テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#アイドル
しらなみ
90
鷹槻れん

1,182
日暮ミミ♪
542
辺境伯は国の要。国境の領地を守護し、いついかなる時も有事に備えていなければならない。だからめったなことが無い限り、領地を離れることはしない。
それなのに、辺境伯であるフロリーナが自分の目の前にいる。
大事な権力と財力を放り出して、ケルス領から逃げなければいけない状況に陥ったということだ。
ベルは彼女の置かれた状況を理解すると、むくりと身体を起こした。
てっきり拘束されていると思ったけれど、手足は自由だった。でも身体の節々が痛い。
(まったく痛覚ってのは、あってもなくても邪魔なものだな)
乱れた髪を手櫛で整えながら、ベルの視線は忙しなく周囲を探る。
ここは、がらんとしていて埃っぽい。窓はガラスがほとんど割れている。廃墟と呼んでも過言ではない倉庫のような場所だろう。
明かりが必要とするほど暗くないのが、せめてもの救いだ。
ごろつきと呼ぶのに相応しい人相の悪い男たちが片側の壁でこちらを見ている。その後ろに、自分を心配そうに見つめている拘束されたフローチェを確認できた。
それにほっと安堵の息を吐くが、因縁のクルトや、義理の姉妹二人。ミランダの夫であるケンラートまでいるのはいただけない。
一家総出のこの状況は、まさに夜逃げだ。長年重ねてきた罪をベルに押し付けるために、なけなしのお金を使ってゴロツキを雇ったのだろう。
この推測に確認の必要はないと判断したベルは、床に手を付いて立ち上がった。
「お久しぶりです。お義母さま」
微笑みながらスカートの裾を広げて淑女らしい礼をしたベルに、フロリーナは不快そうに眉を顰めたが、すぐに表情を改めた。
「ええベル、久しぶり。元気そうで良かったわ。あなたが急に屋敷から消えて、ずっと心配していたのよ」
「あら、お義母さま。心配していたのは、わたくしではなく【領印】ではなくて?」
すぐさま嫌味を吐いたベルに、もうフロリーナは取り繕うことを放棄した。
一瞬で変わった表情は、馴染みのあるものだった。
コメント
1件
みぅです、読了したよ🥀 ベル、痛覚に悩まされながらも立ち上がる気丈さがカッコよかった……「あってもなくても邪魔なもの」って台詞に、彼女の積み重ねてきたものが詰まってる気がした。フロリーナが「領印」って単語で一瞬で仮面を外すシーン、ゾクッと来た。長年の歪みが透けて見える会話、好きです。