TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

修学旅行から戻って最初の月曜。教室のざわめきはいつもより騒がしかった。配られたお土産や班ごとの写真を見せ合い、笑い声が絶えない。遥は自席に座り、カバンを机に置いたまま、視線を泳がせていた。


「おーい、スター来たぞ」


誰かがわざと大声を出す。

振り返ると数人がスマホを掲げている。画面には――旅館の部屋でポーズを取らされている自分の姿。浴衣の裾を広げさせられ、ぎこちなく笑っている顔。


「これさ、修学旅行一番の傑作だよな」


「文化祭の展示に使えんじゃね?」


笑い声が爆発する。遥は反射的に顔を伏せた。机の木目に爪を立てる。反論すれば消されるどころか拡散される。「消してほしければ言うこときけ」という声が蘇る。


「なあ遥、次は学校でも案内してくれよ。オリエンテーリングの練習な」


誰かが地図を広げて机に叩きつけた。


「ほら、体育館まで最短ルート、今ここで説明しろ」


「間違えたら、罰ゲームな」


遥は唇を噛んだ。震える指で地図をなぞり、必死に説明を始める。声が裏返っても、止めるわけにはいかなかった。案の定、途中でつっこまれる。


「おいおい、そっち遠回りだろ」


「ほら罰ゲーム。はい立て、顔上げろ」


机がどんと揺れた。逃げ道はない。遥は立ち上がり、ぎこちなく笑みを作った。クラス全体が舞台の観客に変わる。スマホのレンズが向けられ、無数のシャッター音が飛ぶ。


「いいねー、スターの登場だ」


「次は体育祭で踊ってもらおうぜ」


体育の授業になると、噂はさらに広がった。

二人組を作る時間。誰も遥と組まない。わざと余らせる。


「ほら、センターに立たせろよ」


誰かが声を上げる。残った遥は、全員の視線を浴びながら真ん中に立たされた。


ボールを投げる練習でも、遥には飛んでこない。代わりに床を転がすように投げられ、取りに走らされる。


「拾ってろよ、スター」


そのたびに背中に嘲笑が突き刺さる。


放課後。昇降口で靴を履き替えようとすると、小さな紙切れが落ちてきた。拾い上げると、そこには手書きの一文。


『次は歌え。拒否したら画像、全員に送信』


遥は心臓を鷲掴みにされたように息をのんだ。

既に何人かが廊下の端でスマホを掲げて待っている。笑顔を作れと顎を押さえられた夜が頭をよぎる。


「なあ、やれよ。どうせ得意なんだろ?」


「スターの生歌聞かせろ」


喉が詰まり、声が出ない。だが写真を思い浮かべた瞬間、無理やり声を絞り出した。震える声。途中で音程が外れ、笑いが起こる。


「下手すぎ! 録音しとけよ」


「BGMに使えるわ」


笑い声にかき消され、遥の声は掠れて消えた。


帰り道、遥はイヤホンを耳に押し込んだ。だが音楽は届かない。頭の中では、笑い声とシャッター音が繰り返し響いていた。

歩く足は鉛のように重い。家に帰っても、また次の命令が待っている――そう思うだけで胸が潰れそうだった。



無名の灯 番外編2

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

39

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚