句する。
「まーでも杏樹ちゃんがレースから降りてくれたのなら残りのライバルは融資の絵里と庶務の沙織ってとこかな?」
「沙織さんも彼氏いましたよね?」
「沙織の彼氏も保険に決まってるじゃない」
「み、皆さん、凄いですね……」
「フフッ、本気で素敵な人を掴まえようって思ったら頑張らないとね」
「先輩方のパワー、マジで尊敬します」
「まあ見ててよ!」
涼子はニヤリと笑うとトレーを持って席を立った。
「じゃあ先に行くねー」
「はーい」
パワフルな涼子の後ろ姿を見つめながら杏樹が深いため息をつくと隣のテーブルにいた木村(きむら)が声をかけてきた。
木村はもうすぐ定年の課長代理で杏樹達窓口係が頼りにしている父親的な存在だ。
「ため息なんてついてどうしたのー?」
「いえ、先輩は元気だなーって」
「ハハッ、小林さんはパワフルだからな」
「パワフル過ぎて羨ましいです。あの元気を少し分けて欲しいくらいです」
「桐谷さんまであんなになっちゃったら1階はうるさくてたまらないよー」
「フフッ、今の言葉をもし涼子さんに聞かれたら木村さん酷い目にあいますよ」
「だって本当の事だろう? 彼女達の煩さにはやられっぱなしなんだからなー」
木村の言葉に杏樹は思わずクスクスと笑った。
その後杏樹は木村と世間話をしながら昼食を食べ終えると階段を下りて1階へ向かう。
とりあえず今日は食堂で正輝と優弥に会わなかったのでホッとしていた。
(でもいつか一緒になるんだろうなー、嫌だなー)
そんな風に思いながら化粧室で歯磨きと化粧直しを終えると窓口へ戻った。
そして午後3時を過ぎた閉店後、その日の勘定は一度でピタリと合った。
後片付けをしていると北門課長が女性行員達に声をかける。
「今日は毎月恒例札勘と電卓のテストをやるぞー」
「「「ええーっ、今日ー?」」」
女性行員達はげんなりした様子で呟く。
この銀行の支店では毎月一回札を数える札勘テストと100枚の模擬伝票を時間内に計算する電卓のテストがあった。
新人もベテランも必ず受けなければならないテストだ。
「お金は機械が数える時代なのにまだやらないといけないのですかー?」
融資課の水田沙織(みずたさおり)が不満気に言う。
「もし停電で機械が止まったらどうする? もし出先で急に金を数える事になったらどうする? だから銀行員はどんな時も常に素早くお金を数える技術を磨いておかないといけないんだ! さ、誰からやる? 早くやれば早く帰れるぞー」
そこで少しでも早く帰りたい沙織と涼子が最初にチャレンジをした。
涼子は札勘も電卓もぴたりと一度で合ったが沙織は電卓のテストの合計が合わなかった為やり直しとなる。
沙織がやり直す時に庶務の絵里と新人テラーの真帆も一緒にチャレンジをした。
庶務の絵里は一度でぴたりと合ったが真帆は電卓の計算が一度では合わずに三度目で漸く合う。
「8ケタの足し算なんて桁多すぎ―」
真帆は椅子から立ち上がると不満気に呟く。
「ハハッ、真帆はまだ修行が足りないなぁ。じゃああとは美奈子と杏樹か?」
「「はーい」」
二人は席に着くと課長の号令と共に目の前に置かれた札束を手に取って数え始める。
その時店舗フロアのドアが開き支店長の葛西と優弥が外回りから戻って来た。
葛西は札を扇のように広げている二人を見て冷やかすように言った。
「うちの店の窓口エース二人組なら一度でピシャッと合わないとなぁ」
からかうような口調に美奈子がムッとして言い返した。
「支店長ー、数えている途中で話しかけないで下さいよー」
すると葛西はハハッと笑いながら言った。
「ごめんごめん、もう黙りまーすっ」
葛西は笑顔のまま優弥を連れて奥の融資課長の元へ向かった。
移動する際優弥は札勘に集中する杏樹をチラリと盗み見る。しかし杏樹は集中していたのでその視線には全く気付いていなかった。
二人とも札勘テストは一度でぴたりと合った。
そして電卓テストも一発で合格する。
「さすがエースの二人組だな」
課長に褒められた二人は顔を見合わせてニッコリと微笑む。
「じゃあさっさと片付けて帰ろう!」
美奈子の掛け声に頷くと、杏樹は窓口周りの片付けをした後美奈子と共にロッカールームへ向かった。
そんな二人の後ろ姿を再び優弥が見つめていた。