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人間関係が良好で働きやすい環境だなんてサイコー🥰 さおりさん、恵子さんと仲良くできそうで嬉しいね🧡 省吾さんの仕事ぶりや接し方楽しみ😘
さおりさんも恵子さんも苦労をした人だから周りに優しく出来るんだね😊 奈緒ちゃんも少しずつ馴染んでいけるといいね。
2話更新嬉しい♡そうそう、人間関係、仕事は楽しくがモットー!ホワイト企業最高!
秘書室のデスクへ戻るとさおりが言った。
「じゃあ今日はこの会社の秘書の仕事がどんな感じなのかをザッと見てもらおうかな? 私はCOO付きで恵子ちゃんはCFO付なんだけど、まあどちらの業務も似た感じなの。麻生さんはCEO付だから、もしかしたらちょっと違うパターンが入るかもしれないけど、基本的には私達と同じ感じだと思うので、とりあえず今日は私の作業を見ていて下さい」
「わかりました」
「朝はまずボスに今日の予定を伝えに行く事から始まります。毎朝出勤したら今日のスケジュールを二部印刷します。そしてその一枚をボスに持って行きます」
そこでさおりはパソコンに今日のスケジュールを表示させ、二部印刷する。
その時コーヒーの良い香りが漂ってきた。
「あ、そうそう、プリントと一緒にコーヒーも持って行きます。コーヒーは手の空いている人が入れる感じで、特に当番とかはないわ。あ、コーヒーメーカーの使い方は後で教えるわね」
「はい」
そこで恵子が役員二人分のコーヒーをトレーに載せてくれたので、さおりがそのトレーを持ってから言った。
「じゃあ今から行くわよ。ついて来て」
「はい」
「じゃあ恵子ちゃん、先に行くねー」
「あっ、私も今行きまーす」
恵子もトレーとプリントを手にして後に続いた。
恵子はCFOの部屋へ、そして奈緒と恵子はCOOの部屋をノックする。
すると中から、
「ハイ、どうぞー」
と声がした。面接の時にいた川田公平の声だ。
部屋に入ると、さおりがコーヒーをデスクの上に置きながら言った。
「おはようございます。本日の予定を持って参りました」
「ありがとう。お? 今日は麻生さんも一緒か!」
「はい。本日から秘書課に配属されました。これからどうぞよろしくお願いいたします」
奈緒が挨拶すると、公平はニコニコしながら言った。
「さおりさんはベテランで頼りになるから何も心配する事はないですよ。まあ焦らずゆっくり仕事を覚えていって下さい」
「はい、ありがとうございます」
そこでさおりが公平に聞いた。
「深山さんの戻りは明日の何時頃ですか?」
「多分夜になるんじゃないかなぁ? まあせっかくですから明後日まで鬼の居ぬ間にせいぜい羽を伸ばして、新人さんとの親交でも深めて下さい」
「フフッ、じゃあしっかり親交を深めさせていただきまーす♪」
「そうそう、仕事は楽しくねー! 麻生さん頑張ってねー」
そして二人は部屋を出る。
ドアを閉めてすぐさおりが奈緒に言った。
「どうって事ないでしょう?」
「あ、はい。結構気さくな雰囲気なのでびっくりしました」
「そこがうちのいいところなの。役員はみんな若いし、怒ったり威張る人もいないからねー」
「そうなんですね」
奈緒は密かな感動を覚える。
こんなホワイトな会社が存在している事に驚いていた。
秘書室に戻ると、さおりは奈緒の机の上のパソコンを立ち上げる。
「この画面で、まずはパスワードを設定してもらってもいい?」
そう言って、さおりは奈緒のパスワードを見ないように後ろを向く。
奈緒はすぐにパスワードを設定した。
「このパスワードは一ヶ月ごとに自分で変更するの。うちはIT系なのでこういったセキュリティ関係はかなりうるさいの。だからちょっと面倒だけど一ヶ月に一回変更をお願いしますね。あ、ちなみにパスワードを変える時期が来たらちゃんと通知が来るから忘れてても大丈夫よ」
「わかりました」
その時、恵子が戻って来た。
「あーーーっ、また今日も君島さんのゴルフ自慢に捕まっちゃったわー! 朝から勘弁してよ~」
恵子は不満気に椅子に座る。
「ボスの自慢話を聞くのも秘書の仕事の一つよ~なんて昭和な事は私は言わないわ。災難だったね、お疲れ~」
さおりはキッチンへ行くとコーヒーの残りを三つのマグカップに入れる。そして奈緒と恵子に持って来てくれた。
そこで奈緒はハッとする。
「すみませんっ、新人の私が入れなきゃいけないのに……」
「いいのいいの、気にしないで! ここでは飲みたくなった人が入れるルールだから」
「そうよ麻生さん、ここでは気を遣わなくて大丈夫だからねー」
「そうだ、麻生さん……あ、麻生さんっていうのもなんだかよそよそしいわね……奈緒ちゃん! そうよ、奈緒ちゃんでいっか? いいよね? 恵子ちゃん!」
「オッケーでーす」
恵子が大きく頷く。
「私達の事も『さおり』と『恵子』って呼んでちょうだい」
「あ、はい……」
奈緒は仲間に入れてもらえたようで嬉しくなる。
「で、奈緒ちゃん。それを飲んだらキッチンの説明をするわね」
その後さおりはコーヒーメーカーの使い方や備品の置き場所、そして来客へお茶を出す際の注意点を丁寧に教えてくれた。
キッチンの説明が終わると、今度は電話の外線内線の使い方、郵便物に関する備品の場所や、発送する際の一次保管場所についても教えてくれる。
事務用品が置いてある備品庫は違う階にあったので、さおりは奈緒をそこへ案内してくれた。
そのついでに社内見学と称して各フロアを回り、ざっと各部署の説明もしてくれる。
その後秘書室へ戻った奈緒は、簡単なデータ入力を頼まれたので早速仕事を始めた。
仕事をしながらさおりが言った。
「うちの役員達は基本取引先とは携帯で話す事が多いから電話の取次ぎはほとんどないんだけど、たまに会社にかけてくる人もいるのよ。で、そういう時にボスが外出していたら、ここにある専用メモに詳細を記入してボスのパソコンの目につくところにペタッと貼るようにしてね」
「承知しました」
「深山さんはテレビ局や出版社からの取材依頼が結構多いから、そういう電話は多いかもしれないわ」
「わかりました」
「あとね、他の部署の人に用がある時はここをクリックして!」
奈緒は言われた通りパソコンの右上にある人間マークのアイコンをクリックする。するといきなり会社の部署名がずらりと表示された。
「用事がある部署をクリックすると、今日出社している人の名前が全部出るの。で、メッセージを送りたい時は相手の名前をクリックすると簡単に送れるのよ。じゃあ練習で実際にやってみようか? 秘書室を出して恵子ちゃんの名前をクリックしてみて」
奈緒は言われた通りにしてみる。するとすぐに吹き出しが現れた。
「そこに文字を入れるとメッセージが届いて、リアルタイムのチャットみたいにやり取りが出来るの。これなら他の階に用があってもわざわざ電話したり行かなくても済むの」
「うわぁ、すごく便利ですね。前の会社ではこんな便利な機能ありませんでした」
「フフッ、まあうちにはそういうのを簡単に作れる人間がいっぱいいるからね」
その後奈緒は昼休みまで入力作業を続ける。
途中さおりと恵子が代わる代わる外したり、役員達の出入りが時々あったが、基本三人で秘書室にいる事が多かった。
その間、奈緒は外線電話を何回か受け、電話の使い方にもだいぶ慣れてきた。
そうこうしているうちに、あっという間に昼休みになる。
「そろそろ休憩にしよっか?」
「はーい」
「はい」
「奈緒ちゃんはお昼持ってきた?」
「持ってきました」
「恵子りんも持ってきちゃったよね?」
「はい! 今日はコンビニ弁当です!」
「私も今日は持ってきちゃったから、そうだなぁ……明後日の昼休み三人で外へランチに行かない? 明日は川田COOにお昼頃来客があるから私出られないんだよね。だから明後日奈緒ちゃんの歓迎会って事で!」
「いいですねぇ~、じゃあいつのものあそこへ行っちゃいます?」
「パスタでしょう? 奈緒ちゃんパスタでもいい?」
「はい」
「よーし、じゃあ予約入れとくね」
さおりは携帯を取り出して文字を打ち込み始める。
「ランチでも予約出来るのですか?」
「普通は出来ないんだけど、さおりさんはその店に顔が利くから」
「へぇ……すごいですね」
そして昼休み、三人は丸テーブルで昼食をとった。食べながら女三人でのお喋りに花が咲く。
その会話の中で、奈緒は二人の事を知る事が出来た。
秘書室長のさおりは、大学生の息子がいるシングルマザーだった。夫とは30代で離婚。それから女手ひとつで息子を育てている。さおりは長い間大手ゼネコンで役員の秘書をしていたが、7年前にこの会社に転職した。
一方、恵子も数年前にこの会社に来た転職組だ。恵子は前の会社で一人の女性社員から陰湿ないじめを受けるようになりこの会社へ移ってきた。
そこで恵子がしみじみと言う。
「この会社は天国よ! いじめみたいな低俗な事をする人間は一人もいないし、むしろそんなのは時間の無駄だって思う人がほとんどだから。それにこの秘書室は最高よ。なんたって上司がさおりさんなんだから……ね?」
恵子はさおりにウインクをする。
するとさおりが微笑んで言う。
「まあ私も転職組だからあまり偉そうな事は言えないけど、どうせ仕事をするんなら楽しくしなくっちゃね! だから奈緒ちゃんもリラックスして仕事を楽しみましょう」
「はい、ありがとうございます」
奈緒は二人の話を聞き、皆それぞれ色々なものを抱えているのだなと思った。
(私だけじゃないんだわ……みんな色々な事を乗り越えてきてるのね……)
奈緒は二人先輩の話を聞いて、勇気づけられたような気がした。
午後になるとCOOの公平に来客があったので、奈緒は初めてお茶出しをした。
少し緊張したが、以前の職場でも何度も経験していたので難なくクリアする。
「なんの問題もないわね。合格!」
「ありがとうございます」
(こんなに働きやすい職場でいいの? なんだか信じられないわ)
奈緒の勤務初日は、良い意味で驚きの連続だった。
その日定時で仕事を終えた奈緒は、軽やかな足取りで会社を後にした。