第94話 大和国の貨物検査
港は朝でも薄暗い。
天井の高い倉庫に、淡緑の誘導光が床を区切って走っている。
潮の匂いはしない。空調がそれを遮断しているからだ。
大和国貨物船は、音もなく接岸していた。
船体は灰色。塗装に反射は少なく、どこから来た船かは分からない。
船名も大きくは表示されていない。必要がないからだ。
荷が降ろされる。
コンテナはそのまま街へは行かない。
必ず、ここを通る。
安心貨物検査区画。
入口に立つ職員は、淡緑の作業服。
体に沿った形で、余計な装飾はない。
腰には端末。視線は荷物ではなく、数値を見ている。
その隣に立つ男性は、船員だろう。
水色のインナーに、少し擦れた灰の上着。
髪は短く、塩気で固まっているが、表情は落ち着いている。
荷物が一つ、ベルトの上に置かれる。
箱ではない。個人持ち込みのバッグ。
開けられる。
許可は不要だ。
中から出てきたのは、透明な小袋。
色のない錠剤が整列している。
端末が短く振動する 。
外物薬
医療用ではない。
大和国基準外。
「これは持ち込めません」
声は穏やかだ。
責める調子ではない。
「治療のつもりだった」
返事は淡々としている。
だが、説明は不要だった。
袋は、その場で回収箱へ入れられる。
箱の中は見えない。
見えなくていい。
次の検査。
別のコンテナが開かれる。
中には木箱。外装は無傷。
センサーが反応する。
数値が跳ねる。
持物付着外来種。
微細な種子。
目では見えないが、検出されている。
外来という言葉は使われない。
絶賛外物、という分類だ。
繁殖経路不明。
環境影響未評価。
安心指数不安定。
木箱は、そのまま別レーンへ送られる。
中身が何であったかは記録されない。
重要なのは、通さなかったことだ。
さらに検査は続く。
古い紙束。
過去の雑誌。
海外製の玩具。
どれも、危険ではない。
だが、安心を揺るがす可能性がある。
紙束は回収。
玩具は分解。
雑誌は内容確認ののち、処理。
最後に残ったのは、布で包まれた小さな箱。
開く。
中には、意味の分からない装飾品。
用途不明。
由来不明。
端末に表示される分類。
絶賛外物。
「これは?」
問いは出るが、答えは求められていない。
箱は静かに閉じられ、処理ラインへ送られる。
検査が終わる。
船員は何も言わず、指示された出口へ向かう。
背中はまっすぐだ。
ここでは、感情を持ち込まないのが普通だ。
外に出ると、街はいつも通りだった。
貨物は整理され、必要なものだけが流通する。
港に危険は残らない。
不安も残らない。
大和国では、
危ないものを排除しているのではない。
安心に合わないものを、
入れないだけだ。
それが貨物検査の役目であり、
この国の日常だった。







