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秘書室へ戻ると、さおりと恵子は先に戻っていた。



「奈緒ちゃんどうだった? ボスとの初顔合わせは?」

「そうそう、どんな感じだった?」



二人とも興味津々だ。そこで奈緒は正直に伝えた。



「ノックをしても返事がないのでいないと思って中に入ったんです。そうしたら深山さんがソファーに寝ていてびっくりして心臓が止まるかと思いました」



奈緒は少し大袈裟に言うと二人は声を出して笑った。



「やっぱり泊まってたか―」

「……ったく、たしか自宅は近いんですよね? だったら帰ればいいのにー、本当に困ったCEOだわぁ~」



それから三人はコーヒーを飲みながら少し雑談した後、仕事を開始した。

奈緒がさおりに頼まれた数字のチェックをしていると、ふいに省吾が入って来た。



「先輩秘書のお二人さん、おはよう!」

「あ、深山さんお帰りなさーい」

「お疲れ様でーす。深山さーん、北海道のお土産は―?」

「ああ、さっき下に置いて来たから後でこっちにも来ると思うよ」

「わーい、嬉しいー」



恵子が両手を上げて喜ぶ。

そして省吾は手にしていたA4サイズの紙の束を奈緒のデスクに置いた。



「今まで二人にお願いしていたデータ入力、今日から麻生さんに頼もうと思うんだけど、さおりさんやり方教えてあげてくれる?」

「承知しました」

「じゃ、頼んだよ」

「あっ、深山さんっ!」



省吾が踵を返して歩こうとした時、奈緒が慌てて引き止める。

CEO室に行った時に聞けばよかったのだが、聞き忘れてしまったので奈緒は今質問する事にした。



「CEOの呼び方についてですが、本当に『深山さん』でよろしいのでしょうか?」

「うん、それで構わないよ」

「来客時や外部の人がいる前ででもですか?」

「うん、問題ない」

「わかりました。ありがとうございます」



奈緒は気になっていた事が解決したのでホッとする。

その時、省吾のお腹から、


グルルルルキュルルルル~~~



という音が響いた。

その音を聞いたさおりと恵子が口を開く。



「深山さーん、また朝食抜きですかー?」

「駄目ですよぉ、そんな食生活をしてたらいつか倒れちゃいますからねー」

「ハハッ、大丈夫だよ、昼にいっぱい食うから。それに俺はまだ若いしなっ」

「若いって言っても、もうそんなに若くないような?」

「うちの全社員の平均年齢よりは、はるかに上ですしねぇ」

「ひっでーな! 俺はまだオッサンじゃないぞー?」



そこで奈緒を含めた秘書三人が声を出して笑う。そして笑いながら奈緒が言った。



「あの、よろしければ下で何か買ってきましょうか?」

「そうだなぁ……じゃあ頼もうかな?」

「何がよろしいですか?」



そこでさおりと恵子が同時に叫ぶ。



「「卵サンドと鮭おにぎりっ!!!」」



「ちぇっ……なんでわかるんだ?」

「そんなのわかりますよ。いっつもその組み合わせでしょう?」

「そうですそうです、今までは私達が買いに行かされてたんですからぁ~」



思わず可笑しくて奈緒がクスクスと笑う。一方、省吾は参ったなという顔をしていた。



「麻生さん、じゃあ今のやつ買ってきてもらえる?」

「承知しました。じゃあ行ってきますね」



奈緒が椅子から立ち上がると省吾が引き止める。



「あ、ちょっと待って……」



省吾は慌ててポケットから財布を取り出すと、千円札を奈緒に渡した。

奈緒はそれを受け取ると一礼をして秘書室を出た。



オフィスビルの一階に併設されているコンビニで買い物を済ませた奈緒は、すぐに秘書室へ戻った。するとさおりが省吾に持って行くコーヒーを準備してくれていた。



「あ、さおりさん、ありがとうございます」

「はいはーい。でさぁ、奈緒ちゃん! 言った通りでしょう? CEOの食への無関心……」

「ですね。毎日あんな感じなんですか?」

「そうよ。だから時々食生活はチェックしてね。仕事に没頭しちゃうと、こっちから言わないと食べないから」

「わかりました。でも本当に朝は毎回あのメニューなんですか?」



奈緒が『卵サンドと鮭おにぎり』の事を聞く。



「本当よ。天才っていうのはさぁ、なんか変なこだわりがあって頑固なんだよねー。多分深山さんが夫になったら、同じ食事が一ヶ月続いてもきっと文句言わないと思うわよ。だから奥さんになる人は楽でいいわねぇ~」

「違いますよさおりさん! あれは単に頭の中がお子様脳なんですっ! 卵サンドと鮭おにぎりは子供に人気の定番メニューでしょう? だから深山さんは絶対オムライスとかハンバーグが大好きなはずです! フフッ」



二人の会話があまりにも可笑しくて、奈緒がまた声を出して笑った。

そして笑いながら二人に声をかける。



「じゃあ行ってきますね」

「「行ってらっしゃーい」」



奈緒はトレーを持って再び省吾の部屋へ向かった。



CEO室のドアをノックをすると、また返事がない。しかし今回は中から声が聞こえ、省吾は電話中のようだ。

奈緒が入ろうかどうしようか悩んでいると突然ドアが開いた。携帯を耳に当てたままの省吾がドアを開けてくれた。


奈緒はペコリとお辞儀をして中へ入ると、サンドイッチとコーヒーの載ったトレーとお釣りをデスクの上に置く。

すると椅子に戻って来た省吾が奈緒に向かってニッコリしながらコクンと頷いた。「ありがとう」の意味らしい。

奈緒は再びペコリとお辞儀をすると出口へ向かう。

その時背後から省吾の電話の会話が聞こえてきた。



「だからもっと広さが欲しいんです。重機を無人で動かすんですよ? 事故が起きたらマズいんです。とにかく実証実験で大事なのは、絶対に事故を起こさない事! その為には最低でもその四倍の広さが欲しいんです……ええ……そうです、はい…..」



(無人で重機を動かす? そんな事が出来るの?)



奈緒は思わず耳を疑う。



(人工知能ってそんな所まで進んでるんだ……)



奈緒は今この会社が取り組んでいるプロジェクトを知り、思わず感嘆のため息をもらす。

自分のボスは、まさに時代を変えてしまうような仕事に取り組んでいるのだ。それは奈緒の予想をはるかに超えていた。

自分はこれからそのボスの秘書を務める。



(しっかりやらなくちゃ!)



奈緒は身が引き締まるような思いでいた。

そして出口で一礼をするとそっとドアを閉めた。



一方、奈緒の後ろ姿を見つめながら、省吾はこんな事を考えていた。



(大事な指輪を諦めた? つまりそれは男とヨリが戻ったのか? それとも戻っていないのか? 一体どっちなんだ?)



その時携帯から声が響く。



「深山さんっ、どうしましたか? 聞こえますか?」

「あ、はいっ、すみません、では是非その方向でお願いします……」



省吾はその疑問を一旦胸の内にしまうと、今目の前にある仕事へと集中した。

銀色の雪が舞い落ちる浜辺で

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コメント

131

ユーザー

いつも玉子サンドとおにぎりじゃあ、身体が心配だよね....😔 これからはきっと奈緒ちゃんが、しっかり面倒を見てくれそうだけど....💓🤭 省吾さん、やはり指輪のことが気になって仕方がない⁉️😅

ユーザー

気になるよね〜😁もう恋しているんだよね

ユーザー

「卵サンドと鮭おにぎり」て。大阪人もびっくりの炭水化物×炭水化物の組み合わせやな。

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