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翌日、中沢との事に区切りをつけた瑠璃子はだいぶすっきりしていた。

中沢との再会は辛かったがきちんと話をしてけじめをつける事が出来た。

漸くこれで前に進める……瑠璃子は今生まれ変わったような清々しい気持ちでいた。


しかしそれとは別に新たな問題も起こっていた。

それは『promessa』が大輔なのではという新たな疑惑だ。瑠璃子は昨夜からその事で頭がいっぱいだった。


大輔が『promessa』であるかどうかを確かめるには『promessa』のプロフィール画像にアップしている写真と大輔の医局のデスクが同じかどうかを確かめればいい。

あの写真に写っているパソコンと万年筆、それにカレンダーとラベンダーのガラス細工が大輔の机に上にあればビンゴだ。

しかしそれを調べるには一つ問題があった。


内科勤務の瑠璃子が外科の医局に行く事はまずない。

人がいない時にこっそり入って確認するという手もあるが、もし見つかったら不審者だと思われてしまうので出来ない。

すぐに確認出来る状況にあるのにそれが出来ないので瑠璃子はもどかしい気持ちでいっぱいになる。

そんな悶々とした気持ちを抱えたまま瑠璃子は仕事へ向かった。


4階の窓際でコーヒーを淹れていた大輔は、瑠璃子の車が職員駐車場に現れたのを見てホッとしていた。

昨日あんな事があったので今日はちゃんと出勤出来るのだろうかと大輔は心配していたが、大丈夫だったようだ。

あとは時間が解決してくれるだろう……大輔はそう思っていた。


着替えを終えた瑠璃子がナースステーションへ行くと先輩の木村が声をかけて来た。


「瑠璃ちゃん、師長がお呼びよ」

「師長が? なんだろう…」


瑠璃子は不思議に思いながら師長の部屋へ向かう。

師長室の前まで行くと扉をノックしてから中に入った。


「何かご用でしょうか?」

「朝からごめんなさいね。実は村瀬さんにお話があるのよ」


師長の斉藤は改めて話があるという。一体どんな話だろうか?


「実はね、11月末で外科の看護師が急に退職する事になっちゃってね、その補充を内科から出して欲しいって言われちゃったのよ」


その話を聞いて瑠璃子は驚く。


「でね、外科の長谷川ドクターから是非村瀬さんをってスカウトが来たのよ。ほら、あなたは外科も救命救急も経験があるし飛行機で人命救助もしたんですって? 長谷川さんがその話を聞いて是非にって」


そして斉藤は申し訳なさそうに続けた。


「内科に来てたった2ヶ月で異動なんて本当に申し訳ないんだけど、12月1日から外科へ異動をお願い出来ないかしら?」


病院側の事情を考えれば異動は仕方ないだろう。手術や重篤な患者の多い外科に人手が足りないと病院は立ち行かなくなる。

それに瑠璃子はこの病院で働き始めてまだ2ヶ月なので今移っても特に問題はないだろう。


「わかりました、お引き受けします。外科は多少ブランクはありますが東京では一番長くいた科なので精一杯務めさせていただきます」


瑠璃子の返事を聞き斉藤が嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう、助かるわ。よろしくね」



師長室を出た瑠璃子は廊下を歩きながらハッとした。


(外科に異動って事は外科の医局にも行けるって事?)


途端に瑠璃子はテンションが上がる。異動すれば大輔のデスクを見るチャンスもあるからだ。

あまりのタイミングの良さに瑠璃子は驚いていた。


5階のナースステーションに戻った瑠璃子は早速先輩の木村に異動の事を伝えた。


「やっぱりその話だったのね」

「あれ? 先輩ご存知だったのですか?」

「うん。外科の人が辞めた後は人員に余裕のある内科から補充かもって玉木さんが言ってたから」

「そうでしたか。知らなかったのは私だけだったんですね」


瑠璃子がフフッと笑う。


「瑠璃ちゃんがいなくなったら淋しくなっちゃう。患者さん達も皆淋しがるわよー。でもまぁ異動って言っても下の階だけどね。お昼も時間が合えば今まで通り一緒に食べられるし」


木村が淋しがってくれたので瑠璃子は嬉しかった。


異動までは一週間もなかったので瑠璃子はその日から引継ぎを始めた。

内科の同僚達は木村と同様「淋しくなるー」と口々に言ってくれたが「でもすぐ下の階ですよ」と瑠璃子が言うと皆「あ、そっか」と言って笑った。

たった2ヶ月とは言え内科のメンバーとして一緒に働いてきた同僚達が淋しがってくれるので瑠璃子は皆の優しさが嬉しかった。



そしてい12月に入り瑠璃子の外科病棟初出勤の日がやって来た。

着替えを済ませた瑠璃子はいつもの5階へ行きそうになり慌てて階段を戻る。


(おっと違う違う…今日から4階よ)


自分にそう言い聞かせると瑠璃子は4階のナースステーションへ向かった。

そこでまずは外科の師長・土田(つちだ)の元へ挨拶に行った。


「おはようございます。本日からこちらに配属になりました村瀬です。これからどうぞよろしくお願いいたします」


瑠璃子は丁寧にお辞儀をする。すると師長の土田が笑顔で言った。


「村瀬さん、今日からよろしくお願いいたしますね」


そして土田はナースステーションにいる看護師達に瑠璃子を紹介してくれた。

その中には既に顔見知りの玉木の姿もあった。

瑠璃子を見た玉木は笑顔で歓迎してくれた。


「瑠璃ちゃん、外科へようこそ! 今日からよろしくね。即戦力だから頼りにしてるわよぉー」

「いえいえ、そんなに期待しないで下さい。玉木さんご指導よろしくお願いします」


その時横から新人ナースの田中(たなか)が来て瑠璃子に聞いた。


「村瀬さんはデスラーと一緒に飛行機の中で人命救助したって本当ですかー?」


田中は甲高い可愛らしい声で言った。


「はい。たまたま同じ飛行機に乗り合わせていたんです」

「うわーっ、本当だったんですねー! 村瀬さんはデスラーの扱いに慣れているから困った事があったら村瀬さんに言えって先輩方が言っていたんです。だからすごく心強いですっ。これからよろしくお願いしまーす」

「こちらこそよろしくお願いします」


田中は昔こっぴどく大輔に叱られた事があるようで大輔の扱いに慣れた瑠璃子が来てくれてとても喜んでいた。

その後も瑠璃子は何人かの看護師と挨拶を交わした。


そして朝の引継ぎの時間が来た。

看護師達が中央カウンターの周りに集まると夜勤から日勤への引継ぎが始まる。

それと同時に廊下の向こうから外科の医師達がぞろぞろと歩いて来た。その中には大輔もいた。

大輔は瑠璃子の姿を見て特に驚いた様子はなかった。おそらく瑠璃子が外科に異動になった事を前もって知っていたのだろう。


朝の申し送りが終わると医師の長谷川が瑠璃子の傍に来て言った。


「初めまして村瀬さん、長谷川と申します。今回は無理を言って来てもらい本当に申し訳なかったね。今日からよろしくお願いしますよ」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


そこで長谷川は瑠璃子を医師達に紹介した。

紹介する時長谷川は瑠璃子が東京で外科・内科・救命救急の経験がある事、そして先日飛行機の機内で人命救助をした事も伝えた。


「外科はかなり久しぶりなのでまた一から勉強ですが、どうかご指導よろしくお願いいたします」


瑠璃子が挨拶をすると医師たちは笑顔で拍手を送ってくれた。


そして瑠璃子が外科に来て初めの勤務が始まった。


初日は玉木について一日の流れを覚えていった。

玉木は『院内拡声器』と揶揄されるほどゴシップ好きのイメージだが、仕事面においては素晴らしい裁量の持ち主だった。

仕事は合理的で無駄がなく瑠璃子に対しての指導もきちんとポイントを押さえて的確だった。

この日一日玉木と一緒に行動した瑠璃子は、玉木が仕事の出来る有能なベテラン看護師だという事を知る。


そんな優秀な玉木の指導のお陰で、瑠璃子はあっという間に新しい職場に慣れ初日から即戦力として動き始めていた。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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