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「ごめんね、アキミチ君」気まずそうにユカリが言う。
「キミちゃん、今日は具合が悪いみたいで……」
そこでようやく、うちは思い出す。
そうだった、アキミチ君だ……。隣町の学校の生徒でユカリがネットで見つけた怪談系動画配信者の。登録者数は確か10万人ぐらい。動画配信の世界に疎いけど、それがなかなかすごい数字であることぐらいは分かる。
活動範囲と言うか、住居も近いということで面白い怪談を自分たちの前で披露してくれないか、とダメ元で頼んだのだった。
やらかした、とうちは思った。体質の問題で前後不覚に陥ることはしょっちゅうだけど、こんなタイミングで……。
「……キミちゃん。アキミチ君には悪いけれど今日は中止にさせてもらう?」
心配そうな声でユカリが言った。
「お父さんに連絡して、学校まで迎えに来てもらおっか?」
「ごめん……。もう大丈夫やわ……」
バツの悪さに耐えながら、うちは二人に小さく頭を下げていた。
「それにお父さん、今日は家におらんし……」
「そうなんだ。やっぱり、今日もお勤め?」
「……うん。昔、不審火で全焼した、東京のタワーマンションをお祓いすんねんて」
「お祓い?」うちらの会話にアキミチ君が割り込んで来る。
「お祓いって……。キミカちゃんのお父さんって神職さん?」
「言ってなかったっけ? キミちゃんは童ノ宮って言う神社の子なの」とユカリ。
「塚森家って言って童ノ宮の大地主でもあるし。お嬢様なんだよ、キミちゃんて」
「い、いや、うちはそう言うんちゃうから……」
「へー。なるほどなるほど。……あっ、童ノ宮ってこの街と名前が同じだよね?」
逆や。お社が先で、街がその名前を受け継いでいる。
元は確か、湯山だったはず。
「すごいんだよ、童ノ宮って。平安時代末期に建立された由緒正しいお社だし、国宝にも指定されてるし。お祀りされている神様が、ええっと……」
「カガヒコノミコト」ユカリに話を振られうちは答える。
「天狗の神様、秋葉三尺坊大権現の化身。もしくは生まれ変わりとされる稚児姿の神様。……最近だとネットの影響で、稚児天狗って言う通り名のほうが有名やけどね」
街の観光案内所に置かれているパンフレットの内容をそのままうちは説明していた。
「ふーん。なるほどね」
顎に手を当てアキミチ君がうなづく。
その顔には相変わらずニヤけた表情。なんか、イラつく。
「随分と耐性のある子だと思ったら御神徳が備わっていた、ってことか」
「……ゴシントク?」聞きなれない言葉にユカリが首を傾げる。
「いや、こっちの話だから。気にしなくていいよ。そんなことより――」
言ってアキミチ君はちらりと窓の外を一瞥する。赤い夕陽に照らされた口元がいびつに歪んだ……気がした。
「そろそろ日の入りだね。このシチュエーションに相応しい、とっておきの怪談話を披露させてらうよ」
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