洋子は中肉中背の50代半ばのショートヘアの女性で、
堂々とした立ち居振る舞いからは、肝っ玉母さんという雰囲気が漂っていた。
「洋子さんおはようございます。新しい人来ましたよー。こちらは藤野花純ちゃんです。で、あちらがパートの寺田洋子さ
ん。洋子さんは元社員の大先輩よ」
優香に紹介された花純は、すぐに洋子に挨拶をした。
「藤野花純です。よろしくお願いいたします」
「寺田洋子です、よろしくねー! それにしてもこんな若い可愛い子が流刑地へ? もうっ、青山花壇の人事は一体どうなっちゃってるのかしらっ!」
洋子はそう言ってから「しまった!」という顔をして慌てて口に手を当てる。
「大丈夫よ。花純ちゃんには朝話してあるから」
優香の言葉にホッとした洋子は花純に言った。
「なんでここに出向させられたのか知らないけれど、私達三人は同じ仲間だからね。頭が固い馬鹿な本社の人間なんて放ってお
いて、とにかくここでは楽しく働きましょう」
洋子がニッコリと微笑んだので花純も笑顔になる。
(この店の人はみんな前向きで素敵な人ばかり)
花純はそう思いながら、
「はい、これからご指導よろしくお願いします」
と言ってぺこりと頭を下げた。
「じゃあ、洋子さんが来たから私が先にお昼に行って来るわね。洋子さん、花純ちゃんは花屋のバイト経験があるし、アレンジ
も上手なの。だからあまり心配ないと思うけれど、今日は初日だからなるべくついてあげて下さいね」
「分かったわ! 行ってらっしゃーい」
花純も慌てて言う。
「行ってらっしゃい!」
「じゃあ行って来まーす! 隣のカフェにいるから何かあったら声かけてね」
「オッケー」
洋子が笑顔で返事をする。
その時ちょうど上品なマダムが店に入って来たので、花純は接客を始める。
女性は介護施設に入っている母親に誕生日の花を贈りたいからと、アレンジを注文した。
花純は早速希望するアレンジの雰囲気や贈る相手の好きな花、そして予算などを聞く。
マダムはあまり仰々しくないこじんまりしたアレンジを希望したので、
花純は少し小さめのバスケットを用意し、早速アレンジに取り掛かった。
マダムは出来上がるまでの間、向かいのパン屋で買い物をして来ると言い店を出た。
久しぶりのアレンジ作りで緊張していたが、横で洋子が見守ってくれているので安心だ。
「花純ちゃん、ばっちりじゃない」
仕上がったアレンジを見て洋子が言ったので、花純はホッとした。
その時ちょうどマダムが戻って来た。
「このような感じでいかがでしょうか?」
「凄く素敵だわ! 赤いバラもこういう組み合わせだとアンティーク調になるのねぇ…」
マダムは満足気に頷いている。
そして会計を済ませるとご機嫌な様子で、
「ありがとう」
と言い店を後にした。
「初アレンジにしては上出来よ! まさかアンティーク調に仕上げるとはねぇ…花純ちゃんやるじゃない」
「以前雑誌でああいうアレンジを見ていたのでそれを真似てみました」
花純はそう言ってはにかんだ。
その後も、何名かの客が切り花を買い求めに来たが、特に混雑する事もなく穏やかに過ぎていく。
一時間が経過した頃、優香が昼の休憩から戻って来た。
「じゃあ、花純ちゃん遅くなっちゃったけれど休憩に行ってきて! きっかり一時間休んでいいからね」
「ありがとうございます」
花純は一度ロッカーへ行き、財布と作って来た弁当を手にして戻って来た。
「優香さん、先ほどの食虫植物の代金をお願いします」
花純はそう言って1000円札を優香に渡した。
「あ、そっか。えっと10%オフだから900円ね。それに消費税で…990円だから10円のお返しね」
「ありがとうございます」
それを見ていた洋子が花純に聞いた。
「何? 花純ちゃん食虫植物が好きなの?」
「あ、はい…というか、植物全般が好きなんです」
「そっかぁ…じゃあ発注業務をするようになったら、自分の欲しい植物を注文したらいいわよ」
洋子はそう言って優香の方をチラリと見た。
「そうね、花純ちゃんにもそのうち発注業務も覚えてもらう事になるけれど、自分の欲しい物があったらついでに頼んじゃって
大丈夫だから」
「いいんですか?」
思わず花純の顔がパァッと明るくなる。
「もちろん! そのくらいのご褒美はないとねー。お昼休みから帰って来たらカタログを見せてあげるわ」
「うわぁ、それは楽しみです!」
花純は嬉しそうに微笑むと、
「じゃあ行ってきます」
と言って二人にペコリとお辞儀をした。
「「行ってらっしゃーい」」
花純は二人の大先輩に見送られて昼の休憩に入った。
コメント
3件
会社のやり方は酷いけど、店舗の皆さんの雰囲気や関係も良くて花純ちゃんも楽しそうでよかった☺️休憩は気になる空中庭園かな?
職場の人間関係も良く 大好きな花や植物に囲まれ お仕事も楽しそうで、とりあえず良かったね....😌💐🌴✨
洋子さんもすてきなスタッフ💓本当に"流刑地"って言葉があてはまらない! それほど本社中枢の役員の考えが嫉妬で飛ばすだけのお粗末な考えならそんな会社はもう終焉を迎えそう🙏