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#怪異
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#和風ファンタジー
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ああ、今回は重かったなあ……。リョウと稚児天狗が千年ぶりに向かい合う場面、すごく胸にきたよ。現人神とか言われてもただの寂しい子どもだったっていうのが切なくて。最後の土下座と「母上様を救いたい」って願いには本当に驚いた。栗原ミサキに悪しき怪異が憑いてるのか……キミカの怪我もこれが原因なんだろうな。続きがすごく気になるよ😢
キミカの話を聞き終え、文字通り転げ落ちるようにして俺は二階から一回へと階段を駆け下りていた。それから、勝手知ったる他人の家で、大広間へと向かう。
ここ塚森家の大広間は世間同様、多人数での会合や宴会などで使用される他、童ノ宮の神、つまり稚児天狗のために宛がわれた部屋だとされている。
だから、普段は家の人間もあまり立ち入らず、敢えて雨戸なども締め切られたままだ。塚森家の大広間は、謂わば家の中の異界――、開かずの間ということになる。
息を荒げたまま、俺は襖を勢いよく左に滑らせ開いていた。
框が鴨居に派手に叩きつけられ大きな音がして、大広間のど真ん中で座り込んでいた二人がビクッとした様子で顔をあげる。
そのうちの一人は、大学を出たぐらいの年頃のスーツ姿の若い娘。
見覚えのある顔だった。確か白虎機関の学者、柴崎ゼナの助手だか秘書だかをやってる娘だ。そして、もう一人は小学校に入学するかしないかぐらいの年頃の小さな男の子。
二人の間には年季の入った積み木が家の形に積み上げられていた。
キミカが幼い頃よく手に取っていたもので、どうやらスーツの娘が男の子と相手をして遊んでやるのに使っていたらしい。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
俺は男の子を見た。畳に小さな両膝を突いたまま、男の子も俺を見返している。丸くて可愛らしい目を大きく見開いて。不思議そうに。
この子か。この子がそうなのか。
ゴクリ、と俺は息を飲んでいた。それから男の子と見つめ合ったまま、俺はそっちに向かって距離を詰めてゆく。
「あ……。鳥羽さん、ですよね。私――、白虎機関の者です」
男の子の間に割って入るようにして、スーツ姿の娘が俺の目の前に立ち塞がってくる。その表情には緊張。
仕方なく俺は足を止める。
「ああ、俺も覚えてるよもちろん。……姫宮アンナさんだよな。いつぞやはキミカやレイジが世話になったっけな」
「え、ええ。お久しぶりです」
話が通じる相手だと理解してくれたらしい。娘――、姫宮アンナの顔にかすかな微笑み。
内心、俺は呆れていた。仕事とは言え、女の子がよくこんな人外魔境と関わっていられるな、と。二階で休んでいるキミカといい……。
こんな事を口にすれば男女差別だの価値観が古いだの言われそうだが、何しろこちとら平安時代の生まれと来ている。そんなことは知ったことじゃない。
「あの、キミカちゃんのこと――本当に申し訳ありませんでした」
「……あぁ?」
「私達が側にいながら……。あの時、境内公園に向かおうとしていたキミカちゃんを呼び止めていたらあんなことには……」
「たられば、の話はいい」
深々と頭を下げる姫宮に俺は短く告げていた。だが、それでは年長者として、あまりにも大人げない態度だと思い直しフォローを付け加える。
「どうせ、キミカが一人で突っ走ったんだろ。あんたらのせいってわけじゃない。俺もあの子の向う見ずにはいつもヒヤヒヤしてるんだ」
「キミカちゃんってどっちかと言えば大人しいお子さんですよね……」
「まあな。だけど、生きるか死ぬかの場だと若干人が変わるんだよ」
へぇ、と小さく呟く姫宮。その表情が一瞬、喜びに輝いたように見えたが……気のせいだろう、多分。
「キミカのことはまた後で。今はあの子と話をさせてくれ」
「え、ええ。それはもちろん……。できるだけ優しく接してあげてくださいね。マキオ君、今回のことですごく傷ついていますから」
そこまで言って姫宮は声を潜める。
「半分以上は、その、私のせいなんですけど……」
「は? あんた、何かしたのか?」
思わず俺は問い返していた。姫宮の表情が曇る。
「栗原ミサキの――あの子のお母さんの首の骨を危うくへし折るところでした」
何だこの娘。キミカにも関わるなと注意しておくべきか……。
ドン引きしながらも俺は姫宮と立ち位置を入れ替わるようにして男の子の前へと進み出る。
「――や、やあ」
若干声をうわずらせながらも俺はその場に膝をつき、相手と視線を合わせる。
「俺はキミカちゃんの友達で――、鳥羽リョウって言うんだ。……君のことも教えてくれる?」
刹那、男の子は戸惑ったような顔を浮かべたが、
「栗原マキオ。六歳です」
「そうか。ええっと、それで――」
俺は口ごもってしまう。そこから続けるべき言葉が見つからなくて。
昔から小さな子供を相手にするのは苦手だ。今でこそキミカは親しく接してくれるが昔はガタイのデカい俺を怖がって逃げ回っていたし、流行り病で亡くした息子もあまり懐かなかった。
だけど、この子は……。
「栗原マキオ君は――現在のマー君は、稚児天狗でもあるねん」
キミカの言葉を思い出す。どう言う意味なのか、キミカは説明してくれたが取っ散らかって全く理解できていない。
情報が多すぎるせいか、俺の頭が悪いせいか。恐らくその両方だろうな。そしてこういう時は単刀直入に物事を進めるべきだと俺は経験則で知っていた。だから俺は言った。
「なぁ、マキオ君。――いや、御曹子。俺の顔を見て、誰か分かるか?」
俺を凝視し続ける男の子の瞳が一際、大きく開かれた。
そして、水を打ったような静寂がその場に訪れる。本当に物音一つしない完璧な静寂が。
それはあまりにも長く、永遠に続くように感じられて。
「あぁ誰かと思えば……」
静寂を破ったのは男の子の声だった。
たった今入れ替わったらしい。もっとも話はずっと聞いていたし、様子もずっと伺っていたようだが。
「そなた、あの時の叩かれ坊主であろう? 確か名前は――」
「リキマルだ」
思わずカチンとなって言い返す。
俺の名前ぐらいサラッと思い出せ、この薄情者。
「ふむ、リキマルか。もちろん覚えておる」
「当時はそう名乗っていた。……だけど俺は叩かれ坊主じゃない。お前の乳母が、あこ殿が雇ったお前の遊び相手だ」
「そのような些事、どうでもよいではないか」
男の子はあぐらをかいてドカッとその場に座り込んで――
「そなたとまろ。まろとそなたは今、現身を持って対面しておる。千年の時を経て向かい合っておる。これを神仏の思し召しと言わず、何と言おうか」
「何が神仏の思し召しだ。くだらない」
苦いものが込み上げ、耐え切れなくなって俺は口元を歪める。
「死んでテメェが祀られてちゃ世話ないだろう」
「ぬかしおる」
ヒヒッと甲高い声をあげて男の子が、男の子の身体を通して稚児天狗が笑う。 だが、すぐにピタリと笑うのを止めて、
「しかし、一度たりともまろは自らを神仏の類であると称したことはない」
「ああ、そうだったな……」
やり切れない想いが込み上げ、俺は肩で息をつく。
現人神だの生き仏だの麒麟児だの言われていても結局のところ、ただのガキに過ぎなかった。親の愛情に飢え、ただ盲目時に人の温かみを求める捨て子だった。
畜生。何が外法だ、ふざけるな。
「しかし、下僕よ――」
「俺はお前の下僕じゃない。元下僕だ。あれからどれだけの時が経ったと思う? 今さら主従もクソもないだろう」
「……そなたはどうして未だに現世に留まっている? その身体、次第に老いていくようだが何か呪法を施しているのか?」
「それは――、お前には話したくない」
ぴしゃりと言って打ち切りの意を表明。少々、きつい物言いだったが偽らざる俺の本心だった。
「そんなことより、いい加減に説明しろ。これは一体何なんだ?」
「……これとは?」
「今、お前がやっていることの全て、だ」
苛立ち、つい口調が強くなる。
「どうしてお前はその子――、栗原マキオ君に憑いた? 何がやりたい? そのせいで、マキオ君の母親は狂ってしまったのかも知れないんだぞ。おまけにキミカまで……!」
そこから先は言葉にできなかった。
「そうか。お前達ならもう、まろの真意に気がついていると思ったが……伝わっておらなんだか」
「お前はいつも回りくどい。一言で、分かりやすく言え」
「もはやまろとそなたは主従関係ではない、と先程聞こえたが?」
ぷいと稚児天狗が、男の子の身体を使ってそっぽを向く。
まったく、こういう面倒臭いところは生きていた頃と同じだな。
「今の俺は――」息を吐き出すように俺は告げた。
「お前の氏子の一人だよ、童ノ宮の稚児天狗」
「そうか。その言葉に間違いはあるまいな」
男の子の顔に満面の微笑み。
光輝くようなその表情に思わず俺は苦笑いしそうになる。キミカと同様、俺はこいつにもかなわないらしい。千年前と何一つ変わらない。
それでは、と稚児天狗は咳ばらいを一つ。それからガバッと勢いよく、その場に平伏をする。
「お、おい。土下座なんて。俺はそんな……お前、神様だろう」
「全てはまろの力不足が招いたこと。だがこの通り、恥をしのんでお願い申し上げる」
焦る俺に男の子が額を畳に擦りつけるようにしながら言う。
「この子、栗原マキオの母親なる女性はこの稚児天狗の母親でもある……」
待て。ちょっと待て。
急展開過ぎて、俺の年代物の頭じゃついて行けない。
栗原マキオ君の母親は栗原ミサキ。それは理解できる。だけど、稚児天狗にとっても栗原ミサキが母親だと言うのはどう言う意味だ?
「栗原ミサキには――、母上様には悪しき怪異が憑いておる。水辺にて横死をもたらす雑鬼。名を浮足坊主と言う」
ゆっくりと男の子が顔をあげた。丸みを帯びた可愛らしい頬を涙が濡らしていた。
「これなる怪異を討つため、氏子の方々には力を貸していただきたい。……母上様がマキオのように命を奪われる前に」