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四日前の昼すぎ、空はまだ明るいのに湿った風が吹いていた。サベリオはシェルターの軒先を見上げ、雨どいの継ぎ目と屋根の割れ目を順に確かめる。
前の周回では、通り雨が降った。屋根を打つ音。割れ目から落ちるしずく。デシアはそれをうれしそうに録っていた。けれど同時に、雨は機材も床も危うくする。
なら、最初から塞げばいい。
そう考えたサベリオは、余っていた板と布を集め、軒の下に即席の覆いを作り始めた。割れ目も、雨だれが落ちる場所も、全部まとめてふさいでしまえば安全だ。少なくとも、今はそう思えた。
脚立の上で釘を打ちかけた時、下から声が飛んだ。
「待って」
見下ろすと、デシアが立っていた。いつもよりずっとはっきりした顔で、サベリオを見上げている。
「そこ、塞ぐの?」
「うん。雨が入ると危ないから」
「そこ、しずくが落ちる場所だよ」
「知ってる。でも、機材が濡れたらもっと――」
「しずくの音が消える」
声は大きくないのに、きっぱりしていた。
サベリオは口を閉じる。デシアは脚立の横まで来て、軒先の影を指さした。
「ここ、金属板の高い音と、木を打つ丸い音が重なるの。昨日、波形まで見た」
「でも雨は危ない」
「危ないから工夫するのと、最初から消すのは違う」
その一言で、釘を持つ指先が止まった。
デシアは録音機を抱え直し、少しだけ困ったように笑った。
「助けようとしてくれてるのはわかる」
「じゃあ」
「でも、私のほうの大事なものを、私より先に決めないで」
胸の奥がぎくりとした。
助けるつもりだった。危ない目に遭わせたくなかった。あの夜の涙をもう見たくなかった。けれどそのために、彼女の作品の芯を勝手に抜こうとしていた。
サベリオはゆっくり脚立を降りた。布も板も、地面へ戻す。
「ごめん」
「……うん」
「別のやり方、考える」
デシアはようやく肩の力を抜いた。それから、足元の石畳に落ちた小さなしずくを見つけたみたいに、ふっと目を細める。
「消さないで守れたら、たぶんそれが一番いい」
その言葉は、雨どいの修理より難しく聞こえた。
助けることと、勝手に決めることは似ていない。
サベリオは板を抱えながら、その違いを初めて自分の手の重さで知った。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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