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二人が入口の傍まで行くと、建物の脇に事務所があった。

その時事務所の中から60歳前後の男性が姿を現し、二人の傍へやって来た。



「深山さん、お忙しい中わざわざありがとうございます」



グレーのスーツを着た白髪交じりの男性は、省吾に声をかける。

男性の隣には、奈緒と同じくらいの年の女性が立っていた。

奈緒は一瞬社長付きの秘書かと思ったが、女性の華やかな装いを見て違うと判断する。

秘書にしては服装が華美過ぎる。



「西田社長、今日はよろしくお願いします」



すると西田は笑顔で頷いてから、奈緒を見た。



「こちらは?」

「秘書の麻生です」

「初めまして、麻生と申します。本日はよろしくお願いいたします」



奈緒は丁寧にお辞儀をする。すると西田は驚いた顔で言った。



「ほぉ~、深山さんが有能な秘書を探しておられるのは知っていましたが、漸く決まったんですね? だったらちょっと遅かったなぁ~。いやね、深山さんが秘書を探しておられると聞いて、うちの娘が是非にと言いましてね。で、今日連れて来てみたんですが一歩遅かったなぁ」



西田はそう言って豪快に笑った。



「それは大変申し訳ありません」

「ハハッ、いいんですよ。ただ少し残念だなぁ……うちの娘は秘書の資格とやらを持っているみたいなんでねぇ」



西田はそう言って隣にいる娘に聞く。



「お前が持ってるのは何級だったかな?」

「2級ですわ、お父様」



そこで娘が自己紹介を始めた。



「初めまして。西田玲香(にしだれいか)と申します。今日は深山さんにお会い出来るのを楽しみにしておりました」



玲香は白地に赤の花柄のワンピースを着た華のある美人だった。

ワンピースの胸元は深く開いたカシュクールで、玲香の豊満な胸が見事に強調されている。

しかし倉庫のような物流センターでは、その服はかなり浮いて見えた。



「初めまして、深山です」



奈緒も省吾の一歩後ろで頭を下げた。


省吾に真正面から見つめられた玲香は頬をポッと赤く染めている。そしてうっとりとした表情で省吾を見つめ返した。



(凄い……美人の社長令嬢を秒殺で落とすなんて……)



奈緒は思わずごくりと唾を飲み込む。



それから省吾と奈緒は、西田親子の案内のもと物流センター内の見学を始めた。

倉庫の中には大きなラックがいくつも配置され、その上には全国から集まって来た荷物が載っていた。

荷物は配達の日付ごと、住所ごとに区分されている。


省吾達が見学している間も、倉庫の出入口には大きなトラックが横付けされ、沢山の荷下ろしをしている。

届いたばかりの荷物は、待ち受けていたスタッフの手により次々と運ばれていく。

大きな荷物は台車に載せてから、ガラガラと大きな音を立てて所定の位置へ運ばれていった。


四人は作業をするスタッフ達の邪魔にならないよう見学を続けた。

説明をする西田が先頭を歩き、その後ろを省吾が歩く。

玲香は省吾の隣にぴったり寄り添うように歩いていた。

そして三人の少し後ろを奈緒が歩く。

奈緒は見る物全てが珍しく、キョロキョロとセンター内を興味深げに見ていた。


奥の一角に、小型の荷物やダイレクトメール便などを仕分けするブースがあった。

このブースのスタッフはほとんどが女性のパートで、30代~60代くらいの女性達がエプロンをつけて働いていた。

女性達の前には気が遠くなるような膨大な量の荷物や郵便物が置かれている。

果たして今日一日で全ての仕分けが終わるのだろうかと奈緒は疑問に思う。



奈緒はここに来るまで、今まで普通に利用していた宅配便の荷物が一つ一つ手作業で分別されているとは知らなかった。

てっきりベルトコンベアーに載せるだけで、勝手に自動で仕分けられるのだと思い込んでいた。しかし違った。

今後人手不足が深刻化していく中、このまま人力だけに頼っていると破綻は目に見えている。

だからこそ、省吾の会社が開発した物流システムが必要なのだ。

若いエンジニア達が作ったAI主導の物流システムは、全てがオートメーション化されているのでほぼ無人に近い状態で稼働出来る。

もちろん仕分けの時間は短くなるし人件費も削減出来る。

物流会社がこのシステムを取り入れれば配達料金の値上げの必要はなくなり、顧客に対しより良いサービスを提供できるのだ。



奈緒は今日現場へ視察に来てみて、今自分の会社が形にしようとしているものについてを知る事が出来た。



(来てよかった)



見学を全て終えた二人は、その後事務所へ案内される。

省吾と奈緒が並んで座った向かいに、西田親子が座った。

早速省吾と西田は、システム移行の工事日程とうの打ち合わせを始めた。


男性二人の会話が弾む間、女性二人は少し手持無沙汰になる。

そこで玲香が身を乗り出して奈緒に話しかける。



「深山さんの秘書はいつからですか?」

「二ヶ月前からです」

「あら、じゃあまだなったばかりなのね」

「はい」



そこで玲香は隣で話し込んでいる二人をチラリと見た後、更に奈緒に顔を近づけ小声で聞いた。



「深山さんって、おモテになるでしょう?」



いきなりそんな質問が飛んできたので奈緒はびっくりする。

まさか省吾のプライベートについて聞かれるとは思ってもいなかった。



「プライベートに関する事は、ちょっとわかりかねます……」



奈緒はなんとか誤魔化して逃げようとする。しかし玲香は諦めない。



「そうなの? でも恋人の有無くらいはわかるんじゃありません? だって会社に電話とかかかってくるでしょう?」



その問いになんと答えようかと奈緒が悩んでいると、突然省吾の声が飛んできた。



「玲香さん、彼女にその質問は愚問ですよ」



玲香はビクッとして省吾を見る。

まさか自分達の会話が聞かれているとは思いもしなかった玲香は慌てて言った。



「なぜ愚問ですの?」

「ハハッ、実は彼女が私の恋人だからですよ」



その瞬間、西田親子は驚きのあまり口をあんぐりと開けた。

もちろん奈緒も驚いていた。まさか取引先に交際宣言をするとは思ってもいなかったからだ。


そこで西田が声を出して笑い始めた。



「ハハハハッ、なんだ~そういう事でしたか。なんとまぁめでたい! なっ、玲香?」

「え? ええっ……」



玲香はなんともバツの悪そうな顔で返事をした後、急にこんな事を言った。



「わたくしこの後用事がありますので、お先に失礼させていただきますね」



玲香は省吾と奈緒に向かってお辞儀をすると、そそくさと事務所を後にした。

逃げるようにその場を後にする娘を見ながら、西田はため息をついた。

そして省吾達に話し始める。

銀色の雪が舞い落ちる浜辺で

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コメント

25

ユーザー

気転が早い(о´∀`о)省吾さんだ事♪

ユーザー

省吾さんは仕事が早い😆 すぱーんと邪魔者を切り落としw

ユーザー

大丈夫なのか、昭和物流。

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