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三日前の夜、サベリオはまた星降る橋へ向かっていた。
第6話の夜に見た、あの人影が頭から離れない。背の高い相手。硬い声。受け取られなかった紙。もし祭りに関わる何かなら、放っておいていいはずがなかった。
川沿いの道は静かで、昼の熱がすっかり抜けている。橋へ近づくにつれ、かすかな話し声が聞こえてきた。やはり誰かいる。
今度も橋脚の影に入ってから、そっと様子をうかがう。
――拍子抜けした。
そこにいたのはデシアと、照明担当のジャスパートだったからだ。
橋の欄干に小さな印をつけながら、ジャスパートが言う。
「ここで一回落として、客の視線を向こうへ引く。暗くしすぎると危ないから、残すのは足元の線だけ」
デシアは録音機ではなく、細いノートを手にしていた。
「その時に鐘が鳴るなら、風の音は一段薄くしたい」
「じゃあ二拍遅らせる」
真剣な打ち合わせだった。密会でも何でもない。ただ、昼の喧騒の中ではできない相談を、橋の静けさの中でしているだけだ。
サベリオは自分の胸の中にあった妙な刺を意識した。第6話の相手とは背格好も違う。なのに、勝手に不安を膨らませていた。
少し体をずらした拍子に、小石が鳴った。二人が同時に振り向く。
「……いた」
ジャスパートが言い、デシアがまばたきする。
「また?」
その言い方に、サベリオは何とも言えない気分になった。
「別に盗み聞きじゃなくて」
「じゃあ何」
「橋を見に」
「夜に?」
ジャスパートの視線が冷たい。もっともだと思う。
サベリオは苦しい言い訳を飲み込み、欄干の内側を指した。
「その、危ないところがないかと」
「あるよ、夜の橋に人が増えること」
即答だった。
デシアはふき出しかけて、それでも気を遣ったのか笑いをこらえた。
「心配してくれてるのはわかる」
「なら」
「でも、私の行動を全部見張られると落ち着かない」
言葉がまっすぐすぎて、サベリオは返事に詰まった。
自分は何をしているのだろう。事故を防ぎたいのに、その焦りでデシアの自由を削ろうとしている。守ることを口実に、彼女の夜まで管理しようとしていたのかもしれない。
「ごめん」
今度はすぐに言えた。
ジャスパートはまだ半分ほど疑っている顔だったが、橋の灯りの話に戻っていく。デシアもノートへ視線を落とした。
サベリオはその場を離れ、橋のたもとまで来てから空を見上げた。
勘違いして、先回りして、勝手に心配している。自分が下手なのは修理だけじゃないらしい。
夜風は冷たかったが、その冷たさのおかげで少しだけ頭が静かになった。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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