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拓君、真子ちゃんの質問に正直に答えたのは偉い👏 あの時の挫折感も理不尽な行いも真子ちゃんとの関係が切れたからなのもちゃんと言えてよかった❣️それぞれ思う事があってももう過去の事。 過去の経験をこの先どう活かしていくかだしね‼️ これから8年の時を超えて2人が熱くなる〜👩❤️💋👩🛏️
真子の部屋へ入り電気をつけると、一瞬にして真子の暮らしぶりが見えてきた。
古いアパートだったが中はセンス良くまとめられている。
そして女性の部屋らしくきちんと片付いていた。
部屋は少し広めのワンルームで奥にはベッドと二人掛けのソファ、そしてデスクとチェストが一つ。
キッチン寄りには二人掛けの小さなダイニングテーブルが置かれていた。
どれもナチュラル系のライトブランの家具で統一されている。
真子が好みそうな色合いだ。
「狭いけどどうぞ」
真子はスリッパを出した。
「お邪魔します」
拓はスリッパをはいて部屋に入った。
真子がコーヒー用のお湯を沸かしている間、拓はチェストの上にある雑貨を一つずつ見ている。
そこでふと拓の手が止まった。
「この貝……あの時の?」
「そうだよ。拓がくれたテングニシ貝」
「懐かしいなー。大事に持っていてくれたんだね」
拓はそう言ってあの時のように耳に当てている。
耳にはあの頃と同じ音が聞こえてきた。
拓は一通り真子の暮らしぶりを見た後、ダイニングテーブルの椅子へ座った。
そして真子が淹れたコーヒーを一口飲む。
その時真子は不思議な気持ちでいっぱいだった。
父親以外の男性は入った事がない部屋に拓がいる。
今まで一人静かに過ごしてきた自分だけの城が、急に違う部屋になったような気がする。
その時拓が真子に聞いた。
「この部屋に入った男って他にいる?」
拓が真子と同じ事を考えていたのを知り、思わず真子は微笑む。
そしてすぐに答えた。
「うん、いるよ」
拓はあからさまにがっかりした様子だ。
「いるのかーっ、ちくしょう」
「うん、うちのお父さん」
そこで拓はすぐに真子を見た。
「ハッ? お父さん? なんだよ脅かすなよ」
拓は文句を言いながらみるみる嬉しそうな顔になる。
そこで今度は真子が質問をした。
「拓は? 私がいなくなった後彼女いたんでしょう? 大学時代とか…拓は昔からモテたから絶対にいたはず」
真子があまりにもストレートに聞いてきたので拓は一瞬焦る。
しかしすぐに答えた。
「大学時代は常にいたけど、真面目に付き合った人は一人もいなかったよ」
「え? 何それ? どういう事? 彼女はいたけど不真面目に付き合ってたって事? はぁっ? 拓って最低!」
「うん、自分でも最低な奴だと思ってるよ。あの頃の俺はどうかしてたんだ」
「どうかしてたって?」
「真子がいきなりいなくなったから自暴自棄になってた」
「あー、私のせいにしてる、ズルい。そんなの駄目だよ、あくまでも自分の問題でしょう? 女性に対して失礼じゃん」
「うん、だからそれ以降は改心したよ。涼平さんのお陰なんだけどね」
「涼平さん? どうして?」
「俺がやけになっているのを見て叱ってくれたんだ。ちゃんと真面目に生きろってね」
そこで真子は黙り込む。
自分が急に姿を消した事で拓を自暴自棄にさせてしまったのだとその時初めて知った。
大人になってから当時を振り返ると、あの時ちゃんと拓に話をしてから北海道へ来るべきではなかったのか?
実はそう反省する事も多かった。
しかし済んでしまった事はもうどうにもならない。
これからは今後どう生きるかだ。
「拓、ごめんね…私のせいで……」
「もう済んだ事だ。それに真子の言う通り人のせいにしてはいけないよな。あくまでも自分自身の問題だったんだ。あの頃の俺はまだ弱かったのかもしれない」
拓はしみじみ言うと、もう一口コーヒーを飲んだ。
そして真子の目を見つめて言った。
「だから真子に再会してからはもう後悔しないように生きるって決めたんだ。だから正直に言わせてもらうね。今日は真子の家に泊まりたい。そして真子を抱きたいと思ってる」
なんとなく予感はしていたが、あまりにもストレートに言われたので真子はなんと返していいかわからなかった。
すぐに返事をしない真子に向かって拓はもう一度言う。
「駄目かな?」
実は真子はずっと思っていた。
自分の身体には拓以外の人には触れて欲しくないと。
だから二度と拓には会えないと思っていた真子は、きっとこの先自分は一生誰にも触れられずに年を取っていくのだろうと覚悟していた。
そんな時、この町で拓に再会した。
その時真子はもう覚悟を決めていた。そして少し上ずった声で言う。
「いいよ。でもね、胸に大きな手術の痕があるからびっくりしないでね」
拒否されるのではないかと思っていた拓は、意外な言葉が返って来たので穏やかに微笑む。
「命に関わるような大きな手術をしたんだから傷の痕があるのは当然だろう? それにその傷のおかげで真子は元気になれたんだ。だからその傷は真子の勲章みたいなもんだろう?」
「拓……」
拓は真子を椅子から立ち上がらせるとすぐに強く抱き締めた。
それから真子の唇を塞ぐ。
狭い室内にリップ音だけが響き渡る。
しばらく濃厚なキスを続けていると、身体が熱くなり互いの呼吸が乱れてくる。
拓は一度唇を離してから真子の腰を引き寄せると、そのまま真子をベッドへ連れて行った。