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すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
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刑事告発を希望する。
報告書の末尾には、確かに母の署名があった。
水城千佳。
何度見ても変わらない。
「母が、奈緒さんを警察に突き出そうとしていた……」
私は呟いた。
真壁刑事が書類をめくる。
「日付は六月十日。相原奈緒さんが亡くなる十一日前です」
「内容は本当なんですか」
「まだ分かりません」
「会社のお金を不正に送金していたって」
私は振込記録を見る。
毎月二十八万円。
振込先は、A-07。
処理担当者は相原奈緒。
数字だけを見れば、疑われても仕方がない。
榊原が静かに言った。
「奈緒さんは否定してた」
「何て?」
「自分は命令された通りに処理しただけだって」
「誰に命令されたんですか」
榊原は高瀬の名前を口にしなかった。
でも、全員が分かっていた。
録音には残っている。
高瀬は奈緒に命令していた。
事故を起こすことまで。
真壁が黒い袋の中から別のファイルを取り出した。
「まだあります」
表紙。
相原奈緒 事情聴取記録
社内調査の記録だった。
六月十二日。
母が告発した二日後。
真壁が読み上げる。
「質問。A-07への送金を行った事実を認めるか」
続いて奈緒の回答。
「認める。ただし、自分の判断ではない」
「質問。誰の指示か」
そこだけ、
黒く塗り潰されていた。
「会社側が消した?」
私が訊く。
「原本の時点で消されています」
真壁が紙を光に透かした。
「修正液じゃない。コピーする前にマーカーで潰した可能性が高い」
次。
「質問。水城千佳による告発についてどう思うか」
奈緒の回答。
千佳さんに裏切られたと思っています。
胸が痛んだ。
次の行。
あの人だけは私のことを分かってくれていると思っていました。
私は読むのをやめた。
「母は奈緒さんに信用されてたんですね」
榊原が頷く。
「一番仲が良かった」
「なのに告発した」
「そう」
「どうして?」
榊原は答えない。
私は声を強めた。
「もう『知らない』はやめてください」
「本当に知らないの」
「直属の上司だったんでしょう」
「だから分からなかったのよ!」
榊原が叫んだ。
「私にも何も話してくれなくなった!」
部屋が静まる。
「六月に入ってから、二人とも変だった」
榊原は続けた。
「千佳は奈緒さんを避けるようになった。奈緒さんは何度も千佳を追いかけてた」
「喧嘩したんですか」
「そう思ってた」
榊原の目が、隠されていた封筒へ向く。
「でも違ったのかもしれない」
真壁が一枚のメモを取り出した。
母の字。
奈緒さんを会社から出す。
その下。
恨まれてもいい。
私は息を止めた。
さらに続いている。
ここにいたら、あの人たちに使われ続ける。
「これ……」
私は何度も読んだ。
「母は奈緒さんを追い出そうとしていたんじゃない」
真壁が言う。
「追い出すこと自体は事実でしょう」
「でも目的が違う」
私は母のメモを指した。
「会社から逃がそうとしてた」
榊原が椅子に座り込んだ。
「だから告発したの……?」
「懲戒処分になれば、奈緒さんは送金処理から外される」
真壁が言った。
「さらに刑事事件になれば、会社内の帳簿も捜査対象になる」
私は顔を上げた。
「会社のお金の流れを、警察に調べさせるため?」
「可能性はあります」
だから母は、
刑事告発を希望する
とまで書いた。
奈緒を罪人にするためではなく、
会社の中身を警察に見せるために。
だとしたら。
「奈緒さん本人には説明したんでしょうか」
誰も答えない。
説明していなければ、
奈緒にとって母はただの裏切り者だ。
恨まれてもいい。
母はそう書いている。
そのとき、真壁が封筒の奥から小さな紙を見つけた。
「これは」
コピー用紙を四つ折りにしたもの。
表に、
奈緒さんへ
母の字。
私は息を呑んだ。
「手紙?」
開く。
短い文章だった。
奈緒さん。
私を許さなくていい。
明日、あなたを会社から追い出します。
胸が詰まる。
その先。
警察にもあなたの名前を出します。
だから、二度とここへ戻らないでください。
高瀬さんにも、雅彦にも会わないで。
父の名前。
私は指を止めた。
A-07のことも忘れてください。
あの子には近づかないでください。
また、
あの子。
写真に写っていた赤いランドセルの少女。
最後。
私が全部引き受けます。
署名。
千佳。
「これ、奈緒さんに渡したんですか」
真壁が榊原を見る。
「知らない」
「渡してない」
佐伯が言った。
全員が彼を見る。
「どうして分かるんですか」
「ここにあるからだ」
佐伯は手紙を指した。
確かに。
渡したなら、母の隠し場所に残っているのは不自然だ。
「渡せなかった?」
私は呟いた。
そのとき、封筒の中からもう一枚落ちた。
郵便局の配達証明。
宛名。
相原奈緒。
差出人。
水城千佳。
発送日。
六月十一日。
手紙を書いた翌日。
「送ってる……」
私は日付を見る。
内容は分からない。
でも母は奈緒へ何かを送った。
真壁が配達記録を見る。
表情が変わった。
「受取人が違う」
「え?」
受領印。
そこに書かれていた名前。
高瀬隆志。
奈緒宛ての郵便物を、
高瀬が受け取っている。
「会社宛てだったんですね」
「おそらく」
真壁が言った。
「つまり、相原さん本人には渡っていない可能性がある」
母は奈緒へ何かを伝えようとした。
でも高瀬に奪われた。
その結果、
奈緒は母に裏切られたと思ったまま。
そして十日後に死んだ。
「その手紙に何を書いたんだろう」
私が言うと、
榊原が突然立ち上がった。
「待って」
「どうしました?」
「奈緒さん、事故の前日に私に言ったの」
榊原の顔から血の気が引いていく。
「千佳から手紙が届いたって」
「でも今、高瀬が受け取ったって」
「そうよ」
「じゃあ、別の手紙?」
榊原が頷く。
「奈緒さん、怒ってた」
「何て書いてあったんですか」
「見せてもらった」
榊原が震え始めた。
「覚えてますか」
「一行だけ」
私は待った。
榊原が私を見る。
「千佳の字で――」
声を落とした。
「『六月二十一日、午後十一時半に指定した場所へ来て』って」
佐伯の顔が凍った。
佐伯の息子が事故に遭った日。
午後十一時四十分。
「母が奈緒さんを呼び出した……」
「違う」
真壁が即座に言った。
私は見る。
「なぜ?」
真壁は母の手帳を開いた。
六月二十一日の予定欄。
母自身の字で、
奈緒さんを絶対に外へ出さない。
さらに、その下。
偽物の手紙に気づいて。
私は息を止めた。
「偽物……」
なら、
奈緒を事故現場へ呼び出した手紙は、
母が書いたものではない。
誰かが、
母の名前を使った。
今、
誰かが私の名前を使っているのと同じように。
高瀬の死亡登録。
榊原への死亡通知。
そして十五年前は、
母の名前。
「犯人は昔から同じことをしてる」
私が言った。
真壁が頷く。
誰かの名前を使う。
誰かの文書を偽造する。
誰かを別の誰かへ憎ませる。
そして、
人を死なせる。
私は母の告発書を見た。
奈緒を告発したのは、
確かに母だった。
それは消えない。
けれど、奈緒を死の場所へ呼び出したのは別人だ。
真壁が最後の資料を取り出した。
「水城さん」
「はい」
「もう一つ、妙なものがあります」
それは、
母が会社へ提出した告発書の原本だった。
通報者。
水城千佳。
私はもう一度見る。
そこで気づいた。
「……字が違う」
署名だけではない。
母の手帳と、
わずかに違う。
真壁が言った。
「筆跡鑑定に回します」
私は紙を見つめる。
母は奈緒を告発している。
そのはずだった。
でも。
もし、
この告発書まで偽物だったら?
そのとき榊原が小さく言った。
「おかしい」
「何がです?」
「六月十日、千佳は会社に来てない」
私は振り返った。
「え?」
「この告発書を提出した日」
榊原は言った。
「千佳はもう、会社を辞めてたからじゃない」
首を振る。
「それだけじゃないの」
「じゃあ何ですか」
「その日、千佳は入院してた」
部屋の空気が変わった。
「どこに?」
榊原は答えた。
「岸本総合病院」
柿崎修一がいる病院。
そして続けた。
「だから六月十日、千佳がこの告発書を会社へ持ってくることはできなかった」
コメント
1件
読んだよ…第14話、めっちゃ重くて切なかった😭 母さんの告発には奈緒さんを守るための裏があったのに、手紙は高瀬に奪われて、奈緒さんは裏切られたまま亡くなったってのが辛すぎる…。それに、母さんの告発書自体が偽物の可能性!? そして今の主人公も誰かに名前を使われてる感じがして、犯人が十五年前から同じ手口でやってるってのがゾッとする🫨 続きが気になりすぎるよ〜!