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「不死身だと!? ふざけるな! なんでもありかよ、そんなのッ!」
覚醒者の絶叫が、血生臭い戦場に響き渡る。混乱し、余裕を失った奴の瞳に、俺は冷徹な視線を突き返した。
「お前が言うな。……いいか、ナンバーズはただの改造人間だ。覚醒者(お前)と違って能力を無限に使えるわけじゃねぇ。だが――」
俺は、再生しきった左腕を力強く握り込み、一歩踏み出した。
「……死ね、死ねぇッ!!」
覚醒者が狂ったように左のポケットに手を捻じ込む。刹那、俺の『口内』から、冷たい鉄の塊を握った「手」が突き出した。引き金が引かれる。至近距離。弾丸が俺の喉の奥を、頭蓋を貫こうと放たれた。
だが。
「……ごほっ、ふぅ……」
貫かれたはずの傷口から、再び猛烈な蒸気が噴き出した。弾丸を肉が押し出し、骨が接合され、粘膜が再生する。数秒。たった数秒で、俺は無傷のまま、奴の目の前に立ち続けていた。
「拳銃も隠してたのかよ。……それ、最初から使っておくべきだったな。もう俺には、お前の『隠し玉』は一つも効かねぇぜ」
「な……ッ、ば、化け物がッ!!」
覚醒者が恐怖に顔を歪め、後ろへ下がる。逃がさねぇ。俺は、奴の逃走経路を塞いだ。
「だったら、直接叩き潰してやるッ!!」
自暴自棄になった奴の拳が、俺の顔面へと放たれる。だが、俺はその拳を、正面から右手でガシリと受け止めた。
「……無駄だ。俺は今、完全回復してる。さっきは片腕を折られてたから押されてやっただけだ」
俺は奴の拳を握り潰すような力で押し返し、そのまま左の拳を奴の顎へと叩き上げた。
「確かに覚醒者は、素のスペックが高いかもしれねぇ。……だが、俺とお前の『人間としての強さ』は、俺のほうが遥かに上だ。お前はただ、力に溺れただけの亡霊に過ぎねぇんだからな」
「で、でもな……! お前だって俺っちを殺す方法はないだろ! 俺っちの再生力だって、お前に負けないくらい凄いんだ!」
覚醒者の往生際の悪い叫び。奴は自分の『不死身』という檻の中に逃げ込もうとしている。
「ああ、そうだな。……だが、お前に『参った』と言わせることなら、今すぐできるぜ」
「絶対に言わない! 俺っちはここに復讐しに来たんだ! 俺っちを捨てた研究所、俺っちの席を奪ったNo.1……何もしないで帰れるかよぉッ!!」
奴の絶叫には、選ばれなかった者の血を吐くような悲哀が混ざっていた。その慟哭を受け止め、俺は静かに、けれど重い言葉を返した。
「ああ、そうだな。この研究所は確かにクズだ。……死刑囚ならまだしも、普通の人間まで改造人間に……。お前の復讐は、俺が引き継いでやるよ」
「な……ッ!?」
「ガイアを倒し、災厄を止めたら、俺がここをぶっ壊してやる。……だから、安心してお前の場所へ帰れ」
覚醒者が再び、震える手でポケットの中へ手を伸ばそうとする。往き場のない殺意が空間を歪めようとした、その瞬間――俺は奴の懐へ飛び込み、その太い首筋を鷲掴みにした。
「はぁ……仕方ねぇな。ちょっと苦しいぞ」
イモリの遺伝子。その副産物である猛毒――テトロドトキシン。俺はそれを自分の指先から、奴の神経系へと直接注入した。
「う、わぁあッ!? 痺れ、が……痛ぇ! 身体が、動かねぇ……ッ!!」
「しばらくは苦しい時間が続くかもしれない。……だが安心しろ、お前は覚醒者だ。こんな毒じゃ死ねやしねぇよ。……ただ、しばらくの間、呼吸するのも忘れるくらいの地獄を味わうだけだ。」
膝から崩れ落ち、痙攣する男を見下ろして、俺は深く息を吐いた。蒸気が晴れていく。俺たちの前に立ちはだかった最初の「壁」が、今、沈黙した。
「戻るぞ。トオルがいつ来るか分からねぇしな」
俺は再生した腕を回しながら、研究所へと背を向けた。
「おっけー。No.2のやつ、まだ寝たふりしてるかな?」
「ああ。……まぁ、いいだろ。勝手に逃げ出されるよりはマシだ」
俺たちの背後で、毒に侵され、泥を啜る覚醒者が、震える手でポケットの中をまさぐっていた。
「こんな……無様に、帰れるかよ……ッ。一矢報いて……やる……!」
奴の指先が、最後の「隙間」をこじ開けようとした、その時だ。
「あら。……あなた、私のアレン様を傷つけたわね?」
軽やかな、鈴の鳴るような声。エントランスに場違いなほどの笑顔を浮かべたシオリが、音もなく覚醒者の目の前に立っていた。
「な、なんだ……お前、は……ッ」
覚醒者がシオリを視界に入れた瞬間、奴の身体が、まるで鉄の枷を嵌められたように硬直した。負の感情――奴の抱いた『殺意』が、シオリの能力によって奴自身の自由を奪い、呪縛へと書き換えたのだ。
「私、怒っているのよ。だから……あなたが二度と再生なんてできないように、無様に殺してあげるわ」
「ひ、ひぃ……っ!」
「覚醒者の弱点は、脳なんですってね。……トオルに聞いたわ。そこさえ潰せば、私たち覚醒者は再生を諦めるそうよ」
シオリは微笑を絶やさぬまま、動けない男の頭部へと足をかけた。そして、愛する人を傷つけられた憎しみをすべて込めて、その細い踵で――躊躇なく、全力で踏み抜いた。
「死んだのはあなた自身のせい。……あなたが私のアレン様に手を出さなければ、死なずに済んだのに」
シオリは冷徹な一言を遺し、血に濡れた踵を無造作に払った。
そして、今しがた脳を蹂躙したばかりとは思えない足取りで、俺の背後へ忍び寄る。
トントン、と肩を叩かれた。俺が反射的に振り向いた瞬間――柔らかい感触が、俺の頬をチョン、と突いた。
「な……シオリか。お前、いつの間に……。というか、その指、いつまでつけてるつもりだ」
俺が困惑して顔を歪めると、シオリは満面の笑みで、俺の瞳を真っ向から見つめてきた。
「私たちが結婚して、死ぬまでよ!」
「な……なんだと? 結婚……?」
「デートの約束はしたわ。次は婚姻届の受理ね。プロポーズの準備はできているわよ?」
あまりのスピード感に、俺の思考回路がバグを起こしかける。
「デートの約束はした! だが、結婚なんて話は知らんッ!」
「えっ!? No.1、おめでとう。……えーっと、ご祝儀っていくら渡すのが正解なんだっけ?」
空気を読まずに会話に割って入ってきたのは、レイだ。あいつは指で顎を触りながら、極めて真面目な顔でシオリに問いかけた。
「300万よ!」
「おい、ふざけるな!」
「300万……。なるほど、ガイアを倒して国家を転覆させれば、そのくらいの端金、どこからでも調達できそうだね」
レイとシオリが、楽しそうに笑い声を上げる。さっきまで命のやり取りをしていた場所で、300万の祝儀の話なんて。
「はぁ……。コイツら、本当に……」
俺は深いため息を吐き、それでも少しだけ軽くなった足取りで、二人の後を追った。
コメント
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第23話、めっちゃ熱かったです!アレンの冷静な強さと“人間としての強さ”の差を見せつける語り口が痺れました。でも何より、シオリさんの“私のアレン様”発言からの豹変&一蹴が怖いほどカッコよかった…!あの後のデート→結婚→300万の祝儀の流れ、戦場の直後の温度差が逆に笑えて好きです。次、トオルがどう動くか気になりすぎますね。