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3人の会話は絶妙ですね。さぁ、いよいよ省吾さんとお仕事ですね。
秘書課の仲良し3人の会話が良いなぁ 何があってもこのチームワークで乗り越えていけそうですね 奈緒ちゃん お姉様2人の応援受けて省吾さんの秘書頑張ってね😉
「清楚」⇒厚塗り【結果:1アウト】 「控えめ」⇒秘書三級でドヤ顔【結果:2アウト】 「芯が強い」⇒我が強すぎて【結果:3アウト】 結果を不服とし詰めよるも、嘘吐きまくりで退場。 とりあえず、たとえ雑用でもこつこつやってみ。やれるもんならな。やれへんやろな。もうすぐ戦力外通告やな。
奈緒は二日目の勤務も特に問題なく無事に終えた。
そしていよいよ三日目の朝を迎える。
ボスの深山省吾は昨日の夜東京へ戻り、今日から出社する予定だ。
奈緒が省吾に会うのは、採用面接の時以来だ。
実は奈緒は昨日、さおりと恵子から省吾に関する色々な情報を手に入れていた。
省吾はいつも多忙で過密スケジュールだという事。いつもアクティブに動き回るので捕まらない時が多々ある事。
そして一旦仕事に集中すると食事をとる事も忘れるらしい。
だから二人は口を揃えて言う。健康面が心配だと。
***
「あれが続いたら絶対早死にするわよ」
「ほんとほんと、突然死も有り得そう」
おまけに省吾はたびたび役員室へ泊まるようだ。省吾曰く家に帰る時間がもったいないらしい。
そして省吾が会社に泊まった翌朝は、必ず寝癖がついている。
その寝癖にはくれぐれも気を付けてねと、奈緒は二人からアドバイスされた。
「深山さんはここ最近急に知名度が上がっちゃったから、取材依頼が来たりイベントに呼ばれる事も多いのよ。で、昔寝癖がついたままトークイベントに行っちゃった事があってね、テレビカメラが入ったイベントだったからもう大変!」
その時の事を思い出し、さおりと恵子が声を出して笑う。
二人の話によると、イベント後のSNSではたちまち省吾がトレンド入りしてしまった。
その時の内容はこんなものだった。
『IT業界のイケメン王子・深山省吾! 恋人の家に外泊後、そのままイベントへ出席か?』
「笑っちゃうよねー、会社のソファーで寝てついた寝癖なのにさぁ、いちいち大袈裟なんだよね」
「ホントですよねー、もし彼女に家に泊まってたら普通ドライヤーくらいあるでしょう?」
思わず奈緒も笑ってしまう。
「そういう訳だから奈緒ちゃん! くれぐれも深山さんの身だしなみは要チェックで!」
「わかりました」
「あー、でも奈緒ちゃんが来てくれて良かったー! やーっと深山さんのお守りから解放されるわー」
「ほんとですよね。やっぱり専属の人がいてくれると安心します」
二人は奈緒が来てくれた事を心から喜んでいる様子だ。
そこで恵子がさおりに言った。
「あっ、さおりさんっ! あの件も奈緒ちゃんの耳に入れておいた方がいいんじゃないですか?」
「あれって? ああ、あれね」
「何ですか?」
奈緒が不思議そうな顔で聞くとさおりが言った。
「ごくごくたま~になんだけどね……女性トラブルもあったりするのよ」
「えっ?」
「あれだけイケメンで有能でしょう? おまけに独身! だから結構色々あるのよ…」
「はぁ……その色々とは?」
「うん……あれはたしか深山さんがAIに参入したばかりの頃だったかなぁ? 深山さんが仕事に没頭し過ぎて、当時付き合っていた恋人をずーっと放置しちゃったみたいなんだよね。で、怒った恋人が会社に乗り込んで来たってわけ!」
「うわっ、会社に?」
「そう。あの時は修羅場だったよねぇ~」
「そうそう。凄く綺麗な人でたしか当時雑誌に出まくってた人気モデルだったかな? でもあんな事があって懲りたのか、その後浮いた話は一切聞かなくなっちゃいましたね」
「もう女は懲り懲りって思ったんじゃない?」
「でもまだアイツがいるわ」
「アイツ? ああ、あれはダメダメ、深山さん、けむたがってるもん」
「アイツって?」
「人事部の……あ、じゃなかった、今は総務に異動になった名取美沙の事よ。彼女はうちの主要取引先の会長のお孫さんなんだけど、三年前に入社してからずっと深山さんを狙っているの」
「名取……あ、もしかしたら採用面接の時にいた人ですか? すごくお綺麗な方?」
「多分そうよ。あの頃はまだ人事部にいたから」
「でもその名取さんがどうしたんですか?」
「狙ってるのよ」
「狙う? 狙うって何を?」
「もちろん深山さんの妻の座よ」
「…………」
奈緒が呆れた顔で絶句していると、さおりが声を出して笑う。
「奈緒ちゃんったら素直過ぎ~! 顔に気持ちがまんま出ちゃってる~ああ、可笑しい……でも本当の事なの」
「そうそう奈緒ちゃん、あの女は女豹だからくれぐれも気を付けてね」
「女豹……」
奈緒はどう反応していいかわからずポカンとした顔をしていた。それを見たさおりがまた苦しそうに笑いながら涙を拭く。
「あーっ、奈緒ちゃんったら最高っ! まあね、うちにいる女子社員のほとんどは、うちの会社に憧れて来た子達ばかりだから優秀な人材が多いの。だから皆恋愛云々よりも自分の能力を最大限に生かしたいって思っている意識の高い子達ばかりなのよ。だからCEOを狙おうなんて誰も思ってない。でもね、美沙だけは違うの。最初からCEO狙いで、入った時から深山さんの秘書を希望してるのよ」
「そうだったんですね。え? でもじゃあなぜ人事部から総務部に?」
「きっと何かやらかしたんじゃないかな? 詳しくは知らないけど」
「上層部はみんなその理由を知ってるよねー。アイツ何やらかしたんだろう?」
「うん、それに異動先は総務だけど、彼女が行ったのは総務の中でも雑用係みたいなところなの。コネ入社のお嬢さんをいきなり窓際族みたいなところへ追いやるうちの上層部も結構やるよねぇ~~~」
「うちのお偉いさん方はやる時はビシッとやりますからねぇ。まあそこがいいところなんだけどね」
奈緒は驚いていた。社員の中にCEOの妻の座を狙う人間がいるという事。そしてその人間をバッサリと切り捨てる人事。
(ほんと凄い……縁故入社の社員を左遷なんてして大丈夫なのかな?)
そこでまたさおりが口を開いた。
「美沙はコネ入社だけど、美人で色っぽいでしょう? だから社内では結構人気があるの。でも深山さんは全く見向きもしないから、ああいうタイプは好みじゃないのかなぁ?」
すると恵子が言った。
「私が前に小耳に挟んだ話では、深山さんのタイプは『見た目は清楚で控えめ、性格は芯が強くてしっかりした人』らしいですよ」
「へぇ~そうなんだぁ~、清楚っていうのは意外~~~」
「私もそう思いました。だっていつも噂になるのは華やかで派手な美人系ですよねぇ?」
「でもさぁ、今どき清楚で強い女なんているぅー?」
「いないかも~。男の理想って常に現実離れし過ぎなんですよ~」
そこで三人が声を出して笑った。
***
昨日の会話を思い出しながら奈緒はクスッと笑う。そして靴を履いてから玄関を出た。
(よーし、いよいよボスと対面ね。ちょっと緊張するけど頑張らなくちゃ!)
奈緒は青空の下背筋をピンと伸ばすと、元気な足取りで駅へ向かった。