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柊が花梨を連れて行ったのは、町はずれの大きな公園に面した土地だった。

更地となった土地の前で車を停めると、二人は車を降りた。


「ここは?」

「道路用地で立ち退きになる、喫茶店店主のお客様の代替え用地だ」

「ああ、幹線道路の拡張で立ち退きを余儀なくされた宮本様の案件ですね」

「うん。ずっと代わりの土地を探していたが、なかなか気に入る場所がなくてね。立ち退きの期限も迫っているし、そろそろ決めなければと思っていたところへここが売りに出たので、どうかなと思って。この場所を、君はどう思う?」

「ちょっと見てもいいですか?」

「どうぞ」


花梨はゆっくりと土地の周囲を歩き始めた。

道路の向かい側には、区営の大きな公園が広がっている。更地に面した部分は、生い茂った木々が森のようになっていた。その木々は、どれも紅葉が美しい落葉樹ばかりだ。


(植生が高原のようだから、借景としても良さそう)


そう思いながら、花梨は反対側へ歩いていった。すると、斜め前にお洒落な生花店があることに気づく。

その生花店は、雑貨も並ぶお洒落な雰囲気で、店の外観も洗練されていた。


(静かな住宅街にこんな素敵なお花屋さんがあるなんて……)


そう思いながら、花梨は生花店まで歩いて行き、店先に並べられた鉢植えを覗き込む。


(わぁ……ハーブの苗がいっぱい! 珍しい種類のハーブも取り揃えているのね……すごくいい香り……)


ハーブの資格も持っている花梨は、嬉しくて思わず笑顔になる。

その時、店の中から店主が出てきた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは! ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「もちろん! どうぞごゆっくり」


花梨よりも少し年上と思われる女性店主は、優しく微笑みながら言った。

そこで、花梨はふとひらめき、店主にこう尋ねた。


「この辺りに、カフェってありますか?」


突然の質問に、一瞬驚いた表情を見せた店主だったが、すぐににっこりと微笑み答える。


「昔、一つ向こうの通りに素敵なカフェがあったんですが、お店の方がご高齢になり店を畳んでしまったんです。だから、この辺りにはカフェがなくなっちゃったんですよ」

「そうなんですね」

「私も休憩時によくそのカフェを利用していたから、なくなってからはすごく不便で……。うちに来るお客様たちも『また誰かこの辺りでカフェをオープンしてくれないかしら~』って、いつも言ってるんですよ」

「そうなんですか!」

「ええ。ほら、この少し先に、カルチャーセンターがあるでしょう? そこの生徒さんたちも、レッスンの帰りにおしゃべりする場所がなくなっちゃったみたいで、私に『花屋をやるついでにカフェもやってよ』なんて言われるんですけど、そんな無茶ぶりされてもね~」


店主はそう言って、困ったように微笑む。


「なるほど! じゃあ、この辺りにもしカフェができたら、繁盛しそうなんですね?」

「ええ、そう思います」


店主の言葉に、花梨は満足そうに頷いた。


その時、小さなハーブの鉢植えが花梨の目に留まる。


「わ、ローズマリー! まだ売ってるんだ!」

「ええ。夏に仕入れた分の残りですが……」


花梨は小さな鉢植えを手に取り、鼻を近づける。


「わぁ、いい香り!」

「ふふっ、ローズマリーはお料理にも使えるし、いかがですか? 半額にしますよ!」

「半額? わあ、お買い得! じゃあ、いただきます!」


花梨は即決して、バッグから財布を取り出そうとした。

その時、彼女の後ろからにゅっと大きな手が伸び、店主にクレジットカードを渡した。その手は、柊の手だった。


「これで、お願いします」

「ありがとうございます。では、今お会計をしてきますね」

「課長!」

「いい情報を入手したご褒美だ」

「でも、この前もコーヒーをご馳走してもらったのに……」

「気にするな。ただし、社に戻ったら自分で買ったと言えよ」

「本当にいいんですか?」

「ああ」

「すみません、ありがとうございます」


花梨は恐縮しながら礼を言った。


しばらくすると、綺麗にラッピングされたローズマリーの鉢植えが、花梨の手元にきた。


「わあ、かわいい」

「お買い上げありがとうございました」

「こちらこそ、いろいろとお話聞かせていただき助かりました」


二人は店主に挨拶をすると、更地の前に停めてある車へ戻った。


柊が運転席に座ると、助手席からほんのり良い香りが漂ってくる。


(この香りは……)


それは、初めて花梨とすれ違った時に感じた香りとよく似ていた。

気になった柊は、花梨に聞いた。


「この香り、君の香水とよく似てるね……」


その言葉を聞いて、花梨が一瞬驚いた顔をした。


「課長! 鼻がいいですね! 実は、私がつけている香水も、ローズマリー系なんです」


そこで、柊はやっと香水の謎が解けた。


「そうか……あまり嗅いだことがない香りだから、珍しいなと思ってたんだ」

「あ、たしかに。これは、自分でハーブオイルを調合して作ったオリジナルなんです。ナチュラルであまりきつくない香りだから気に入ってるんです」


花梨は微笑みながら言うと、膝の上に乗せているローズマリーの鉢植えに再び鼻を埋めた。


(ナチュラルな香りか……女性の香水なんて今まで気にも留めたことがなかったが、これはいい香りだ……)


柊は思わずフッと微笑むと、エンジンをかけて車をスタートさせた。


しばらくすると、花梨は急に浜田家を出た時のことを思い出し、心配そうに柊に尋ねた。


「課長! 浜田さんの案件……村田トラストに奪われたりはしないでしょうか?」

「心配するな。浜田様なら、きっと大丈夫だ」

「それならいいのですが……」


卓也と莉子の姿を思い返しながら、花梨は少し憂鬱な気分で窓の外をじっと見つめた。

城咲課長は鉄壁女子社員を甘やかしたい

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