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祭り当日、昼すぎまでは順調だった。
屋台の導線は前よりましで、橋の床板もきしみは減っている。ホレの指示は通り、トゥランの見回りも途切れない。サベリオは息を詰めたまま、そのひとつひとつを確かめて歩いた。
これまででいちばん整っている。
そう思ったのに、安心は最後まで来なかった。
夕方、橋の中央で鐘を吊るすための部材に微かなずれが見つかった。雨の前の湿気で、金具の片側が思ったより緩んでいたのだ。ヴィタノフが工具を持って寄り、コスタチンが脚立を支える。その下では、集まり始めた人たちが橋の上をゆっくり埋めていく。
「少し離れてください!」
トゥランが声を張る。けれど祭りの高揚の中で、人は危険より見晴らしの良さを選ぶ。
デシアは舞台の端で録音機を握っていた。ジャスパートが照明の位置を確かめ、ヌバーが人の波を外へ流そうと大きな身振りで笑いを取る。どれも前よりずっと良い。だからこそ、サベリオは嫌な胸騒ぎに逆らえなかった。
金具が鳴る。
短い、乾いた音だった。
サベリオは顔を上げた。吊り部材の片側がわずかに傾いている。ほんのわずかだ。だが、それがどれほど危ないか、今の自分は知りすぎていた。
「下がって!」
叫ぶと同時に、橋の上の数人が何事かと身を寄せた。その動きがかえって片側へ重みを集める。金具がもう一度きしみ、今度ははっきり外れた。
鐘そのものではない。支えていた太い横材が落ちる。
サベリオは反射で走り、下にいた子どもを突き飛ばすように外へ逃がした。視界の端でデシアがこちらを見ている。驚いた顔。息を呑む顔。
次の瞬間、鈍い衝撃が頭を打った。
世界が斜めになる。橋板の木目がやけに近い。遠くで誰かが泣き、誰かが名を呼ぶ。頬に触れるのが雨なのか血なのかも、もうわからない。
視界のにじみの向こうで、デシアが駆け寄ってきた。膝をつき、何かを叫んでいる。その唇だけが見える。
――また?
たしかにそう見えた。
サベリオの胸に、悲しみより先に諦めが落ちそうになる。けれどその直前、彼女の顔には怒りのようなものも混じっていた。置いていくな、と言っているみたいな、必死な目だった。
満月の鐘が鳴る。
低く、長く、夜の底を開く音。
その響きが頭の奥へ沈んでいくのを感じながら、サベリオは三度目の暗闇へ落ちた。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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