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#勧善懲悪
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翌日、マイナは市の古い資料室へ潜っていた。窓の小さい部屋に紙の匂いがこもり、午後の光が棚のほこりを細く浮かび上がらせている。
「まだ出ないの」
昼過ぎ、差し入れを持ってきたサペが聞くと、マイナは目を上げずに答えた。
「出てる。たぶん、もう」
彼女の机の上には、年代の違う帳簿が何冊も開かれていた。どれも名刺の発行記録らしい。紹介先、相談内容、受取人、回収印。
「最初の数年は、ちゃんとしてる」
マイナはページを指さす。
「雨漏りは大工へ。機械の故障は修理屋へ。借金の相談は法律事務所へ。悩みを受けたら、解決できる場所へつなぐだけ」
「普通だな」
「普通って大事」
次の帳簿をめくる。
ある年を境に、書き方が変わっていた。
相談内容の欄が細かくなり、家族関係、片思い、店の資金繰り、相続、病歴めいた言葉まで混ざる。紹介先も曖昧になり、記号と番号ばかり増えていく。
「ここからだ」
マイナの指が止まる。
帳簿の下に、小さな押印。
CHOM。
サペは眉を寄せた。
「チョム」
「たぶん、管理担当として入り込んだ時期」
マイナは淡々と続ける。
「しかも、相談内容の横に、見込みって欄がある」
「見込み?」
「成約率。移転同意率。契約変更率。……人の悩みを、売れる弱みに翻訳してる」
静かな口調なのに、そこだけはほんの少しだけ怒っていた。
サペは椅子へ座った。腹の底が冷える。祖父たちが誰かを助けるために作った仕組みが、いつの間にか人を値踏みする道具になっている。
「この年、何があった」
「まだ断定できない。でも」
マイナは別のファイルを引き寄せた。
「ちょうどこの前後で、眩しい箱が透羽市に入ってる。昔の演目名を使い始めた時期とも重なる」
ズジが後ろからのぞきこんで、低くうなった。
「きれいに奪ったな」
「きれいじゃない」
マイナが即座に返す。
「雑。だから痕が残ってる」
その言い方に、サペは少しだけ息をついた。
まだ遅くないのかもしれない。
雑に壊されたものなら、直し方も見つかる。
マイナは帳簿を閉じながら言った。
「次は箱庭座。紙だけじゃ足りない。現場の出入りを押さえたい」
リボルの顔が、全員の頭に浮かぶ。
監視記録と動線。
目で残る証拠の出番だった。