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店を出た花純は、早速気になっている空中庭園へ行ってみる事にした。
時刻は既に一時半を過ぎていた。
この時間なら、休憩中の会社員も少なくて空いているに違いない。
花純は折角だからゆっくり庭園を見てみたいと思っていた。
エレベーターに乗り10階のボタンを押すとすぐに動き出した。
10階まではノンストップで到着した。
エレベーターを出た花純は、キョロキョロと辺りを見回す。
壁の標識には、左手奥が空中庭園の出入口だと記されていたので、
花純はフカフカの絨毯が敷き詰められた廊下を左へ進んで行く。
そして突き当たりまで行きガラスの扉を開けた。
外に出た途端、爽やかな風が頬を撫でる。
空は真っ青で良い天気だ。
空中庭園は、かなり奥行きがあり想像していたよりも広かった。
レンガが敷き詰められた道を歩いて行くと、緩い下り坂なっている。
(バリアフリーなのね…)
その緩い坂を降りて行くと、左右にいくつかの憩いの場があり、
洒落たベンチやガーデンテーブルセットが置いてある。
右手のベンチではスーツを着た男性が昼寝をしていたが、他には誰もいないようだ。
折角だからと、花純は庭園の先端部分まで行ってみる事にした。
突き当りの手すりまで行くと、その先には絶景が広がっている。
(うわぁ凄い! 東京タワーが近くに見えるわ)
花純は春の心地良い風を感じながら、しばらくその見事な景色を眺めた。
そして満足したところで近くの椅子に座りテーブルの上に弁当を広げた。
(毎日こんな景色を眺めながら昼食を食べられるなんて最高!)
花純は目の前に広がる絶景を眺めながら、弁当を食べ始めた。
食べながら耳を澄ますと都会の喧騒が風に乗って聞こえてきた。
青空を見上げれば、時折鳥の群れが横切って行く。
そして今度は少し離れたビルの上を、ヘリコプターが通過していった。
(都会の真ん中でもこんな癒しがあるのね…)
そんな事を考えながらふとビルの壁際を見ると、ミモザの木があるのを見つける。
(こんなビルの上にミモザ?)
花純は箸を置くと、怪訝な顔をしながら席を立ちミモザの傍へ近づいた。
(ここはビル風が吹き抜ける通り道よ…ミモザは風が苦手なはず…)
花純が辺りを見回すと、さらにその近くにオリーブの木やゴールドクレストの木がある事に気付く。
(なんでここに? この子達は強風が大の苦手なのよ…)
花純はびっくりしながらそれらの木を見て歩く。
そして木の幹を触ったり根元を見たり、
とにかく植物が健康な状態かどうかをチェックし始めた。
その時、空中庭園の坂道をゆっくりと降りて来る男性がいた。
男性は手にしたスマホを耳に当て、電話中のようだ。
そしてもう片方の手には一階のカフェで買ったコーヒー手にしている。
男性は坂道の途中で電話を切ると、そのまま前へ進む。
その時、自分が行こう思っていた辺りに一人の女性がいるのに気付いた。
そこで男性は足を止める。
(この時間はいつも誰もいないはずなのに、今日はまだいたのか…)
男性は先客にいつもの場所を取られていたので、諦めて手前の椅子へ腰を下ろす。
そして、コーヒーを飲みながら先客の様子をさりげなく見た。
女性のすぐ傍のテーブルには、食べかけの弁当が置かれていた。
しかし女性は弁当を放置したまま、近くにある木を熱心に見つめている。
と思ったら、今度はしゃがみ込んで木の根元を見始める。
(ん? 一体何をしているんだ?)
そう思った男性は、実は壮馬だった。
壮馬は目の前にいる女性が何をしているのか興味を引かれる。
その時花純は、空中庭園にそぐわない樹木が植えられている事が凄く気になっていた。
心なしか木々達はどれも元気がないように見える。
この庭園は出来てまだ数年しか経っていないはずなのに、木々達はかなり弱っている。
本来だったら新緑が美しいこの季節には、もっと沢山葉が茂り溌溂としているはずだ。
それなのにこんなに元気がないのは、この環境に合っていないという事になる。
花純は重いため息をつくと諦めたように椅子へ戻る。
そして、のろのろと残りの弁当を食べ始めた。
しかし食事を続けながら、頭の中はこの元気のない木々達の事でいっぱいだった。
自分がもしこの環境に植えるならどんな植物を選ぶか?
花純は考え始める。
比較的成長が遅いアオダモ、
初夏に可憐な花を咲かせるエゴノキ、
常緑樹のわりに繊細な葉が魅力のハイノキ、
高木ならシラカシあたりだろうか?
この庭園は、ビルの日陰になりやすく、強いビル風が吹き抜ける風の通り道なのだ。
庭園を造る時にもっとちゃんと樹木の事を考えてデザインして欲しかった。
パッと見たところ、この庭園をデザインした人は見てくれだけを意識した全くの素人のように思える。
本来ならば、もっと環境に適した植物を選ぶべきなのだ。
庭園を造る際は、自然界のルールを無視してはいけないのだ。
(私だったらこんな無計画な庭園を設計したりはしない…)
花純は小さな怒りを覚えつつ食事を続ける。
コメント
3件
自分の食事より空中庭園の木々を心配する花純ちゃん…それを見た壮馬さん…
空中庭園の植栽の木々たちを心配する花純ちゃん🌳 その様子を見つめているのは....⁉️
花純ンは適所でない空中庭園の木々🌲が心配でたまらないのね😣壮馬さん、他の人でもいいので花純ンの話に耳を傾むけてかれる人いませんか⁉️