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ふわねこカラメル
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つうん
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「いってらっしゃい、春仁さん」
朝の柔らかな光が差し込む玄関。主婦である私は、おっとりとした手つきで、夫である春仁さんのスーツの襟元を整える。
私の胸元まで伸びた艶やかな黒髪が、白いワンピースの肩にさらりと流れる。
私たちは、今日も《今日》を繰り返す。
「……行ってきます。栞」
仕立ての良いスーツに身を包んだ春仁さんは、背をかがめて栞の視線に合わせるように私の名前を呼ぶ。
知的な眼鏡の奥にある瞳。いつもの声色、いつもの表情――しかし、その中に私はわずかな違和感を覚える。
その瞳に宿る、静かな決意。
彼は、このループを終わらせる気だ。
「…….今日は、春仁さんの大好きなエビフライを用意して待っていますね」
私がいつものように微笑むと、春仁はほんの少し寂しげな表情を浮かべ、「……うん」とだけ答えてドアを開けた。
私は、自分のおなかをゆっくりとさする。
彼が見えなくなった瞬間、私は台所へ向かい、美しく研ぎ澄まされた包丁を手に取った。
そして、白い服をなびかせてながら家を飛び出し、近くの神社へと向かった。
このループを終わらせるわけにはいかない。
包丁を握りしめ、静まり返った境内の木陰で待ち伏せをしていると、案の定、春仁さんの姿が現れた。
高い背を少し丸め、サラリーマンには似つかわしくない金属バットを強く握りしめて、奥にある古びた祠(ほこら)へと向かっていく。
(……やっぱり。春仁さんはループの解除方法を知っている)
(あの祠を壊せば、この終わらない《今日》から抜け出せると知っている)
春仁が大きくバットを振りかぶる。その背中に向けて、私は音もなく突進する
純白のワンピースが風をはらみ、鋭い刃先が彼の背中を深く突き刺す。
「栞……何で……っ」
眼鏡が地面に落ちて甲高い音を立てる。
驚愕に目を見開く春仁の耳元で、私は優しく囁く。
「春仁さん、愛してる」
飛び散った彼の鮮血が、栞の白い服を斑点模様に染め上げ、祠の木肌にビチャッと赤黒く飛び散る。
春仁さんが自分に殺されたことで、この世界のルール――ループの条件が満たされた。
時は、静かに巻き戻る。
「いってらっしゃい、春仁さん」
朝の光、いつもの玄関。
私たちは、今日も《今日》を繰り返す。
目の前に立つ春仁の制服のようなスーツ姿も、眼鏡も、何一つ変わっていない。
ただひとつ、彼の瞳に明らかな警戒の色が滲んでいることを除いて。
(___春仁さんが私に殺されるのは、これでちょうど100回目。)
どうして彼は諦めてくれないのだろう。
ループが終わって《明日》が来れば、彼は交通事故に遭って死んでしまうのに。
彼をこの世界から失わないためには、こうして《今日》の中に閉じ込め、殺し続けるしかないのに。
「……ねえ、春仁さん。今日は、仕事を休んで一緒にいてくれない?」
おっとりとした声で、私は懇願する。
「……そういう訳にはいかないよ。大切な仕事があるんだ」
「その仕事って、私よりも大事……?」
「君を大切だから、仕事に行くんだ」
二人の会話は、どこまでも平行線のまま交わらない。
「…….ねえ春仁さん。本当はまた、祠のところへ行くつもりなんでしょ」
春仁の身体がびくりと強張る。栞は背後に隠していた包丁を、ゆっくりと目の前に突き出す。
「お願い、行かないで。私を一人にしないで」
「……こんなの間違っている!! 僕に縛られて、君がいつまでも《今日》に縛られるなんて、あってはならないんだ!!」
「どうして!? 他のことなんて心底どうでもいい!!私は春仁さんだけいてくれたらそれでいいの!! 中学生だった頃、私をあの酷いいじめから救ってくれたじゃない!! 春仁さんは私の全部なの!!おねがい!!,私を一人にしないで+!」
「栞……」
泣きながら、私は彼の胸に包丁を突き刺す。
春仁さんは、どうしようもなく優しい。
自分より二回りも背が大きくて、力だって強いはずなのに、彼は私を傷つけることを恐れて、いつだって一切抵抗せずに殺されてくれる。
「愛してる! 愛してる! ……愛してる!!」
狂ったように叫びながら、何度も刃を振るう。白いワンピースが、彼の血で赤く染まっていく。
春仁の眼鏡の奥の瞳から、だんだんと生気が失われていった。
春仁さん。こんな風にしか、あなたを守れなくてごめんなさい。
それでも私は、あなたのいない《明日》なんて想像するだって嫌。
春仁さんの心臓が完全に止まった。
時は、巻き戻る。
「いってらっしゃい、春仁さん」
101回目の朝。私は、何事もなかったかのように微笑んで彼を見送る。
「……いってきます。栞」
春仁さんは諦めたような表情で私にそう言う。
彼はまた、あの神社の祠へと向かうのだろう。
私はおなかをゆっくりとさする。
どうかもう少しだけ、あのダミーの祠に気づかないでいてください。
本物の『祠』は、私のお腹の中。
私を殺さない限り、この世界が明日を迎えることは絶対にない。
どうか、もう少しだけ、気づかないでいてね。
「ふふ……」
私はいつものように、愛しい彼の背中を愛おしそうに見送った後、そっと包丁をポケットに忍ばせ、彼の後ろ姿を追って歩き出した。
コメント
1件
え、ちょっと待って待って待って?!?!😭💦💦💦 栞さんが春仁さんを♡♡♡まくってループに閉じ込めてるの、100回も…?!しかもお腹の中に本物の祠が…って、、それもう呪いとか愛とか超えてるよぉ…😨💔 でも「あなたを失いたくない」って執着が切なくて、狂気と純愛の境界線がわかんなくなっちゃう、、トド村さんマジで天才?この歪な愛、癖になる…🥺💘 続き…というか前日譚とか、中学生時代のエピソードも読みたすぎる!!次回も絶対泣きながら読むからね💦✨