テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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翌朝、しずくシェルターの奥の机には、紙が山になっていた。ニカットが一枚ずつ順番をそろえ、日付の書き込み漏れを確かめている。
サベリオはその前に立つなり言った。
「橋の申請、まだ通ってないの」
ニカットは顔を上げずに答えた。
「拡声器の追加分と、仮設灯りの扱いが保留です」
「急いだほうがいい」
「急いでいます」
「もっと強く言えば――」
「強く言って通るなら、昨日のうちに終わってます」
机の上に置かれた筆先が、そこでようやく止まった。ニカットはまっすぐサベリオを見る。
「手順を飛ばすと、当日に差し止められます」
「でも間に合わなかったら意味がない」
「筋を通さないと、通ったあとで意味がなくなります」
正しい。正しいのに、サベリオの胸には焦りだけが積もっていく。雨は待ってくれない。事故も待ってくれない。自分はそれを知っているのに、目の前の紙は一枚ずつしか進まない。
「前例がないんです」
ニカットは声を少し落とした。
「橋の上で録音を増やして、灯りの位置も変えて、さらに観客導線まで組み替える。役所が慎重になるのは当然です」
「当然じゃ困る」
「困るから、今ここで書いてるんです」
言い返されたサベリオは、机の端を握って黙った。怒っているわけではないのだ。ニカットはただ、自分のやり方で祭りを通そうとしているだけだ。
その時、ホレが通りかかって紙束をのぞきこんだ。
「手伝えるところある?」
「この写しを三部」
「了解」
当たり前みたいに持っていく。
ミゲロも顔を出して、「届けるだけなら走る」と言う。ニカットは少しだけ肩の力を抜き、必要な行き先を短く伝えた。
サベリオはそれを見て、はっとした。
自分は急げと迫るばかりで、ニカットが何を抱えているか見ていなかった。書類は遅い。けれど、人の足と手が増えれば少しは早くなる。
「俺も行く」
そう言うと、ニカットは一瞬だけ意外そうな顔をした。
「どこへ」
「通すために必要なところ。怒鳴るのはやめるから」
その言い方に、ホレが小さく笑った。
ニカットはため息をひとつ落としてから、紙の束を差し出した。
「じゃあ、管理棟へ。窓口で印をもらってきてください。折らないで」
「わかった」
紙は思ったより重かった。けれどその重さは、橋板や工具とは別の種類の現実だった。
死に戻っても、手順は飛ばせない。
サベリオは紙束を胸に抱え、走り出した。