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焚き火が小さくなり、風の音が混じってきた。
遥は膝を抱えて座り、火を見つめたまま無言。
蓮司はシュラフに潜りながら、何か小さく鼻歌みたいに音を出している。
日下部は木の枝を持って、火のまわりを時折つついていた。
蓮司「……なあ、お前ら、ほんとは寝れなそうなタイプだろ」
遥「うん。寝つき悪い」
日下部「……俺は、寝れると思うけど。すぐ起きる」
蓮司「ほらやっぱな。心が浅瀬だらけって感じ」
遥「……なんだよ、それ」
蓮司「夢も見ないし、深くも沈まない。眠りってさ、たぶん無防備になる訓練じゃん?」
遥「無防備になるのは、苦手だな」
日下部「……寝てるときも、気配で目が覚めるときある。気が張ってんのかも」
蓮司「……へぇ。なんか、ちょっと安心したわ」
遥「何が?」
蓮司「いや、俺が“まともじゃない”って思ってたけど、全員なんかズレてんじゃんって」
遥「……自分で言うなよ」
蓮司「うん、でも言いたかった。ずっと思ってたんだよ、俺たち、まとまってないけど、なんか“調和”してんのがムカつくくらいには心地悪くない」
遥「……お前って、たまに気持ち悪いな」
日下部「“たまに”じゃないと思う」
蓮司「言うねぇ、日下部さん。今日テンション高い」
遥「火のせいだな。揺れてるの見ると、気が緩む。なんか、話しても……消える感じ」
蓮司「へぇ、今の言い方、ちょっと詩人」
遥「うるさい」
蓮司「褒めたのに」
日下部「……」
少しの静寂。枝がぱきんと音を立てて、火の中に落ちる。
日下部が、火の揺らぎの向こうにいる遥の顔をちらりと見て、
何か言いかけて、でも言わずに目をそらす。
蓮司「……寝ようぜ。何かあったら、起こしていいから」
遥「俺、たぶん起こさない」
日下部「俺、起きてるかも。わからないけど」
蓮司「……はーい、じゃあ気配で察します」
遥「……馬鹿みたい」
蓮司「うん、知ってる」
テントのチャックの音。寝袋がこすれる音。
火はゆっくり小さくなって、虫の声が近づいてきた。
でも、誰かが「隣にいる」ことだけが、いつもと違う夜だった。