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その日の昼休み、奈緒は先輩二人と外へランチに出掛けた。

さおりが予約してくれたイタリアンの店までは、歩いて五分ほどだった。


春の爽やかな風が吹き抜ける中、三人はビルの谷間の公園をすり抜け店へ向かう。

途中、公園のベンチには食事や昼寝をするサラリーマン達の姿がチラホラと見えた。


店に着くと既に長蛇の列が出来ていたが、さおりはその脇をすり抜けて中へ入って行った。

すると奥から若者が出て来てさおりに声をかける。



「さおりさん、いらっしゃい。どうぞ奥へ!」

「亮ちゃんサンキュー」



三人は案内された奥の席へ座る。そこで奈緒が聞いた。



「お知り合いですか?」

「うん。さっきの子は友人の息子ちゃんでこの店の店長をしてるの」

「あの若さで店長? 凄い!」



そこでさおりがメニューを見ながら奈緒に聞く。



「奈緒ちゃんは魚介類大丈夫?」

「はい、大好きです」

「それなら良かった。この店一番のお薦めは魚貝がいっぱい入ったペスカトーレなのよ」

「奈緒ちゃん、ここのペスカトーレ凄く美味しいよー。この店に来ると私はいっつもそれ」

「じゃあ、私もそれでお願いします」



三人とも同じペスカトーレのランチセットを頼む。セットにはサラダとコーヒー、それにミニデザートがつく。


料理が運ばれてくると、三人は水で乾杯をした。



「奈緒ちゃん、我らが秘書室へようこそ!」

「奈緒ちゃんこれからよろしくねー」

「こちらこそ、改めましてこれからよろしくお願いします」



乾杯の後、奈緒は美味しそうなペスカトーレを早速食べてみる。



「本当に美味しい!」

「でしょう? 知り合いの店だから贔屓してる訳じゃなくてマジで美味しいのよぉ~」

「今度夜も来てみたいですね」

「いいわねそれ! じゃあ今度ボーナスが出たら三人で来る?」

「是非是非! 奈緒ちゃんも来るよね?」

「もちろんです」



美味しい食事を堪能しながら、さおりが改めて奈緒に聞く。



「で、どう? 深山さんとはやっていけそう?」

「あ、はい。なんとか大丈夫そうです」

「それなら良かった。まあうちの役員さん達は秘書を困らせるような事はほとんどないから安心して」

「そうそう。問題があるとすれば、休み明けのゴルフの自慢話が長い事くらいかなー?」



恵子の言葉に他の二人が笑い声を上げる。



「でもねー奈緒ちゃん! さおりさんが前にいた会社の話を聞いたら、きっとうちが天国だってわかるわよ」

「前の会社?」

「フフッ、そうねぇ……あそこと比べたらきっとどこも天国なんじゃないかしら?」

「やっぱり? 奈緒ちゃん、さおりさんはここへ来る前は大手建築会社で秘書をしていたの。その時は色々あって大変だったらしいわよー」

「そうなんですか?」

「うん。ゼネコンの秘書は大変よね。接待は頻繁にあるし、その度に秘書は珍しい手土産を求めて長時間並んだり駆けずり回ったり! それ以外にもやれ芝居のチケットを取れだとか、相撲のチケットを今日中に入手しろとか? もう無茶ぶりなわけよ。おまけに、強面のおにーさんの対応なんかもあったりしてさぁ……神経すり減るよねぇ。しかもそれだけじゃないの。使途不明の謎の領収書があったり、いろいろアヤシイところがあったりってもう怪しさ満載だよね。それに比べたら今は天国だわ~」

「そういうの噂で聞いた事あります。本当にあるんですね?」

「うん、あるある。だからもう二度とあの業界には戻りたくないわ」



すると今度は恵子が口を開いた。



「奈緒ちゃんも私も秘書デビューがうちの会社で良かったかも。役員は手が掛からないし直属の上司はさおりさんだし? こんな居心地のいい職場には二度と出会えないような気がする。だから私は結婚してもここで働き続けるつもり~」

「えっ? 恵子ちゃん結婚の予定あるの?」

「ううん、まだです。もしそうなったらっていう話ですよ」

「なんだーびっくりしたぁ。まあでも結婚後も続けてくれるならめちゃ嬉しいけどね」

「うちの会社は結婚後も仕事を続ける人が多いのですか?」



奈緒は質問をする。



「多いわよー。うちは福利厚生がしっかりとしているし育休もちゃんと取れるから。それに休んでいる間に居場所がなくなるなんて事もないから安心して育児に専念出来るしねー」

「それは有難いですね」



そこで今度は恵子が奈緒に言った。



「時々赤ちゃんをおぶって出社するパパさんママさんもいるわよ」

「えっ? 本当ですか? 連れて来てもいいの?」

「うん。この前は技術部の部長がワンちゃん連れて出社したし」

「えっ? ペットもOKなんですか?」

「そう。なんか帰りに動物病院に連れて行きたいからって。うちの会社は割となんでもアリですよね? さおりさん?」

「そうそう、そういうのは割と緩いよね」



奈緒は密か感動していた。これならもし何か問題が起こっても全て上手く解決出来そうだ。



「そうそう、もうすぐ社内に託児所もオープンするんだよね。今ちょうど保育士さんを募集中みたい」

「託児所まで?」



奈緒は更に驚く。

奈緒が前にいた所もかなり福利厚生が充実していたが、この会社はそれ以上のようだ。



「奈緒ちゃんはいい時うちに入ったわ。CyberSpace.inc はこれからものすごい勢いで伸びるわよぉ~! だからきっといーっぱい恩恵を受けられると思う」

「そうそう、せっかくいい会社に入ったんだから思い切り楽しまないとね」



先輩二人はニコニコして言う。



「じゃあ私も頑張りますっ!」

「そうそうその調子!」

「三人で楽しくやろうねー!」



奈緒はその日優しい先輩二人と共に、今まで経験したことがないほどの充実した昼休みを過ごした。

銀色の雪が舞い落ちる浜辺で

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コメント

18

ユーザー

福利厚生が充実していて、そして 秘書を困らせない上司...✨ 本当に素敵な会社ですね🏢💓

ユーザー

ひゃー素敵な会社だ🤭福利厚生も良いし無茶振りもなさそうだし。上に立つ人が社員皆が働きやすいように考えてくれてるんだね。勿論省吾さんも🥰

ユーザー

本当素敵な企業にお勤めできてよかったですね、奈緒ちゃん。 (あっ、私子どもをおんぶして仕事してたわ🤣でも、こんなに素敵な会社ではありません)

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