次の日の昼休み、葉月が休憩室で弁当を食べていると、大崎が缶コーヒーを片手に歩いて来た。
大崎は昨日まで有休を取っていたので、しばらくゆっくり話をしていなかった。
「芹沢ちゃん、前いい?」
「どうぞ。あれ? 大崎さん、日焼けした? 休みの間、ゴルフでも行ったの?」
「実は、土曜日に娘の運動会に行ったんだ」
「え? 行けたの?」
「うん。前日に元嫁からメールが来てさ……」
大崎は少し照れながら、缶コーヒーをプシュッと開けた。
「えーっ、良かったねー! わぁ、なんか泣けてきちゃう」
葉月の目はうるうるしてきた。
「離婚して以降、芹沢ちゃんにはいろいろと話を聞いてもらっていたからさ、本当に感謝してるよ。これで俺もようやく一歩前に踏み出せたかな?」
大崎の瞳も、どことなく潤んでいる。
「そうそう、まずは最初の一歩だよね。それに、大崎さん達は憎しみあって別れたわけじゃないから、きっと大丈夫よ。頑張れ!」
「サンキュー。それと、俺、芹沢ちゃんに、ずっと謝らなくちゃと思ってたんだ…」
「謝るって何を?」
「この前、つい気安く誘っちゃっただろう?」
「あ、うん。でもそんなの全然気にしてないよ」
「いや、あの時は本当に悪かったと思ってる。あの時の俺は、どうかしてたんだ。元妻から連絡が来ないから、少し自暴自棄になっていたのかもしれない」
「うんうん、わかるよ。不安を抱えている時って、どうしてもそうなっちゃうよねー」
「うん。でも、今回改めて自分の本心がわかった気がする。俺はやっぱり、元妻や娘とやり直したいんだってね」
「良かったじゃん。自分の気持ちにちゃんと気付けたならさ」
「うん。少し遠回りしちゃったけどな」
大崎の目が、少し充血しているのを見て、葉月はわざと明るく笑いながら言った。
「いつも元気な大崎さんが、シュンとしてると変よ。ねぇねぇ、運動会の話を聞かせてよ。娘さんどうだった?」
「それがさー、観客席に俺がいるのを見て、あいついきなりピースしてきやがったんだよー」
「お父さんが来てくれて、嬉しかったのねー」
二人はしばらく、運動会の話で盛り上がった。
大崎の話によると、元妻のよそよしさは、以前よりもだいぶ和らいでいたらしい。
父親の姿を見て喜んでいた娘も、徒競走では見事に一位を取ったそうだ。
(良かった。この分なら、元の鞘に収まるのも時間の問題かも)
葉月は、心からホッとした。
すると、今度は大崎が葉月に聞いた。
「で、そっちはどうなの? 合コンのその後の進展は?」
「進展なんて、あるわけないじゃない。あれは、ただの飲み会だもの」
あの日帰り際、葉月は舟木に連絡先を聞かれたが、その後特に連絡はない。
その時、葉月は突然賢太郎のことを思い出し、あの後偶然二度も彼に会ったことを、大崎に話した。
「へぇー、そんな偶然ってあるんだなー」
「うん、びっくりしちゃった」
「で、今は隣のマンションに住んでる? すげーな」
「うちの息子が彼の大ファンでさぁ、そりゃあもう大騒ぎよ」
葉月は、息子の航太郎が賢太郎のことを尊敬し、彼を目標にしていることを話した。
「でも、なんかわかる気もするな。だって、あの若さで、鉄道写真界隈ではトップレベルの人だからなー」
「そうみたいね。それに、写真以外にもいろいろやってるみたいだし」
「あ、それは俺も昔、なんかの記事で見たことあるよ。ボランティアみたいなことをやってるんだろう?」
「そう」
「で、どうするの? これから?」
「どうするって、何を?」
「せっかくお近づきになれて、ご近所さんなんだろう? だったら、ここは息子君のためにもママがひと肌脱がないと」
「まさか! テレビに出るような有名人に、気安く声なんかかけられるわけないじゃない」
「でも、こんな偶然、めったにないぞー?」
「それはそうだけど」
「ま、もし芹沢ちゃんが、今の状況を変えたいと思うんなら、自分から動かないとな」
「自分から動く?」
「そう。俺だって元妻からの連絡を、ただじっと待ってただけじゃないんだぞ? プレゼントや出張土産を定期的に送ったり、こまめにメッセージを送ったり? とにかく常に努力はしてきたんだ」
「そうなんだ。大崎さん、偉いなぁ」
「ハハッ、だから、芹沢ちゃんもそろそろ動く時期なんじゃなの? これは神様が与えてくれたチャンスかもしれないんだから」
「神様が与えてくれたチャンス?」
「そう。じゃなかったら、普通偶然三回も会うか? だから息子君のために頑張ってみたら? じゃ、俺、タバコ吸ってくるわ」
「あっ、タバコ、まだやめてない!」
「来週から禁煙がんばりまーす」
大崎は、声を出して笑いながら休憩室を後にした。
(神様が与えてくれたチャンス……?)
その日、仕事を終えた葉月がアパートの前を歩いていると、突然101号室の扉がバーンと開いた。
そして中から莉々子が出て来る。
「葉月ちゃーん、お帰り―!」
「ただいま。その後不具合ないですか?」
「全然問題なしよ、ありがとうー。でさ、お礼っていうのもなんだけど、久しぶりにみんなでバーベキューパーティーでもしない?」
「バーベキュー?」
「そう。うちの実家、兵庫でしょう? 昨日母親から電話がきて、知り合いのところでいいお肉が安く買えるから、今度送るって言うの。だからそのお肉で、みんなでバーベキューパーティーでもしない? ほら、葉月ちゃんのお父さんがいた頃みたいにさ」
「そのお肉って、もしかして但馬牛? 前にもいただいて、すごく美味しかったアレ?」
「そうよ、但馬牛」
「わ、あんないいお肉でバーベキューなんて贅沢! そういえば父がいた頃は、庭でよくワイワイやってましたねー」
「そうそう。あの時みたいにやろうよ」
「いいですねぇ。じゃあいつにします?」
「今度の土曜日はどう?」
「大丈夫です。航太郎、但馬牛好きだから喜ぶわー」
「フフッ、じゃ、夕方の三時くらいから準備して、四時から始めようか」
「オッケーです。じゃあお野菜と飲み物はうちで用意しますね」
「ありがとう。うちにも、まだ開けてないワインとかいっぱいあるから、持って行くね」
「助かります」
「アパートのみんなにも言っとくねー」
「お願いしまーす」
「じゃあ土曜日の三時にねー」
「はーい」
葉月は莉々子に手を振ると、自宅の前まで行き鍵を開けて中へ入った。
コメント
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そのバーベキューに賢太郎さん御招待決定だね。神様がチャンス作ってくれたよ。この前🚪直して頂いたお礼ですってね。葉月go go
大崎さん、マメ男だったんですね~🤭 娘ちゃんのピース✌に涙目(T_T)になったり、プレゼント🎁、出張土産送ったり、優しいね~🥹 元鞘目指して、禁煙🚭頑張ろう✊💨💨 莉々子さん、いきなりドア🚪バーン💨💨て激しい人ね🤭 但馬牛でバーベキューってなんて豪華😆✨ 端っこで参加したいわぁ🤩⤴️⤴️ 賢さま、お誘いのチャ~ンス🤩✨🤩✨
大崎さん🥹元鞘まであと少し🥹 莉々子さんナイス💖 バーベQ🥩なら、賢太郎さんを誘いやすいね🤭 私も肉持っていくさかい参加したぁい😆