テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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夜、しずくシェルターの外廊下には、乾ききらない木の匂いが残っていた。昼の作業の熱が抜けたあとだけ、建物は少しだけ本音を話すみたいに静かになる。
サベリオは手すりにもたれ、暗くなった庭を見ていた。橋のこと、帳簿のこと、寄付のこと。頭の中で考えごとがほどけず、呼吸まで浅くなっているのがわかる。
「いた」
背後からデシアの声がした。振り向くと、彼女は録音機を胸に抱えたまま立っている。
「探してた」
「何か用?」
「用がある顔してるの、そっち」
そう言って彼女は隣へ来た。少し間を空けて立つ距離が、妙にやさしい。
「あなた、最近ずっと誰かの葬式帰りみたいな顔をしてる」
その言い方に、サベリオは思わず息を詰めた。
冗談めかした口調なのに、言葉の芯が外れていない。胸の奥へまっすぐ入ってくる。
「そんな顔してた?」
「してる」
デシアは庭の暗がりを見たまま答える。
「何度も見送った人みたいな目、してる」
「……大げさだよ」
「大げさならよかった」
彼女はそう言ってから、ほんの少しだけ声を落とした。
「でも、見てるほうは苦しい」
その一言に、サベリオは返事を失った。自分の苦しさばかり気にしていたけれど、こんな顔で歩き回れば、周りの人まで不安にさせる。当たり前のことなのに、そこまで頭が回っていなかった。
「ねえ」
デシアが録音機を持ち直す。
「言えないことがあるのはわかる。でも、全部ひとりで抱えると、音まで硬くなるよ」
「音?」
「歩く音とか、ドアを閉める音とか。今日はずっと、そういう音」
また音だ。彼女は本当に、人の心の揺れまで耳で拾ってしまうらしい。
サベリオは薄く笑おうとして失敗した。
「そんなのまでわかるんだ」
「わかりたくない時もあるけど」
デシアは肩をすくめたあと、少し迷うようにサベリオを見た。
「前にも言った気がする。倒れる前に言って、って」
その瞬間、胸の奥が大きく鳴った。彼女ははっきり覚えていない。それでも、周回のどこかで交わした言葉の気配が残っている。
サベリオは手すりから背を離した。
「……またその顔って言われないようにする」
「難しそう」
「努力はする」
「じゃあ、少しだけ期待する」
デシアはそう言って、小さく笑った。夜の冷えた空気の中で、その笑みだけがやわらかく残る。
サベリオは胸の痛みを抱えたまま、それでも少しだけ前を向ける気がした。見抜かれているからこそ、まだ立っていられる夜もある。