テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「よ、よし……! 寝たふり最高だ。……あの二人、大丈夫かな。もし、あの二人がいなくなっちゃったら、誰がボクを守ってくれるんだよ……」
部屋の外から、そんな情けない独白が漏れ聞こえてくる。僕は隣を歩くアレンと視線を合わせた。アレンは呆れたように肩をすくめ、そのまま扉を乱暴に蹴り開けた。
「おい、No.2! ぐっすり眠れたか?」
「ひ、ひゃああッ!? あ、あ、アレン君! …………あ、違う、あ……。ごめんね、ボク、一度寝るとなかなか起きられない体質なんだよぉ!」
カケルが跳ね起き、必死に言い訳を始める。その目は泳ぎ、声は震えている。
「No.1と言え。何度言ったらわかるん
だ、お前は」
アレンは深い溜息を吐き、無造作にベッドの端へ腰を下ろした。嘘が下手だなぁ……。まぁ、いいか。ちゃんとアレンは勝利を掴んで戻ってきたわけだし。
「……ねぇ、No.2。そんなに深く眠っていたなら、どんな夢を見たの?」
僕がわざと意地悪く問いかけると、カケルは一瞬フリーズし、脳内をフル回転させて、とんでもない回答を弾き出した。
「あ、あ、あのね……ボクが『スーパーボール』になって、街中を暴走する夢をみたんだ! どこまでも跳ねて、誰にも止められないんだよ、すごいでしょ!?」
「ははは! すごい。面白いね、No.2」
僕が思わず笑ってしまうと、カケルは調子に乗ったように胸を張った。
「でしょ! いやぁ、いい夢見たよ……。そ、それとアレン君……じゃなくてNo.1! 無傷なんて、流石だね!」
「あのな、お前……。腕は折られたし、喉は引き裂かれて死にかけたんだよ! 薬を飲んで能力を強制起動させて、ようやく勝ったんだ!」
アレンの怒号が響く。だが、カケルは反省するどころか、喉の奥でボソリと本音を漏らした。
「(……よ、よかった。行かなくて……)」
「聞こえてるよ、No.2」
僕が冷徹に指摘すると、No.2は
「ひっ!」
と短い悲鳴を上げ、矛先を逸らすようにシオリへと目を向けた。
「し、シオリさん! 相変わらず、今日もお美しいですね! その笑顔、最高です!」
「……あなた、私の嫌いなタイプだわ」
シオリは表情一つ変えず、ゴミを見るような視線をNo.2に向けた。
「ひ、酷すぎませんか!? 褒めたのに、そんな……!」
「あなた、初めて会った時、私を蹴り飛ばしたじゃない。……忘れたとは言わせないわよ?」
「お、覚えてません! 全然記憶にございませんッ!」
シオリの瞳に、先ほど覚醒者の脳を踏み潰した時と同じ「殺意」が宿る。
それを見たアレンと僕は、全く同じタイミングで声を揃えた。
「「最低だ、コイツ……」」
その時。背後の扉が音もなく開き、静かな、けれど全てを見透かしたような声が響いた。
「お待たせしてすみません。皆さん、集まっていますね」
トオルだ。彼は、僕たちが今しがた死線を越えてきたことなど、関係のないような穏やかな表情でそこに立っていた。
「みんな、ちゃんといるよ。……君の言う『三日後』に来た覚醒者を倒した、No.1が」
僕がそう答えると、トオルは真っ直ぐにアレンへと視線を向けた。
「アレンさん、本当にお疲れ様でした。あの『隙間』の能力者に自力で勝つとは……。よく、勝ち抜きましたね」
トオルの言葉には、偽りのない称賛が含まれているように聞こえた。
「初見みたいな反応しやがって。お前には『予知』で見えてたんだろ? 俺が死ぬギリギリまで足掻いて、泥を啜りながら戦った姿が」
「……確かに、結果は見えていました。ですが、アレンさん」
トオルは穏やかな、けれどどこか畏怖を感じさせる瞳でアレンを見据えた。
「あなたの『勝つまで戦う』という強烈な意志や、あの土壇場で見せた覚悟までは、予知では測りきれませんよ。……未来は、あなたの心までは縛れない」
「……そうか」
アレンは短く答え、視線を逸らした。照れ隠しなのが丸わかりだ。トオルは満足げに頷くと、空気を切り換えるように手を高く掲げた。
パァーンッ!
乾いた音が研究所の静寂を支配する。
「さぁ。それでは、この世界の災厄を防ぐための第一ステップ――『ガイア国家転覆作戦』についてお話ししましょうか」
思わず、喉の奥が鳴るのを感じた。いよいよか……。
「……なんだか、少し緊張するね」
僕が正直な感想を漏らすと、アレンは拳を強く握り込み、不敵な笑みを浮かべた。
「そうか? 俺は今、最高に燃えてるぜ。……スーパースターの復帰戦には、国家の一つや二つ、消し飛ばすくらいが丁度いいだろ?」
アレンの不敵すぎる宣言に、僕が顔を引き攣らせながら問いかけた。
「……ねぇ、本当にNo.1は『覚醒者』じゃないの?」
「違えよ!」
アレンが吠える中、トオルが静かに、空気を塗り替えるように話し出した。
「まず、皆さんも知っている通り、この国の王ガイアは、中枢都市クワトルシティにそびえ立つ巨大なビルに住んでいます。しかし、そこは他の都市とは比較にならないほど警備が厳重です。物理的な破壊を試みようにも、まずは無数の兵士が守る強固な門を突破しなければなりません」
「あぁ? そんなもん、俺が真正面からぶち破ってやるよ」
「「そーだそーだー!」」
アレンの脳筋発言に、シオリとカケルが思考を放棄して声を合わせる。
だが、トオルの視線は冷徹だった。
「あのですね、そこにいる兵士や街の住人は、何も知らない善良な方々なのですよ? あなたたちは、彼らの命を危険に晒すつもりですか?」
「……そうだよ、No.1。無駄な殺生は僕もしたくない。君だって、そうだろ?」
僕が諭すように言うと、アレンはちっと舌打ちをして、腕を組んだ。
「……まぁ、確かにな。俺がスーパースターに戻った時、ファンが減るようなバッドエンドは避けたいからな」
「「そーだそーだー!」」
再び響く、無責任な二人の合唱。僕は溜息を吐きながら、トオルの次の言葉を待った。クワトルシティ。善良な市民。そして、最強の女王ガイア。
この難攻不落のパズルを前に、トオルが淡々と解決策を展開し始めた。
「まず、シオリさんとアレンさんがカップルのふりをして街に潜入します。アレンさんがナンバーズになった事を知る者は、政府の中枢以外にはまだ少ないですからね」
「……僕は?」
僕が問いかけると、トオルは少しだけ困ったように肩をすくめた。
「レイさんは、あの死刑台騒ぎでニュースになり、もう世界的な有名人です。あなたが門を通れば、その瞬間に警報が鳴り響くでしょう」
僕が納得するのと同時に、隣でシオリがこれ以上ないほどの喜びを爆発させ、ステップを踏みながら踊り始めた。対照的に、アレンの顔からは急速に血の気が引いていく。
「か、カップル……? ふざけるな、嫌だ、断るッ! 」
「ダメです。これが最も勝利に近いルートですから」
トオルが珍しく断固とした口調でアレンの拒否権を却下した。勝利を確信したシオリが、アレンの腕に絡みつきながら、甘い毒を含んだ声を上げる。
「決まりね! じゃあ、あっちでは『アーちゃん』って呼ぶわね! うふふ、結婚の予行演習だわ♡」
アレンが静かに、そして深く落ち込み、床に膝をつく。
「潜入したお二人には、クワトルシティの中枢にあるテレビ塔をジャックしてもらいます。そしてシオリさんの能力を電波に乗せ、街中の兵士、さらには市民全員を物理的に動けなくしてください。……その後、レイさんとカケルさんが正面から突入。これがワタシの導き出した最短の正解です」
「……テレビ塔を、ジャック」
市民を傷つけず、けれど一瞬で国家の機能を停止させる。トオルの予知と、シオリの「負の感情を縛る」能力を掛け合わせた、あまりに理不尽で完璧な作戦。
「……ねぇ、アーちゃん! クワトルシティには、絶品のイチゴスイーツがあるらしいの! 一緒に食べましょ! 」
シオリが、落ち込むアレンの背中に抱きつきながら、無邪気な欲望を爆発させる。トオルが少しだけ眉をひそめ、冷めた声を響かせた。
「……あの、シオリさん。僕の話、聞いてます?」
「「そーだそーだー!」」
いつの間にか復活したカケルが、シオリの勢いに乗じてまた無責任な合唱を始めた。
落ち込むアレン。踊るシオリ。呆れるトオル。そして、調子に乗るカケル。
「……はぁ。このメンバーで国家転覆、ね。予知があるとはいえ本当に大丈夫かな……」
コメント
1件
ぽたおさん、第24話読みました! いやあ、今回もカケルの情けない寝たふりとスーパーボールの夢、最高でした(笑)。でもその裏で、ちゃんと「行かなくてよかった」と本音を漏らす弱さも見えて、なんだか憎めないキャラですね。トオルの「未来は心までは縛れない」って台詞、すごく好きです。予知があるからこその重みと、アレンの泥臭い意志の対比が光ってました。国家転覆作戦、カップル潜入って…シオリさんの殺意と狂喜が怖いやら面白いやら。次が待ち遠しいです!
#貴種漂流譚