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#勧善懲悪
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箱庭座の裏口には、もう長いこと客の行列などできていない。それでも建物そのものは、今も舞台の顔をしていた。夕方の空を背負った古い看板、重い扉、裏へ回れば搬入口へ続く細い道。
リボルはその道を見上げ、腕を組んだ。
「人が減った場所ほど、記録がものを言う」
元警備会社勤務の言葉は、いつも少しだけ硬い。だが頼りになる硬さだった。
彼は以前のつてを使い、閉館前の防犯設備の保守記録を調べていた。完全な映像は残っていないが、出入りの時刻と、搬入口の開閉記録は残っている。
「これを見ろ」
リボルが印刷した一覧を机へ広げる。
深夜一時四十三分。
深夜二時十一分。
深夜零時五十八分。
「営業してない時間ばっかり」
ピットマンが言う。
「だから怪しい」
さらにリボルは、日時の横に手書きで追記した車両番号を示した。
「搬入車の一部は、テオハリが使ってる営業車と一致」
ズジが口笛を吹きかけてやめる。
「笑う営業、夜中は荷物運びか」
「何を運んだかまでは映ってない」
リボルは言う。
「だが、搬入口近くの清掃記録に、黒い紙片の回収報告がある」
サペの胸がざわついた。
「名刺」
「おそらくな」
ルドヴィナが持ってきた鍵で、彼らは箱庭座の使用停止中の通路へ入った。舞台袖はひんやりしていて、ほこりの匂いと古い木の匂いが混ざっている。
搬入口脇の倉庫には、いくつもの段ボール箱が積まれていた。表には催事備品と書かれている。だが一つ開けると、中から出てきたのは黒い名刺の束だった。
「当たり」
エリアが吐き捨てる。
別の箱には、相談会で使うらしいアンケート、演出用の黒い幕、香り付きの煙玉、そして悪魔の横顔が刷られた小道具まで入っていた。
「舞台だ」
ズジがつぶやく。
「人をだますための」
サペは箱の底に、赤い粉がわずかに落ちているのを見つけた。
指先でこすると、金属ではなく石の粉みたいだった。
レッドタイガーアイを削った時に出る色に、少しだけ似ている。
その時、通路の奥で何かが鳴った。
全員が息を止める。
リボルが手で制し、静かに進む。けれどいたのは人ではなく、古い舞台装置の一部が傾いて軋んだだけだった。
「驚かせるな……」
ピットマンが小声で言う。
しかしサペは、その装置を見て足を止めた。
人形劇の背景を吊るすための枠だ。錆びた金具に、見覚えのある印がある。
祖父の工房の刻印だった。
眩しい箱は、ただ名前だけを奪ったんじゃない。
舞台の骨まで、使い潰そうとしている。
その事実に、サペの目の奥がじりっと熱くなった。