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悪霊退散できてよかった👍
名取美沙 縁故で入った 事故物件 流刑地扱いのデータセンターの皆さまにお悔やみ申し上げます。
縁故でも悪いことをした人は島流し....社員を守ってくれる 本当に素晴らしい会社ですね✨ 名取美沙さん、サヨウナラ~👋👋 電車でも、タクシーでも 社用車でもなく、省吾さんの車の助手席に乗せてもらう奈緒ちゃん....♡ 本人は全く気付いてないけれど、完全に恋人扱いだよね⁉️💕💕ウフフ🤭
オフィスビルを出ると、省吾は裏通りへ向かう。
面接の日に省吾が奈緒を見かけたあのカフェのある通りだ。
奈緒は電車で移動するものだと思っていたので、駅の反対方向へ向かう省吾を見て不思議に思った。
その時、カフェを指差しながら省吾が言った。
「奈緒は面接の日、あのカフェにいたよね?」
「え? なんでご存知なのですか?」
「ハハッ、実は俺もあの時あのカフェにいたんだ」
「全然気付きませんでした」
奈緒は驚く。
あの時は面接前の緊張で周りを見る余裕すらなかった。
もし省吾に気付いたら、自分は声をかけていたのだろうかと奈緒は思う。
そして今奈緒は、あの時偶然海で出逢った人が経営する会社で働いていた。
そこに不思議な縁を感じた。
省吾と出逢ったあの雪の日が、なんだか遠い昔のように感じられる。
カフェの前を過ぎて10メートルほど歩くと、左手にコインパーキングがあった。
省吾はそこへ入り料金の精算をする。そこで漸く奈緒は車で行くのだとわかった。
清算を終えた省吾は、奥に停まっていたアメリカ製EV車の方へ向かう。
その車は一時期世間でかなり話題になっていた。車を運転しない奈緒でも知っている。
流線型のスタイリッシュな車体は、まるでアメリカのSF映画に出てくる車のようだ。
品のあるシルバーメタリック色が、さらに高級感を増している。
「海で乗っていたのとは違う車?」
「うん。普段乗るのはSUV車なんだけど、これは話題の車だったんでちょっと試しに乗ってみたくてね。でも近々手放そうかなと思ってる」
「えっ? まだ新しいのに?」
「うん、乗ってみてわかったよ。やっぱり日本にはハイブリッド車の方が向いているかな?」
そして省吾は助手席のドアを開けてくれた。
「失礼します」
奈緒が車に乗り込んだ瞬間、新車の香りが漂ってくる。
シートベルトを締めた奈緒は車内を見てびっくりした。
この車の運転席には、普通の車にあるような機器類が全くついていない。ハンドル以外にある物と言えば、インパネ一つだけだ。メーター類は全てこのインパネに集約されているようだ。
(凄い……こんなの初めて見たわ……)
奈緒が驚いていると、省吾は運転席へ乗り込みエンジンをかけた。とても静かな音だ。
それから車はスムーズに街を走り始めた。
省吾は時折インパネを指でタッチしている。奈緒が珍しそうに覗き込むと省吾が言った。
「EV車は初めて?」
「はい。凄く静かでびっくり! 乗り心地もいいですね」
「アメリカ製のEV車は凄いよな。ところで奈緒は運転するの?」
「免許は持っていますが、ペーパードライバーです」
「そっか」
省吾は頷くと軽快にハンドルを握る。
「海で会った時、家は近くだって言ってたよね? あの辺から前の会社まではかなり距離があっただろう? なぜあんな遠くに?」
「あの町には大学時代から住んでいたんです。それに実家が千葉の海の近くなので海の傍だと落ち着くっていうか…。だから引越さなかったんです」
「そっか。奈緒は海好きなんだね」
「はい」
車は国道を西へ向かって走り続けた。
省吾は運転が上手く乗り心地は最高だった。
窓の外に流れる景色を見ながら、奈緒は車に乗るのは久しぶりだという事に気付いた。
最後に乗ったのはいつだろうか?
おぼろげな記憶を辿っていくと、徹と新居を探す為に都内を回ったのが最後だった事がわかる。
その時奈緒は気付かなくていい事に気付いてしまった。
自分の指定席だと思っていた徹の助手席に、最後に座った女が三輪みどりだという事に。
その瞬間、奈緒の心がズキンと痛む。
奈緒が急に静かになったので、省吾はチラリと助手席を見る。すると奈緒が沈んだ顔をしていた。
そこで省吾はあえて明るく言った。
「そういえば、君の噂を流していた犯人を見つけたよ」
奈緒は急に現実に引き戻された。
「誰だったんですか?」
「人事部の名取美沙って知ってる?」
「あ、はい。たしか採用面接の時に案内してくれた人ですよね? えっ、まさか彼女が?」
「うん、本人にはまだ言ってないけど、聞き取り調査でほぼ彼女だと断定出来た」
「でもなぜ?」
「君が前に勤めていた会社に知り合いがいたみたいだな。彼女は秘書になりたがってたから、奈緒の事を蹴落としたかったんだろう」
「なんでそんな事を……」
「呆れちゃうよな。おまけに被害者は奈緒だけじゃないんだ。今まで秘書の採用面接に来ていた人達をことごとく排除していたんだ。いやぁ参ったよ……」
奈緒には美沙の行動が全く理解出来なかった。
「それで彼女は今後どうなるんですか?」
「とりあえず西東京にあるデーターセンターへ異動してもらうよ。でも俺の予想だと多分辞めるだろうな。彼女は元々縁故入社だったから」
「…………」
奈緒は思わず言葉を失う。
「まあそういう事で、もう変な噂は流れないので安心して下さい」
「はい、ありがとうございます」
奈緒は省吾にぺこりとお辞儀をした。
エレベーターの中でエンジニアの井上が言っていた通り、会社は奈緒を守ってくれた。
まさに井上の言った通りだ。
奈緒はその事実に感動のようなものを覚える。
気付くと大きな公園だろうか? 窓の外には森が見える。
都心を離れたこの地域には、今でも豊かな緑が残っていた。
奈緒が新緑の美しい木々に見とれていると、やがてプレハブのような大きな建物が見えてきた。
そこが目的の物流センターだ。
「ここが昭和運輸の物流センターだ。昭和運輸は今業界第三位なんだけど、これからうちと組む事で五年以内には業界一位へ跳ね上がると思う。今日は昭和運輸の社長も来ているからそのつもりで」
「わかりました」
車が駐車場へ停車すると、二人は車を降りて物流センターの入口へ向かった。