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「──でさ、今日の“演技”、また進化してた」
蓮司はグラスの氷を指先で転がしながら、
ベッドに寝転ぶ沙耶香のほうを横目で見た。
「演技?」
沙耶香の声には、興味と、少しだけ熱が混ざっていた。
「教室で“俺の彼氏だよ”って言ったんだよ。日下部の前で。急に」
「……遥が?」
「うん。面白くない? こっちはただ軽く煽ってただけだったのに。
あれは、相当焦ってたな。多分、日下部に“見透かされる”のが、怖かったんだと思う」
「ふぅん……それで、あんたは?」
「もちろん乗ったよ。
“本当に恋人っぽく見せる”ってことの、エグさってあるじゃん。
遥、今もう、自分で自分が何言ってるかわかってないよ」
沙耶香は少し笑った。
目を細めて、冷たいまなざしで蓮司を見つめる。
「それで、今どこまでいったの。あの子」
「“痛み”を演じる余裕は、まだある。
けど、“逃げ道”を与えると、そこに縋る癖があるね。
今回は“付き合ってる”って嘘が逃げ場になった。でも──」
「でも?」
「もう、それも崩してやろうと思ってる。
“自分で選んだ”って嘘を、俺の手で終わらせてやる」
沙耶香は小さく頷いた。
それは、まるで蓮司の“教育方針”を認める保護者のようだった。
「……あの子、ねじれてるけど、壊れきってない。まだ芯がある」
「あるね。しかも、すごく狭くて深いとこに」
「ちゃんと、潰してあげて。見たいのよ。
“全部終わった”あとの、あの子の目。
今のはまだ、抗ってる顔。甘い」
蓮司はグラスの中の氷を飲み干しながら、
沙耶香の髪を指先で弄んだ。
「……任せてよ。
俺、この“恋人ごっこ”──
壊れてくの、ちゃんと楽しむつもりだから」
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